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じっとしている訳には

今日は「東京に8年間暮らしてよかったこと、よくなかったこと」というタイトルの記事(近日公開)を書こうと思っていたのだが、末尾に載せようと思っていた文章が思いのほか長くなってしまったため、独立させることにした。

東京から地方移住してはやくも三年目、年が明ければ四年目になる。

地方移住後の生活は、楽しいこともあれば思い通りにいかないこともある。しかしそのどちらも、東京時代を否定する…東京を懐かしまない、東京を出たことを後悔しない…ことによって成り立っている一面がある。

例えば「東京では満員電車が大変だった、物価が高かった、子育てする環境ではなかった」とは、何も我が家に限ったことではなく、地方移住の理由としてしばしば見掛けるものだ。
それが地方移住により「公共交通機関がすいていて、物価が安く、子育てに適したのんびりした環境」が得られ「本来の」人間らしい生活ができるようになった、というストーリーが描かれる。今や地方移住は理想的な自己実現の形の一つとなっている。

しかし、地方が「現代の桃源郷」だとは限らない。ネットニュースでは、都会の喧騒を離れ自然たっぷりの地方に移住した家族の明るくのびのびした生活を伝える一方で、地方の閉塞感や人間関係トラブルに疲れて引き上げる家族の悲劇的な末路も報じる。地方自治体が掲げた「移住してくるなら溶け込む努力をすべき、都会風を吹かせるな」という文書を批判的に取り上げるニュースや、田舎暮らしYouTuberが住民とのトラブルを告発するというセンセーショナルなニュースを目にした方もいるだろう。それらは新しい問題のように見えるが、元々地方、田舎が秘めていた、そして都市を目指した人々が嫌ったところの閉塞感や人間関係の面倒臭さといった課題が改めて首をもたげたに過ぎない。
これからも都市を目指す人々は引き続き都市を目指すし、その動きを止めることは難しいだろう。目指す人々を阻むような動きはあってほしくない。

ここに付け加えたいのは、東京で暮らそうと、地方や田舎で暮らそうと、女性が生きる(仕事をすること、子育てをすること)上で困難が多いのは全く変わらないのではないかということだ。

東京で正社員をしていた時は、男性並みに働くことが求められ、妊娠出産をする年代の女性を抑圧するような社員が人の上に立っていた。そして、組織の側もそれを半ば容認していた。地方移住をきっかけに正社員の仕事を辞め、代わりに夫が念願の正社員の職を得、幸い子供にも恵まれた。
今から10年ほど前、当時の安倍政権は「地方創生」を掲げた。大都市への人口集中の是正、地方での雇用の安定、人口増がうたわれ、そのためには女性の活躍も欠かせないとされた。我が家はあたかもその青写真をなぞったかのような様相を呈している。

しかし、女性の活躍は…?

地方では、これまでの経験を活かせそうな仕事はたいてい非正規の低賃金労働ということになっている。妊娠前、ハローワークへ仕事の相談に行くと、窓口で「お子さんが生まれると就職は難しくなりますよ」言われ怒りに燃えたが、知人からは「期待させるんじゃなくてはっきり言ってもらえて逆によかったのでは」と諭され、冷静になった。妊娠出産後、旅行、遠出好きの実家の両親の協力もあり時々手伝いにはきてもらっているが、それでもワンオペ育児が生活の基本だ。保育園の見学や、わたしや子供の将来についても話しをしたいのだが、夫は仕事が忙しく、二人とも日常生活を送るだけで体力も気力も奪われ、時間だけが過ぎていってしまう。このままでは育児しながら仕事をするイメージなど描けない。再びハローワークへ行き、育児中の女性に理解がある会社の求人リストを見せてもらうと、介護や医療といった低賃金重労働の仕事ばかりが並んでいた。在宅勤務について情報を集めようとオンラインミーティングで転職エージェントにかけあうも、面接につながらないと分かるや「突然仕事を休んだりしたら迷惑になりますし」、「お子さんが5歳くらいになるまでゆっくりされてはいかがですか」と言われてしまった。基本的には「子供が小さいうちは女性があくせく働くことなんてない」という土地柄なのも、なんとなく感じる。

夫は「わたしがいるから大丈夫」などと言うが、この先のことについて全く話しもできていないのに一体何が大丈夫だというのだろう。一人で二人養っていくのはこの先難しいはず(今の生活を維持できているのはわたしがこれまでの貯金を切り崩しているからだということをどれだけ自覚してくれているのだろうか)、と指摘すると「甲斐性がないと言われているみたい」と憤慨するが、甲斐性などというツチノコみたいなものはどっちでもよく、現実の話がしたいのである。

女性の活躍って、子供を生んで家にいろということだったかしら…?

女性は、田舎から東京へ出ても苦しい。
東京から地方へ移住しても苦しい。
なぜなら、田舎だろうと都会だろうと、日本社会の根本精神が変わっていないからだ。

自己責任だと言われたらそれまでだ。医師や看護師などのように、手に職をつけておかなかった責任。稼ぎのよい配偶者と結婚しなかった責任。地元を遠く離れた責任。

悔しければ自力で立ち上がる。もしくは、自分のような人間を心から受け入れてくれる環境を探し続けるしかない。だから、助けがあろうとなかろうと、家でじっとしている訳にはいかないのだ。

🍩食べたい‼️