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デザインの世界への招待状 #2 デザインの学び方

こんにちは。アートディレクターの三宅佑樹(@yuki_miyake)と申します。ビジュアルデザインやブランドコンサルティングなどを行うICVGというデザイン会社の代表をしています。

デザインの社会的活用を推進するためにはデザインをもっと身近な存在にする必要がある。その方法の1つとして、他分野からデザインの世界に入ってみようかなと考えている人をメインの対象として、広い意味での「デザイン」の世界を案内する「デザインの世界への招待状」という連載をお送りしています。

前回記事はこちら↓
デザインの世界への招待状 #1 デザインの世界へ
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第2回は「拡張するデザイン領域」とお伝えしたのですが、諸事情により順番を変更して、今回は「デザインの学び方」をお送りします。

(デザインの道に進むことまでは考えていないが・・という人にも、「デザイナーというのはこういう勉強を経てなるものなのか」という参考にはなるかなと思います)


もちろん、学び方は人それぞれ、千差万別。どれが正解ということはありません。以下にご紹介するのはあくまで1つの参考例です。

デザインにはたくさんの分野がありますが、ひょっとするとどのデザイン分野も学び方は同じなのかもしれないと、記事を書きながら思いました。

それでは早速見ていきましょう。


どんな領域のデザイナーを目指すにしても、その分野の通史と「近代デザイン史」全体の通史は押さえておいたほうがよいと思います。

通史を知っていると、自分の作るものが過去の文脈にどう影響を受けているかが分かり、立ち位置がはっきりして、美醜と是非の判断に自信がつきます。

下の年表は、私が自作した「近代デザイン史年表」(前半)です。

こういった年表は『世界デザイン史』などの書籍の巻末に収録されていたりするのですが(ただし、大体モノクロ)、やっぱり自分で作ると圧倒的に記憶に定着しやすいです。

分野別の年表を作るのも非常に有意義だと思います。

例えばUIであれば、GUIの誕生から、デバイスやアプリケーションの変遷とともにUIデザインがどう変化していったか、レスポンシブ、Material Design、Atomic Designなど、スタイルやシステムの今日に至る流れが一覧でぱっと俯瞰できるとよいでしょう。ぜひ、私も見てみたいです。どなたか・・作ってみませんか(笑)


次に欠かせないのが、名作をとにかく沢山見ることです。

デザインを学び始めた最初の頃というのは、どういうものを作れば良しとされるのかがさっぱり分からないと思います。

なので、最初にまず名作として評価されているもの、つまりは模範回答例を沢山見ることで、「なるほど、こういうものを作ればよいのか」(←もちろん簡単じゃないですが)と、自分の中に基準を作る作業が必要になります。

また、その際、可能な限り足を運んで「実物」を見ることが大切です。

特に建築やインダストリアルといった立体物は、当然ながら実物を見なければその作品の全容を知ることができません。マテリアルの表情、光の入り方、その建築やプロダクトの周囲にどんな空気が流れているかなどは、図版では表現できないからです。

安藤忠雄氏が、1960年代半ばという一般の海外旅行が自由化されたばかりの時期に世界の建築を巡る旅へ出たのは有名な話ですね。

グラフィックデザインのような平面のデザインでも、実物のポスターを見ると、「こんなポスターだったのか」と驚くことがあります。紙の質感、インクや特殊加工まで含めてグラフィックデザインですが、これも図版やWEB画面ではなかなか伝わらないものです。

アプリのUIであれば当然アプリをダウンロードして隅々まで使ってみる、ということになります。

また、名作を見ると同時に、最近のデザインの潮流(表層的な印象を与えないように潮流と書きましたが、要はトレンドです)も把握しておくとよいでしょう。

ただ、その際に、あまり局所的・具体的な表現手法に意識を集中せず、全体的な雰囲気を「感じる」程度にしておいたほうがよいと思います。

特にデザインの学び始めの頃はスポンジのように吸収力が高く、見たものの影響を強く受けやすいので、特定のデザイナーの作る物ばかりを見たり、その人の特徴的な表現手法に意識を集中してしまうと、それをそのまま真似したり、明らさまに影響を受けた物ばかり作るようになってしまう可能性があります。(真似から入ってよい、という人もいるかもしれませんが)


