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ファッションをインフルエンサーで売る~日本と中国との比較~ #インフルエンサーで売る時代は続くのか

以前はファッションブロガーという言い方が流行った時期もありましたが、最近ではインフルエンサーという言葉が定着しています。インフルエンスという語源からも「影響力がある人」となりますが、ではどういう人がインフルエンサーなのかという定義は難しく、多くがSNSのフォロワー数などで判断されるわけです。特にファッションの世界では、インフルエンサーがお勧めすることで購買に直接繋がるので、重要な顧客との接点になります。ファッションでは「コーディネイト」の写真投稿の影響が大きいため、Instagramが活発な活動拠点になると言えます。

日本のInstagramのフォロワー数で言えば渡辺直美さんが最も多くて937万人ということで、彼女が一番となります。確かに彼女の人気は高いので、フォロワー数は多いですが、では彼女がファッション購買に影響があるか?といえば、関与度はさほど高いとは言えないでしょう。

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https://www.instagram.com/watanabenaomi703/?hl=jaより引用

渡辺直美さんは有名人であり人気度としては最高ランクです。しかし、ファッションでいえば、むしろ等身大の人物の方が購買に繋がります。身長がモデルのように高くなく、消費者に近い存在、しかし感性が高くて素敵な人というところが重要になります。ちょうどマイクロインフルエンサーと言われている層が影響度が高いといえそうです。つまり特定の分野に特化していて、信頼度が高い、エンゲージメント率が高いという人たちです。

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https://smmlab.jp/article/what-is-influencer/ アライドアーキテクツ資料より引用

もともと企業が商品やサービスを消費者に伝え訴求していくのは、広告がその役割を担っていました。しかし、昨今の企業広告の誇大表現に不信感を持つ消費者が増えたことから、企業が直接メッセージを出すことはかえって逆効果になり、特定の信頼度が高い人物が中間にはいって、企業と消費者を結ぶということが「インフルエンサー」の役割といえるでしょう。そのためには、彼らは共感できる存在であり、その人の勧めるモノ、サービスを取り入れたいという消費者の購買意欲を高めることが大事になります。しかし、その際には企業が関与するステルスマーケティングには注意が必要になります。

ファッションを扱うインフルエンサーはフォロワー数が単に多いのではなく、エンゲージメント率が高いことが重要になってきます。Instagramのフォロワー数が多くても、いいねの数が少なかったりコメントが少ないということは、見ている人から信頼されていないことになります。つまり、エンゲージメント率が高いとはいえない。フォロワーの30%以上の反応があれば、これはかなり影響度が高いと言われています。そういう人たちは購買に結びつきやすいです。

これはファッション業界でいえば、「販売員」がインフルエンサーの役割を担っています。販売員は店舗で接客をする仕事ですが、彼らはブランドの世界観を商品で表現することが上手です。そして顧客から憧れられる存在。そういうブランドのコーディネイト提案の上手さなどを、店舗だけでなくオンライン上でも表現することがニーズとして出てきました。昨年からのコロナ禍の中では「オンライン接客」「デジタル接客」という言葉が業界では大きなトレンドワードとなりましたが、店舗という空間がなくても、インターネット上でも販売の売上が伸びたのです。

また、最近の新卒採用でも「インフルエンサー枠」というのがあります。学生時代からInstagramの写真がうまく撮れて、フォロワー数が多い人を採用することで、ブランドの購買へとつなげる可能性を評価するのです。またアンバサダーを募集して、ブランドを上手に着こなせる人も採用します。私自身も好きなブランドのアンバサダーによるInstagramを見て、思わず衝動買いをしてしまった経験があります。また、私の勤める杉野服飾大学の、主任として担当する流通イノベーションコースでは、就職のためにも、写真技術やパーソナルスタイリングなどのスキルを伸ばす事を重視して教育に取り入れています。

ファッションの場合には、自分が着たときにどうなるだろう?という現実感を持ってSNSを見ているので、身長サイズを明示することは重要です。スタイルが良い人が配信しても必ずしも購買に繋がらず、むしろ150㎝の小柄の人、160㎝のMサイズの人、170㎝のスラっとした人と、身長差のスタイリングを見せることで、自分ならどうなるかということを当てはめて想像することができます。私も経験がありますが、スカート丈が果たしてどの程度なのかは着てみないとわからない。特に小柄の人や身長が高い人は、店舗での試着がなければサイズ感がわからないという悩みを持っている。それは、私の研究調査でも明らかになっています。その悩みをオンライン上で解決するのが、マイクロインフルエンサーの果たす役割なのでしょう。

こうした、販売員によるオンライン上で接客をしてファッション購買を提供するサービスとして、バニッシュスタンダードの「スタッフスタート」は2020年に大きく活用されました。このサービスの特徴は、スタッフの個人売上を評価できるシステムにあります。それまでは店舗のみの売上目標に対する実績だったのが、ECの個人売上までを人事評価に繋げたことで、スタッフのモチベーションアップと、顧客とのエンゲージメントを高めるという意識につながり、効果を生んだといえます。

このインフルエンサーによるデジタル接客は写真だけでなく、動画やライブによる配信も伸びてきています。ライブコマースです。店舗が休業していた2020年春には、店舗スタッフは積極的にライブコマースで販売をしました。昔からテレビショッピングは年齢層が高い人たちには人気があり売れましたが、これをインターネット上で行うと想像すれば理解しやすいです。今買わないと売り切れてしまう!という臨場感をもって買い物をするのは同様の仕組みだと思います。しかし、これはコロナ禍の一過性のものとも考えられ、果たしてこのままアフターコロナでもこのようなライブコマースは継続していき、伸びていくのでしょうか。

