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【ショートショート】要精密検査

(617文字)

「要精密検査」の連絡を受けた。
何事もないと思いつつも、やはり最悪の事態を想像してしまう。
私がいなくなったら、日本の政治はどうなるのか。
国会議員になって25年。政権を担う我が党で要職を歴任してきた。
私たち国会議員にとって、国民が主だということを忘れずに、クリーンで透明性のある政治を目指してきた。

とはいえ、多少の必要悪は仕方ない。政治の潤滑油とも言える。
人々が権力に群がる、これはもう仕方がないのだ。
彼らからの献金、それに違法性があろうが無かろうが、受け取らなければ彼らは我が党から離れていく。そうなれば与党でいることはできなくなるかもしれない。
野党になれば、思うように国を動かすことはできない。
我が党の政治は必ず国民のためになる。そう信じている。
もちろん、そこからこぼれ落ちる人たちもいるだろう。近頃では、そうした人たちが多いとも指摘されているが、我が国の繁栄のために多少の犠牲は仕方がない。
さて、そろそろ精密検査の時間だ。

「博士、ここのアルゴリズムが狂ってますね」
助手がAIロボットに繋いだパソコンの画面を見ながら指摘する。
クリーンで透明性のある政治は人間には無理だと結論が出て、AIロボットが議員を務めるようになって50年。
ベテランになり、要職を務めるようになると必ず同じアルゴリズムに支障を来たす。
学習を重ねてより賢くなるAIは、ずる賢くもなってしまう。
権力。
この麻薬には、人間も人間が作り出したAIも、打ち勝つことはできない。

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