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学習症の不登校(勉強が苦手)

 「不登校は問題行動ではない」の記事の反響が大きかったので、しばらく不登校をテーマにしてこれまでの臨床経験から得られたものをシリーズで記事にしていきたいと思います。

 発達障害の特性のあるこどもは、どうしても不登校になりやすいと言えます。自閉スペクトラム症、ADHD、学習症のいずれもそうです。前々回はADHDの不登校(自己コントロールが苦手)について書きましたが、今回は学習症の不登校について考えてみます。

 学習症の特性については「発達障害を考えるときのキホン4 〜限局性学習症(SLD)〜」に書いていますが、知的な遅れなどの学習に遅れをきすような他の原因がないにもかかわらず、「読む」「書く」「計算する」といった特定の学習に必要な能力だけ、なぜかうまくできなかったりわからなかったりするものを言います。そしてこの特性は、学校での学習だけでなく、心理社会的な面に影響がでてしまうことがあります。

 ご存知のように学校生活の大半は座学での授業が占めており、学習はほとんどで読み書きすることを前提に行われています。その読み書きに支障があるわけですから、本人としては学校で相当長く困った時間を過ごさねばならないことになります。話し言葉での理解には問題ないので、おしゃべりには支障はないですし、友達関係も気持ちの面でも問題ないので、休み時間は楽しく過ごせます。

 しかし授業になるととたんに困ってしまいます。たくさんの字を読んだり書いたり、読み上げたり聞き取って写したりしなければなりません。学習症のない人にとっては、文字を見ればすぐに音が浮かんでくるし、音を聞けば文字が頭に浮かんでくるので、学習症の人の感覚がわからないとも思います。では例えば、明日から日本語の「あ」を「سو」に、「い」を「‎حل」に、ひらがなも漢字も全部、今までと違う記号に変えます!という世界に生きていると想像してみてください。さて小学生のあなたは、その世界で45分間の国語の授業を受けて、どう感じるでしょうか? 大人のあなたでさえ、明日からの仕事を普通にこなすことができますか? 文字から意味を理解するのに、すごく労力と時間がかかるのです。とても辛いし、不安になると思います。周りのこどもは当たり前のように読み書きできるのに、自分にはわからない・・・。

 知的な遅れがあるこどもは、一般的には社会的な発達もゆっくりなので、自分のペースに合うように、特別支援学級で学ぶことが多いです。同学年のこどもと比べると、学習だけでなくコミュニケーションや社会性の面でもゆっくりなので、自分に合った環境で学ぶ方がストレスが少ないです。しかし学習症のこどもは、基本的には社会性の問題はないため、勉強ができない自分を通常学級で強く意識することになり、恥ずかしさやいたたまれなさを感じます。こういったこどものために、通常学級での「合理的配慮」として、タブレットを使ったり、黒板は写さずに写真をとったり、フリガナのついた教科書にしてもいらったりすることができます。ただ、自分だけ通常学級でそのように特別なことをしてもらうことは、学習の面では助かるけれども、友達から見られるのが恥ずかしいと思う子も多いのです。さらに、読み書きが苦手なことは、やはりテストの点数にも影響するため、どうしても成績が振るいません。学習の苦手さが自信の喪失に繋がり、徐々に通常学級で授業をうけるのが苦痛になります。しかしこういった特性のある子は、逆に特別支援学級で学ぶぼうとすると、なんとなく支援学級の他の子と自分は雰囲気が違っていて合わないと感じるし、「仲のよく楽しく遊べる友達のいる通常学級に居たい、でも勉強がわからない・・・」という強い葛藤を感じてしまうのです。こういった気持ちにうまく折り合いがつけられないと、不登校になってしまうことがあります。

 知的な遅れのない学習症のこどものほとんどは、基本的に様々な合理的配慮や通級指導を受けながら通常学級に在籍することが多いですし、心理社会的な観点からみても、社会性の発達が同水準の通常学級のこどもたちといられる方が望ましいと考えます。しかし地域によってはそういった通常学級での合理的配慮が十分に提供されていない学校、通級指導が自校にはなく、他校まで出向いていかなければならない学校など、提供される支援に差があります。現在は様々な学習上の支援ツールが開発されてきているため、少しでも多くの学習症のこどもが、できるだけ早く辛い思いをせずに、気の合う友達と同じクラスで安心して勉強できる環境が整うことを願います。

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