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"Vision is King"の時代?

こんにちは、三宅佑樹(@yuki_miyake)です。

"Content is King"
インターネットが秘める可能性について多くの人がまだ理解しきれていなかった1996年のこと。Microsoft共同創業者のビル・ゲイツ氏が、世界中の言語で綴られたコンテンツが一定量を超えれば、インターネットは世界を変え、ネット上に巨大な市場が生まれるだろうと予想し、"Content is King"と題したエッセイを発表しました。

それから20年と少しが経ち、ゲイツ氏が予想した通り、あるいはひょっとするとそれを遥かに上回るレベルでインターネットが世界を変えた今、次に見えて来始めたのは、
"Vision is King"
の時代なのではないかと思います。

Vision is King

なぜ"Vision is King"なのか。簡単に言えば、最後の差別化要素になると思われるからです。経済が発展し、情報の拡散スピードが加速していくと、機能での差別化、デザイン(スタイリング)での差別化、戦略での差別化が徐々に難しくなっていきます。非常に高度なテクノロジーでも有していない限り、「他にも同じようなサービス/会社はある」という状況はなかなか免れることはできません。そんな中で最後の差別化要素として期待できるのが、ビジョンキャラクター、そこから生まれる文化・物語・世界観空気感です。

ある人が自身の経験を通じて見つけたやりたいこと、目指すこと、哲学。これは他の人が真似をしても意味がないものです。途上国に特に思い入れがない人が、途上国と深く関わってきた人の真似をして「途上国を支えるブランドを作る」をビジョンにするというのは虚しすぎて普通はできないと思いますし、仮に表面的に真似したとしても、その浅薄さは必ず露呈してしまい、誰も付いてこようとしないはずです。ビジョンは模倣不可能性が非常に高いのです。

また、転職が一般化したり雇用形態が多様化して人材の流動性が上がると、職場選びにおける「やりがい」や「企業文化」の重要性はますます高まっていくと考えられます。人材の獲得という面からも、ビジョンの価値は今後一層上がっていくと予想されます。


明確で強いビジョンを持った会社の例

明確で強く、人を惹きつけるビジョンを持った会社にはどのような例があるか、幾つかご紹介したいと思います。

SpaceX
人類の火星移住を実現する
(※HPでは"other planets"(他の惑星)という表現になっています)

マザーハウス
途上国から世界に通用するブランドをつくる

気仙沼ニッティング
被災地に誇りを持ってできる仕事(産業)をつくる

ザ・イノウエ・ブラザーズ
関わる人すべてが幸せになる「ニュー・ラグジュアリー」をつくる
(インタビューなどからまとめました)

ユーグレナ
ミドリムシを活用したバイオテクノロジーで人と地球を健康にする


優れたビジョンの要件

上記に挙げたような、人を魅了する優れたビジョンに共通するポイントは何なのか。その要件としては、次の5つが挙げられると考えます。

1.社会的意義がある
自社の利益しか考えない企業に協力したいと思う人は多くありません。広く社会全体にとってプラスとなることを目指すビジョンを掲げたほうが、多くの人を魅了することができます。

2.ほどよく難しい
簡単に実現できてしまうようなことであれば、わざわざビジョンに掲げるまでもありません。ビジョンとして多くの人を巻き込むためには、実現がある程度難しく、半永続的に目指せるものがよいと思います。

3.具体性がある
目指す状態ややりたいことがどういうものなのか、具体的にイメージしやすいものがよいでしょう。例えば「世界一の企業になる!」だと、何が世界一なのかが分からず、ビジョンとして機能しません。

4.独自性がある
同じようなビジョンを持った会社が他にたくさんあると、そのビジョンは抽象的な建前に聞こえたり陳腐に見えたりして、あまり魅力のあるものになりません。魅力的に感じるビジョンには独自性があります。

5.説得力がある
なぜその会社がそのビジョンを掲げるのか、説得力が必要になります。一般的には、創業者の個人的な体験に紐付いたビジョンにすることで説得力を獲得しているケースが多いと思います。


