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newspaperと過ごす濃密な7日間

【新聞記事のスクラップ】は、数少ない私の趣味のひとつ。
引っ越してきてほどなく契約した地元紙。
おじさんがチラつかせた洗剤セットが魅力的だったことも否定できないけれど、「新聞を契約する」という行為があたかも良き大人になったかのような感覚をもたらしてくれたのもまた事実。
せっかくお金を支払うのだからしっかりと(時にさらりと)社会の動きを目撃したい。
気になった記事をダイソーの茶色いスクラップブックにペタペタ貼るようになった。
それから6年。とぎれとぎれだがスクラップは続いている(現在14冊目)。

話は変わって、今年の7月上旬。はじめてコロナに罹患した。
娘の発熱が狼煙となった。周囲にコロナ関連の接触がなかったため、小児科にて通常の発熱診察と風邪薬の処方をいただき、テレワークの夫に娘の対応(+念のため園を休ませておいた下の子も)をお願いし、私は職場へ。
家族に発熱者がある場合、PCR検査を受け陰性を確認して職場内に入るルール。
速やかにドライブスルー方式で検査。結果が出るまで15分。しばし車内で休息。
時が来て「陽性です」とのお告げの瞬間、私の白目っぷりは盛大だった。
看護師さんも「私もびっくり」と合わせてくれた。その日のスケジュールはすべて白紙。あれやこれやの対応をお任せし、帰宅することに。
うっかり職場に踏み入れていたらと思うとぞっとするので、念のための検査って大事!と思いながら夫にことの顛末を電話。
「まじか。わかった」夫の低い声に覚悟のニュアンスが漂う。

帰宅後、関係機関への連絡(学校・保育園・勤務先)と調整を行い、私はひとり別室にて保健所からの聴き取り調査を待った。
午後には保健所の指導も入り、娘も夫に連れられ小児科を再受診、抗原検査にて陽性確認。朝の受診時に判明していればと若干悔やまれるが仕方なし。
家庭内隔離(私&娘、夫&息子)は瞬時に決定。粛々と部屋を分け、頻回な手洗いうがい、室内でも常時マスク着用、使った場所の消毒をこころがけることになった。

食材はすぐに食べられるもの(冷凍パスタやチャーハンなど)を両家の両親たちが交代で玄関先に届けてくれ本当にありがたかった。(”景気づけ!”とお菓子を沢山ネット注文したが、届いたのは療養期間終了後というトホホなことも起こった)
こんな時、近くのサポートが得られにくい場合は詰むのでは。(保健所の指導で”濃厚接触者にあたる人(うちの場合夫)が人の少ない時間帯に買い出しに出かけるのはOK”と言われた。食料危機が差し迫った人は出かけるしかない。あくまでも7月当時のうちの自治体の話)

時期的には第7波の上り坂の途中で「まさか自分が」という思いが強く(無症状だったし)、社会的影響の大きさにしばし放心状態。ぴたりと生活全てが止まり、非常勤掛け持ちの私には何の保証もなく、休んだ分だけあっさり無給になる。
でも、せっかく空白の自宅療養期間を過ごすのならば、今しかできないことをやろう。そう決めた。
そしてスクラップのことを思い出した。

実はこの時、例のスクラップはずいぶん滞っていた。
2021年3月から約1年4か月分時が止まっていた。気になるページだけは抜き取られ棚にぎゅうぎゅう詰められていた。
以前にも、スクラップが長期ストップしたことが一度ある。2018年の夏。西日本豪雨の時だ。その時は半年くらいのストップ期間。
我が家の目の前まで迫った水、被災した知人への気がかりなど、ほんのり二次的受傷だったのかもしれない。各地の悲惨な状況や亡くなった方の報道が大きくカラー写真で載るたびに圧倒され、スクラップしようという気持ちは完全に折れていた。

果たして、今回の長いストップは何故に生じていたんだろう。
思い当たるのはその時期、長年勤めた単年契約の勤務先を更新せず、春から勤務スタイルが変化したこと。
決断する時にも悩みぬいたけど、やはり新しい第一歩は自分にとって大きな変化だったんだろうな。

そんなことを考えながら隔離部屋ではさみを動かしていた。切った記事をスクラップブックに貼り、日付を転記する。基本は日付順、記事の大きさによって、多少前後したりする。ただそれだけの作業だけど。
切り出しながら、「あ、この記事」とアンテナが反応する内容もあれば、「え、なんでこのページ取っておいたんだっけ」とアンテナが作動しない内容もあった。
不思議。当時はピンときたけど、今はスンともこない。そんな自分の変化さえ楽しみながら久しぶりにスクラップに没頭した。
ちなみに、記事は医療関係・教育関係・福祉関係など関心は偏りがち。仕事に関連すること、子育てや家族に関連することが多い。

新聞と戯れながら療養期間は順調に過ぎた。娘とこんなに長時間2人きりだったのも久しぶり。
2日目には解熱して徐々に調子も戻ってきていたので一安心。
オンライン授業を受ける姿もさまになっていた。
一緒にお絵かきしたり、ご飯を食べたり、ごろごろしたり、アマプラ(アレクサにて)を視聴したり。
郵便受けにお友達からのお手紙が入っていた時は嬉しそうだったな。

夫と息子は無症状のまま経過。保健所からは症状が無ければあえて検査を受ける必要はないといわれたが、夫も職場復帰にあたって陰性を確認しておきたい気持ちがあったのだろう。”家族の陽性発覚から4~5日がタイミングとしてはベスト”と言われたことを参考に、無症状者用の無料検査場に予約。2人で出かけていった。
翌日「陰性」の結果が送られてきたときには家庭内隔離の成功を喜んだ。
私も無症状のまま7日間の療養終了。娘は10日間の療養終了。
長かった。くたびれた。濃密だった。精神科医の斎藤環先生の講演で聴いたことあるけど、引きこもるって基本しんどいのよね。そのことを実感。

療養期間中、私がすきあらば常に新聞を切ったり貼ったりしているから、ついたあだ名は「ニュースペイパーババア」。(名づけ親は夫)
アマプラ三昧の娘のあだ名は「ごろごろごろにゃーご」。
自己複雑性の観点から言えば、呼ばれる名前がいっぱいあるって良いことだよね。
ニュースペイパーババアがちゃんとニュースペイパーババアで居られるために、心のゆとりとたっぷりの時間が欠かせない。

ここ数年、すっかり失われてしまった【当たり前】。ただ普通の毎日のなんと有難いことか。平穏な日常を取り戻した我が家。
実はまだ全てのストック新聞をスクラップしきれていないのだよね。ギブミーゆとり。
またそろそろアンテナ立てていきたいものです。

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