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【ショートショート】どこにでもある安心

(643文字)

登山口から見る真っ白な頂きの後ろには、濃い青の空が広がっていた。
私たちパーティは、今季初の雪山登山が絶好の天気に恵まれたことに笑顔を交わしながら、頂に向かって出発した。

ところが天候は急転。樹林帯を抜け、森林限界に出たところで吹雪となった。
視界が悪くなる中、撤退も考えたが、晴れの予報だったことが捨てきれず、もう少ししたら回復するのではないかという希望的観測で、私たちはゆっくりと進んだ。

しかしその後も天候は回復せず、視界が利かないほどの雪と強風の中、どちらが頂上なのかどころか、上下の感覚さえ失われていく。
そう、ホワイトアウトだ。
命の危険を感じて、天候回復までビバークをしようとした時、メンバーの1人が叫んだ。
「光だ!」
彼が指差す方を見ると、確かに光が玉のようになって浮かんでいる。
あんなところになぜ光が?
山小屋などはないはず。幻覚じゃないのか?
しかし、藁にも縋る気持ちで、私たちは光に向かって進んだ。
その光は次第にふたつ、みっつと増えた。
さらに、赤や青などの色も混じる。
どういうことだ?
「何か文字が書いてあります!」
絶え間なく吹き付ける雪が視界を遮る。しかし、確かにどの光にも何か文字が見える。
私たちは雪をかき分けながら、光に近づいていく。次第に文字がぼんやりと読み取れるところまで近づいた。
「マ、マ、マツ、マツモトキヨシ?」
「こっちはカワチです!」
「こっちはウェルシアです!」
助かった。ドラッグストアってどこにでもあるなぁ。
ホント、安心。


くだらないオチでごめんなさい(笑)
娘と車を走らせていて、やたらとウェルシアがあるもんだから、雪山とか、無人島でウェルシアにたどり着くCMがあったら面白くないかな?なんて話してたのをショートショートにしてみました(笑)

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