当たり前ですが、実際に作ることをせずして「行為」としてのデザインを学ぶことは完成しません

インターンなどの実務や学校で出される課題が一番良いですが、友人から頼まれたちょっとした制作物や、自分でテーマを考えた自主制作なども含めて何とか制作の機会を作り出し、実際に「自分のデザイン」を作ってみましょう。

そして、作りっぱなしではなく、他者からの批評を受けて初めて「デザインをするとはどういうことか」が体感として理解できると、経験から思います。デザインの経験者や、作ったものを実際に使用する人から批評を受けましょう。

また、この過程を通じて、自分がデザインの制作工程の中でどの作業が好きか/得意か、また、どのようなテイストのデザインが好きか/得意かを把握しておくとよいでしょう。やがてそれが自分のオリジナリティとなっていきます。


今、UIデザインの世界では、主にインターン中の学生の方たちを中心に、有名なサービスのUIをトレースすることで得た学びについてまとめ、シェアする動きが盛んになっています。

Masaki Harutaさん「UIトレースの学びを振り返る
Masakiさん「TwitterのUIトレースをして気がついた事
mottox2さん「イケてる証券サービスFOLIOのトレースをして気づいたこと

建築の世界でも、トレースは伝統的な学習法として知られています。ル・コルビュジェやミース・ファン・デル・ローエといった巨匠たちの名作建築(それに限りませんが)の図面の上にトレーシングペーパーを重ね、上からなぞっていくことで、ただ目で眺めているだけでは分からない粒度の高い気づきを得たり、巧みな空間構成を自分の「腕に覚えさせる」ために行われる学習です。(あとは単純に図面の書き方を覚えるという目的も)

グラフィックデザインでも、自分が美しいと感じる文字組みを上からトレースして、文字詰めがどのようにされているかを検証したり、フォントサイズ(級数)と行間の関係を数値で掴む、という学習法があります。

このトレースを手順3「作る」の後に持ってきたのは、何回か自分のオリジナルのデザインを経験した後でやったほうが、トレースする際の学びが多いのではと思ったためです。自分で実際にデザインをしてみないと、どういうところが難しいのか、なぜこうするのか、といった勘所が分からないと思うので。


手を動かすと同時に、先達のデザイナーたちが書いた著作などを読むことで、彼ら彼女らがどのような考えや思想のもとにデザインという行為をしているのかを知るとよいでしょう。これも手順4の「作る・批評を受ける」と同じくらい、「デザインとは何か」を会得する上で役立ちます。

基本的には自分の興味のある分野のデザイナーが著したものを読めばよいと思いますが、原研哉氏の『デザインのデザイン』はどんな領域の人にもおすすめです。


この手順6は、デザイナーになった後も永遠に続く学習です。

感性(センス)を高めるために、美しい場所を訪れたり優れた音楽を沢山鑑賞するとよいでしょう。様々な分野の芸術や、自分の専門とは異なる領域のデザインを見て得られる刺激も大きいです。ビジュアルの仕事をしている私の場合は、ファッションデザイナーのドキュメンタリー映画からよく刺激をもらっています。

圧倒的なセンスを目の当たりにすると、絶望的な気分になることもありますが、そういう時は間違いなく自分のセンスがまた一段上に上がる時でもあります。自分が敵わないと感じるような圧倒的なものを沢山見たほうがよいです。

また、デザイナーは思考力も重要な資質です。それは、主にデザインのコンセプトの強度、そしてクライアントへの説明力に多分に影響してきます。ビジネス系の書籍をはじめ、社会の動向について書かれた書籍や、歴史・哲学・教養系の書籍を沢山読むとよいでしょう。