優れたビジョンがもたらすメリット

次に、優れたビジョンがあると具体的にどのような経営上のメリットがあるのか。これは、大きく以下の3つが挙げられると思います。

1.本当に大切なものに目を向けやすくなる(資源の集中投資)
ビジョンがはっきりしていれば、自社がやるべき事業/やるべきでない事業、自社らしい施策/らしくない施策が明確になるため、時間・資金・人材などの経営資源を必要なものだけに集中して投資しやすくなります。つい色々な領域に手を出してしまったり、打ち出すイメージが散逸してしまいがちで、それゆえに「何をやらないかが大事」とよく言われる企業経営において、明確なビジョンがあることで正しい道にフォーカスできることは大きなメリットとなるはずです。

2.優秀な人材が採用しやすくなる
挑戦しがいがあり、人をわくわくさせ、社会的にも意義のあるビジョンを持つ企業は、それに共感した優秀な人材が(そういったビジョンがない場合と比べると遙かに)メンバーに加わってくれる可能性が高まります。元々こういった傾向はありましたが、働き方の選択肢が急速に多様化してきている今、このメリットは今後一層期待できるのではないかと思います。

3.真似できない価値が生まれる
独自性が高かったり、創業者の体験と深く結びついたビジョン、そしてそれが放つ魅力というのは、他社が真似しようと思っても真似できない、あるいは真似しても意味がないものです。そのビジョンに沿った事業展開や企業文化の構築を行うことで、独自の存在として際立ち、競争に巻き込まれにくくなると考えられます。


ビジョンを伝えるツール

1. ビジョン・ピクチャー
「ビジョン・ピクチャー」という言葉は一般的に浸透しているものではなく、私が勝手に考えたものですが、自分たちの将来なりたい姿や目指すことを視覚的にぱっと見てわかるように表現した写真や絵のことです。

スペースXの本社エントランスの壁には、現在の火星の写真(before)と、人間が移住して緑化が進んだ未来の火星のイメージ(after)を描いた巨大なポスターが貼られており、一目でこの会社が何を目指しているかが分かるようになっています。(下写真 / ※1)

また、動物の習性を利用した"行動展示"と奇跡的な再生物語が話題となり、全国に知られる存在となった旭山動物園の改革も、まず最初に飼育員1人1人が考える理想の動物園像をスケッチに描いてまとめるところからスタートしたそうです。これもビジョン・ピクチャーの好例だと思います。

2. タグライン
タグラインはご存知の方も多いかと思います。CMなどで最後に企業ロゴと一緒に出る短いメッセージです。ブランドステートメントやコーポレートスローガン、コーポレートメッセージなどと呼ばれることもあります(細かく定義を分ける場合もあると思います)。理念やビジョン、ミッションをもとに、それを広告など様々な場面で利用しやすいように一言で強く訴求できる言葉に昇華したものです

Wantedly:「ミッション」として設定
"シゴトでココロオドルひとをふやす"

資生堂:「コーポレートメッセージ」として設定
"一瞬も 一生も 美しく"

このタグラインがあることは、社外だけでなく(というより、社外よりもむしろ)社内への意識付け、文化の共有に大きく寄与すると思います。

3. カルチャーブック
文字どおり企業文化を説明するためにまとめられた冊子やシートのこと。NETFLIXのカルチャーブックについて、フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグ氏が「シリコンバレーから生まれた最も重要な文書かもしれない」(※2)と賞賛したことはよく知られています。日本でもスタートアップを中心にカルチャーブックを作成する会社が増えてきているように感じます。

4.イベント
顧客や事業パートナーをイベントに招待して経営陣のメッセージを届けたり従業員と直接触れ合う場を提供することも、ビジョンを「体感レベルで届ける」非常に有効な方法です。Apple、Salesforce、Airbnbなどがよく知られています。日本でも増えてきており、ヤッホーブルーイングの例など、メディアでもしばしば紹介されています。

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これから会社や組織を立ち上げようとされている方、サービスやブランドを開発している方、節目にビジョンを見直そうとされている方などの参考になれば幸いです。

お読みいただき、ありがとうございました!

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※1 Photo by Steve Jurvetson (CC BY 2.0)
※2 参考:Gigaom "Silicon Valley’s most important document ever"

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