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【映画】梅切らぬバカ

(2011文字)

■ストーリー

山田珠子は、息子・忠男と二人暮らし。毎朝決まった時間に起床して、朝食をとり、決まった時間に家を出る。庭にある梅の木の枝は伸び放題で、隣の里村家からは苦情が届いていた。ある日、グループホームの案内を受けた珠子は、悩んだ末に忠男の入居を決める。しかし、初めて離れて暮らすことになった忠男は環境の変化に戸惑い、ホームを抜け出してしまう。そんな中、珠子は邪魔になる梅の木を切ることを決意するが・・・。

「梅切らぬ馬鹿」公式ホームページ https://happinet-phantom.com/umekiranubaka/

親の元で暮らす知的障害者は、親が高齢になったり亡くなった後はどうするのだろう。それは以前から疑問に思っていて、だからそうした知的障害者のためのグループホームがあるということも知っていた。
主人公の親子もまさにそのような状況で、母の珠子(加賀まりこ)は、自分がいなくなった時のために、知的障害を持つ息子(塚地武雅)と今から離れて暮らした方が良いという考えと、それでも一緒に暮らしたいという思いに揺れ動いている。
ある日、隣に小学生の子供を含む3人家族が引っ越してくるところから話が始まる。


ここからネタバレあります。


引っ越してきた家族、特に父親は、忠男を厄介に感じている。
そんな中で、子供の草太は、次第に忠男と仲良くなっていく。
やっぱり、子供は先入観や固定概念が薄いので、大人が無意識に持っている差別の意識も少ないのだと思う。それと、人に対する興味、優しくしたい気持ちがある。
珠子は、案内を受けたグループホームに忠男を入居させる。
そのグループホームは、以前から近隣住民による運営反対を受けている。
え?反対?と、ボクにはちょっと違和感があった。この件については後述。
それからちょっとした事件があり、隣に引っ越してきた家族と珠子と忠男親子は打ち解ける。

知的障害者の子供を持つ年老いた親の揺れ動く気持ちが、非常によく伝わってきて切なくなる。
それと同時に、いろいろと考えずにはいられない映画だった。

まず、知的障害者グループホームの開設・運営の反対運動。
前述のように、ボクの感覚だと少しリアリティがないようにも感じた。
そこでネットで検索してみると、実は各地で反対運動があり、そのために開設を断念した施設もあるとのこと。
つい最近もあったようだ。

ちょっとボクの感覚だと信じ難かった。
「地域住民の安全を守れ」
「子どもたちの安全を守れ」
そんなことを言われて反対されるという。
知的障害者を怪物とでも思っているのだろうか。
この映画でも、反対運動をする人がこういう。
「私たちは、安全に安心して暮らしたいだけなんです」
知的障害者には、安全に安心して暮らす権利はないというのか。
実際の反対運動では「土地が汚れる」「見たくない」という、完全に差別としか思えない発言もあったという。
「地価が下がる」なんていう意見はもう、論外すぎて力が抜ける。
ボクはそういう人たちを、心の障害者だと思っている。
そして、いつもこういうケースに触れると、子供を育てている心の障害者たちもいるという、暗澹たる事実に絶望を感じてしまう。
さらに、なぜ不安があるのなら、その不安を払拭する方法を一緒に考えようとせず、ただ排除しようとするのか。社会は自分たちだけで成り立っているというのか不思議でならない。
知的障害者と心の障害者、どちらが社会に悪影響を及ぼすかは明白だ。

自分とは違うものを恐れ、敬遠したがる本能があるのは解る。自分の安全を守ろうとする、それが人間だから。だけどそれがこのケースで当てはまるかどうかをなぜ考えないのだろう。家庭でそうした教育をされてこなかったのか。
ボクにそうした感覚がないのは、子供の頃からそう教育されていたからというのもある。
ボクが育った街には、何人かの有名な大人の知的障害者がいつも通りを歩いていた。しかし彼らをうろつかせるなと文句を言いに行く住民はいなかったと思う。
彼らをからかう子供たちはいたが、ボクの父はそういうことを許さない人で、いつも「一緒になってからかうんじゃないぞ」と言われていた。差別の愚かさを話してくれていた。

この映画では、前述の通り、小学生の草太が最初に忠男に理解を示して仲良くなる。そのことがある事件を起こしてしまうのだが、そのおかげで、差別的な目で見ていた父親も不安を感じていた母親も、忠男と珠子の人となりや置かれた状況を理解するようになる。
相手の立場を考えることができれば、理解することができるということを表している。
「知的障害者」とひとまとめにせず、まず個人として理解すれば良い。
これはあらゆることに言えると思う。
人種、国籍、LGBTQなど、ひとくくりにした時に差別と思考停止が生まれる。
そして、戦争にはこうした思考停止が不可欠だ。

この映画はたくさんの人に観てもらいたいと思った。
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