もちろん・・


もちろん、関連法規や素材の知識、ソフトの使い方、データの納品方法、といったいわゆる実務的な知識も必要です。が、これらは実務を通じて学ぶのが一番早いかなと思います。ソフトの基本的な操作くらいは実務に就く前に出来るようにしておいたほうがよいかもしれません。


学校で学ぶべきか、独学は可能か


美大やデザイン専門学校で学ぶメリットとしては例えば以下のようなものがあります。(学校によって差はあります。また、大学院は事情が異なります。)

1. それをこなしていくことで「デザインってこういうことかもな」と体で理解できる「課題」が用意されている。
2. 通史など基本的な知識を体系的に教えてくれる。本で学ぶことも可能だが、重要度に応じて要領よく学べる。
3. 大勢の人の前で自分のデザインを発表する機会が沢山ある(デザインの説明をする訓練を積むことができる)。
4. 現役のデザイナーに批評してもらえる機会が沢山ある
5. 同級生の作るものと自分のそれとを比較できるので、相対的に自分の実力がどの程度かを知ることができる。

4と5が最も大きなメリットかもしれません。

ただ、デザインの世界では独学で道を切り開いている人もいます。

美大・デザイン専門学校(の職業と同じ専攻)で学んでおらず、社員として事務所に就職したこともない、という著名建築家・デザイナーには以下のような方がいます。(敬称略)

<建築>安藤忠雄:通信教育の受講、教科書の通読とトレース、旅を通して建築を学ぶ。設計事務所でのアルバイトは経験されています(自著より)。
<ファッション>川久保玲:旭化成退職後、フリーのスタイリストを経てデザイナーに。(スタイル画を学ぶセツ・モードセミナーには通学)
<グラフィック>菊地敦己:武蔵美の彫刻科在学中にデザイン事務所立ち上げ。
<インテリア>森田恭通:テレビ番組では独学と仰ることが多いと記憶しています。一度就職されているようなので、独学→フリーランス→就職→独立ということかもしれません。
※誤りがあれば早急に訂正しますのでご指摘ください。

UIや映像系など、オンスクリーンのデザイン分野では独学で活躍している方が多数いるのではと思います。

個人的には美大やデザイン学校への通学も、デザイン会社や設計事務所での勤務も、可能であれば経験したほうがベターであると考えています。


体験・サービスのデザインの学び方


UXデザイン、サービスデザインといったデザイン領域については、最近では関連書籍も多数出ていて、その分野の基本的な思考方法や設計のためのフレームワーク、ツールなどの知識は書籍を通じて学べるかもしれません。

ただ、造形のデザインで「作る」ことが不可欠なのと同じように、こうした領域のデザインも「実践」をしなければ学ぶことは完成しません。そして、デザインの対象の性質上、実践的な学習を独学で行うのは難しいと言えるのではないかと思います。

基本的には、産官学共同研究を積極的に展開している国内外の大学・大学院で学んだり、企業や行政の中に入って実際のプロジェクトを通じて学ぶことになるでしょう。

また、造形のデザインで「実物を見る」ことが重要だったのと同じで、体験やサービスのデザインについても、どれだけ実際に体験しているか、が重要だと思います。優れたUX、ユニークなサービスとして話題になっているものがあれば、積極的に体験するように心がけてみましょう。


今回も長くなりましたが、ここまでお読み頂き、有難うございました!

次回#3は「拡張するデザイン領域」。いよいよ現在進行形の、デザイン界の最近のトピックスに絡んだお話になってきます。それではまた次回、お会いしましょう!

Twitter / @yuki_miyake:お気軽にフォローをどうぞ。


目次(予定)

# 1 デザインの世界へ
# 2 デザインの学び方
# 3 拡張するデザイン領域
# 4 デザイン界が置かれた現状
# 5 デザイナー像の刷新によるデザイン新時代へ


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