この問題意識から、私の研究室ではライブコマースの先進国の中国の消費者調査を実施いたしました。中国では、コロナと関係なく何年も前からライブコマースで販売をするというのは一般的でした。市場規模は6.4兆円という日本とは比較にならない大きさです。それはリテールの歴史的背景が日本と違うところにあると私は考えています。つまり、日本のように50年かけて店舗や商業施設を育ててきた国と、中国のようにこの20年で急速にリテールが伸びてきた国では事情が違います、店舗が発展する前に、ECが普及してしまったことや、国土の大きさという点からも、老若男女問わず地方でもネットのライブを見て購買をするという事が生活に必要だったとも言えます。その中で、日本のテレビショッピングのように、誰にでも好感度がある芸能人のような人物(いわゆるインフルエンサー)が販売をするということで信頼度を高めていったと推測されます。

私の研究室では、2020年10月~11月に中国のwenjuanとという調査会社に、web調査を依頼しました。中国の上海と北京在住の10代から20代の400人を対象です。その中の質問で、ファッションのライブコマースの視聴経験を聞いたところ、北京は91%、上海は92%と高い割合が出てきました。さらに、その視聴をした結果から購買に結びついたかどうかを質問したところ、北京で73%、上海で62%となっています。上海の方が低いのは、おそらく上海の店舗は発展しているので、店舗に行っての商品確認がある可能性はあります。また、何を視聴しているのかの質問には、圧倒的にアリババの「淘宝直播(タオバオライブ)」が多かったです。「淘宝(タオバオ)」内でもライブは行われていますが、最近は独立したアプリケーションでのサービスも開始しました。下の写真は筆者が実際にアプリで試したものです。

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中国のライブコマースの場合には、インフルエンサーは、KOL(Key Opinion Leader)や網紅(ワンホン)という言い方をしますが、扱う商品やサービスはさまざまで、日本のファッションや美容のインフルエンサーとは少し違うイメージです。タオバオライブの中で人気の網紅(ワンホン)の2人の売上実績が記事で出ています。1位の薇婭(ウェイヤー/viya)2位の李佳琦(Austin)が圧倒的な売上なのがわかります。1ヵ月で170億円以上を売り上げているとのことです。

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https://ecdatalab.nint.jp/2020/05/15/china_livecommerce/より引用

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https://ecdatalab.nint.jp/2020/05/25/ch-kol/より引用

しかし、ここでわかるのはこの2人が販売しているものが、化粧品でも複数のブランドであり、日本のように固定したブランド独自のインフルエンサーという立ち位置とは違います。彼らは有名人・芸能人であり、企業依頼で販売を何でもこなし、また消費者側も彼らのパフォーマンスを楽しみながら購入をするというスタイルなのです。特に商品内容としては、美容関係が多く、ファッションは少ないということもわかりました。

また中国では、TikTokも単なる動画SNSでなく、販売する場として利用されています。TicTocを運営するバイトダンスは、中国国内ではTikTokという名称でなく、「抖音(ドゥイン Douyin)」として発信しています。それについては、黄未来さんが「TikTok 最強のSNSは中国から生まれる」(2019年ダイヤモンド社)に詳しくお書きになっています。彼女は2018年から2019年までバイトダンスに勤務されていました。この本でも述べているように、今後も動画配信による販売というのは中国ではさらに続くだろうと予想されますし、またそれを販売するインフルエンサーも次々と現れてくると思われます。さらに、日本もこのような時代が来るだろうと予測されています。

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中国の事例でもわかるように、時代の流れは「テキスト」「画像」「動画」という順番にオンライン上での販売を伸ばしてきており、日本も若い世代を中心にこの流れになることは多いに予想されます。実は、前述の中国の調査を行ったときに、日本の10代~20代の200人も同時にアンケート調査をしました。しかし、ファッションのライブコマースを視聴した経験者はまだ38%しかいなく、そこから購入に至ったのはわずか11%でした。

これは、まだ日本ではライブコマースは浸透していないという結果と言えるでしょう。2020年では、まだアパレルブランドの社内システムでライブ配信を導入するに至っていなかったことも要因の一つですが、昨年から多くのブランドが自社サイトのライブ機能の構築を始めています。また、日本人特有の、購入の際に「失敗したくない」「返品はイヤ」という心理は、以前の調査からも高比率で出ており、今はまだライブコマースは憧れのインフルエンサーの番組を視聴するだけ、そこからブランドの世界観を感じ取る、商品を確認するところにとどまっているようです。しかし、そこから消費者自身が自分軸でコーディネートを考えて、店舗に行って購入する場合もあるわけです。

ファッションに関しては、私の持論では、中国より日本の消費者は自分軸がしっかりしていると思っています。すなわち、ライブ配信が購買に直結してはいなくても、ブランド認知度やブランドの世界観を理解するためには、日本でも必要な手段だと考えられます。今後の発展過程は中国とは違うスタイルかもしれないですが、特にファッションの場合はライブコマースでのインフルエンサーの活躍の場はまだ伸びしろが大きい市場であると思われます。また、各社が販売員を中心にしたライブ配信を導入してくることも予想され、インフルエンサーで売る時代はしばらく続くのではないかと、個人的には考えています。

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