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24年前のクリスマス

24年ぶりの恵比寿ガーデンプレイスは一つも変わったところがなかった。JR恵比寿駅から動く歩道をまっすぐに歩き、その先に見える赤レンガの建物。


まったく変わってない。扉の上にあるもみの木をみたてたクリスマスツリー群もあのときのまま。

24年前、一人世界半周バックパッカー旅行で見事に全財産を使い切ったわたしは、とにかく金がなかった。こんな金のない娘を秋田の両親は

「敷金、礼金、あげるから東京へいけ」

と実家から追い出した。このまま秋田にいるとだめ子になるのが予想できたのだろう。

かわいい子に旅をさせまくってくれた親に今は感謝しかない。だが、余剰金をくれるほど甘くない。すぐにでも働かないと翌月からの光熱費が払えない。

とにかく手っ取り早く派遣だ!と派遣会社に登録しにいくと、今までの誇れるものが何もない経歴をみた営業から

「英語話せるんですか?英語使えるならアシスタント系でかなり時給がいい仕事ありますよ」

職歴もさほどなく、ただ日常英語がしゃべれるだけで、時給がいい仕事なんかあるかい!とかなり疑念の目を向ける。
どこかに売り飛ばされるんじゃないかと思いきや、恵比寿ガーデンプレイスに当時入居していた某外資系企業だった。誰もが知る超有名な外資系企業に派遣とはいえ、ビジネス英語も使えないものがはたして通るのだろうか。

だが、そこは外資系。

面接でバックパッカー旅行のありとあらゆる面白話をしゃべり続けたらその場で合格になった。

合格といわれて喜んでいたのは営業担当のみ。いきなり不安になった。

「あのう、こんなおしゃれなオフィス街で働いたことないんです。なので、雑誌に特集されているようなOL風の服なんてもってないし、ヒールははけないし、ストッキングははくとかゆくなるし、タイトスカートは歩きにくいからはきたくない。何がいいたいかというと、服装の規定があるなら辞退します」

と面接にきたくせに、合格といわれて辞退するわけのわからない女。

するとそこはさすが外人

「おお!自分の意見をいうのは素晴らしい!そんなのノープロブレムだ!キミはアシスタントだから自由でいい」

といわれて、言葉どおり自由な恰好でいったら、タイトスカートでハイヒールをはいている本物のセクレタリーたちから冷めた目でみられた。

ある程度の貯金ができたらやめる予定だったので、セクレタリーたちから何をいわれようと気にせず、自由な恰好で仕事をする日々。こんなおしゃれエリアで仕事をする機会もそうそうないから、毎日恵比寿界隈で食べ飲み歩きをして帰るのが日課になった。

アメリカからきているボスたちは恵比寿や六本木、中目黒なんかに住んでいる金持ち軍団だったため、おしゃれなワインバーやらコース料理のお店やらに連れて行ってもらい、結果、ものすごいグルメな人になってしまった。

もしかして、ご馳走のあとは夜のお仕事も?という心配はご無用。こんなチンチクリンに手を出す人もおらず、ただただおいしそうに食べるのがいい!と、もはやペット扱いだったため金持ち彼氏ができるはずもなく迎えたクリスマスシーズン。

あのバカラのシャンデリアが登場したのだ。
フランス・ロレーヌ地方バカラ村のクリスタルブランド「バカラ」。約250灯のシャンデリアは世界最大級。その大きさと輝きに圧倒された

いつまでも眺めていられる光り輝く美。上を見上げすぎて首を元に戻すときにつってしまうくらい見上げていた。す~っと吸い込まれてしまうほどの輝きに魅了された。

そして24年後の今日。24年前よりももっとたくさん美しいもの圧倒されるものをみてきたはずなのだが、やはりずっと見続けた。首がつるほどに。

主催者は「一人でも多くの方に希望と笑顔が生まれることを願って」
との思いを込めているそうだ。

わたしはというと、フランダース状態とでもいうのだろうか。ここで命尽きてしまっては問題なのだが、ネロが恋焦がれたあの絵をみたときのような、ふわっとしたやさしい気持ち。そんな気分になる。

24年前のクリスマスにバカラのシャンデリアをみたときも温かい気持ちになった。こうしようああしようといった希望とかではない。ただただあったかい気持ち。

そして24年後の今日も空気は冷たいのに、体の中がじんわりする不思議な感覚。東京は変わらない場所とものすごい変わる場所がある。恵比寿は変わらない場所。特にクリスマスシーズンはバカラのシャンデリアが万人を包んでくれる。


派手さはないが、毎年変わらない心温まるイルミネーションがある。それが恵比寿。

今日も読んでくれてドノバッド(ベンガル語)
そろそろありがとうネタがつきてきた(笑)


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