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かわいい「かひあはせ(貝合わせ)」のお話

平安王朝文学の総決算といわれる「堤中納言つつみちゅうなごん物語」。そのなかの一篇にあった「かひあはせ(貝合わせ)」。

誰か女性を口説こうとバリッとキメた高家の若い貴公子が、夜通し逍遥するも実を結ばず、明け方になってある家を覗きこむと、幼い侍従の子供たちが慌ただしく働いているのを目にする。それはどうやら貝合わせの姫同士の勝負の準備中とのこと。なにやら一方の姫は母もない貧しい家で、それでも貴族として大変美しく物憂げであるのを少将は見て、どうしても勝たせてやりたく、豪奢なとりどりの貝を内緒で贈るという実に可愛らしい物語である(とりわけ平安後期の当時は、洋服の色や重ね着の仕方で個性以上に身分や品格、さては教養の有無まで体現していたといい、このあたりの描写は目を瞠るものがあった)。

この貝合わせとは、その大きさや美しさや豪華さなどを競う、とくに女性向けの貴族の遊びで、源氏の絵が描かれたり、蒔を散りばめた金銀細工だったりしたというので、調べてみるとこんなかわいいのが見つかった。

物語は、性の対象である女性を探していた大人になるにもいまいちなりきれない少年貴族が(これはいい女性を見つけられなかったことで冒頭に仄めかされている)、決してその対象とはならない年少の姫に心奪われる、その好奇心と行動力を描いている。また一方では、好者を気取る少将の優しさと、当時の「美」についても伝えている。

その後姫とのやり取りや、貝合わせの競技自体は述べられることなく、姫たちが喜ぶさまをこっそり覗き見する少将の様子でぷつりと終わるが、終始少将の視線を通して物語を覗き込む私たちの耳には、当の姫と侍従の童たちのうれしい悲鳴が、ときと場所をこえて、いまにも聞こえてきそうである。

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