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なぜアメリカは怒るのか

これは444回目。アメリカがトランプ政権になってから、我慢に我慢を重ねてきた結果、「物言う国家」として暴走しているかのように見えます。あらゆる分野で、メディアはこのアメリカ=トランプ政権の主張を非難します。ほんとうにそれは正しいのでしょうか。

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ものにはなんでも表と裏がある。しかし、メディアの反アメリカというスタンスは戦後一度も覆ったことはない。

なにもトランプ政権に始まったことではないのだ。

ことごとにアメリカは傲慢で、自己中心的だと批判し、トランプ政権にいたっては人類の敵だとばかりに非難する。

リベラルを自称するメディアが多いから、そうなるのだろうか。そもそも、事実を伝えていないし、アメリカの怒りの本質も解説することがほとんどないのだ。

ここでは、経済、とくに貿易紛争に限って見てみよう。

アメリカが問題だといって怒り出しているのは、貿易黒字の国に対してである。

貿易黒字というのは、どういう状況かというと、国家全体の貯蓄(ようするに国民の貯蓄)が、投資総額より多いという状況で起こる。

貿易赤字の国にとっては、この黒字国の人々が赤字国のものをもっと買ってくれれば(旅行してくれれば、利用してくれれば)、不均衡は是正されるのに、という思いがある。

さて、世界の最大の貿易黒字国とはどこだろうか。

景気後退が鮮明になってくる境目、2018年時点の世界最大の貿易黒字国は、中国である。ざっと3500億ドルの黒字。

続いてドイツ、2750億ドルの黒字。そして三位がロシアで、1950億ドルの黒字。

ちなみに、日本はわずか270億ドルの黒字。2019年に至っては、100億ドルの赤字である。

さあ、なぜアメリカが中国や、ドイツや、ロシアを目の敵にしているか、これで一目瞭然だ。

とくに中国がそうである。激烈なほとんど「いいがかり」のようないちゃもんをつけて、一方的に中国からの輸入を段階的に停止してきたことはご存知の通り。

そこには中国共産党政府が、国内では非民主的な独裁政治を維持しながら、都合よく資本主義の市場原理だけは利用し、あたかも自分たちはまだ「開発途上国」であるという顔をしてそのハンディキャップを盾にとり、諸外国からの資本の流入、人の流入、物の流入を恣意的にシャットダウンしてきたのだ。他国に対しては自由貿易を要求し、自分は開発途上国だからと平気な顔をして保護貿易主義を貫く。

おまけに、開発途上国だからといって、無償供与や低利子融資を先進国からむしりとり、その金でアフリカなどの開発途上国にバラマキ、貸付け、大プロジェクトを起こさせ、中国企業だけ優先的に受注させ、金が返せないと言い出した国には、「じゃあきみのこの港を、99年間中国だけに貸してくれ。」という、かつての帝国主義そのもので版図をどんどん広げていっている。

貿易黒字は膨張し、米国債を大量に買い込み、アメリカ政府に対する影響力を増そうとしてきた。これが、中国である。

具体的には、外貨規制を行い、自由に諸外国から資本が中国に流れ込むのを防ぎ、国内企業には補助金を投入。徹底的なアンフェアゲームを貫いて、ここまで膨張してきたのが中国共産党という政治である。ただ人口が多いからということではないのだ。

そのアンフェアなありさまというのも、法外なものである。たとえば、EV車が次代を担うテクノロジー商品だと思って、国内自動車メーカーにこれを奨励。一代300-400万円当たりのEV車を作った場合には、補助金として60万円から80万円をあてがってやる、といったような類だ。

これでは、諸外国はまともに競争できるわけがない。アメリカはこれを不公正と糾弾しているわけだ。

おまけに、中国に諸外国企業が現地生産をしようとすると、その特許技術の供与を強要する。でなければ、現地生産を赦さない、というのもその類だ。

おかげで、川崎重工は貴重な新幹線の特許技術のかなりを中国に乗っ取られた。社内ではこの経営の判断に対して、当時猛烈な反対があったがこれを押し切った経営の判断とは、中国市場がほしかった、ただそれだけのためである。愚かというにもほどがある。

諸外国企業は中国の言う、「中国は大人口の国家で、市場は膨大ですよ。ここで利益が上げたくありませんか。それなら、わかっていますよね。」という足もとを見た攻勢に、どこも文句を言わなかったのだ。

金はふんだくるわ、技術は乗っ取るわ、おまけに新興産業では圧倒的な補助金制度で中国企業の競争力に、どこの国も勝てないという状況をつくるわ、・・・こうした不公正のやりたい放題に、アメリカは怒髪天を抜いたのだ。

中国は、アメリカの「対中国製品、関税引き上げ」を自由貿易の敵だといって罵倒する。メディアもまるでこの口車に乗ったかのように、アメリカの強硬措置を「自由貿易を損なう行為だ」として批判の大合唱だった。

しかし、諸外国の企業のほとんどは、実はみな、内々では「ざまあみろ、中国め」とほくそえんでいるのである。みな、一様に同じ思いをしてきたのだ。ただ、中国に物を言うと、自分だけがつまはじきにされてしまうのが怖くて、黙っていたのだ。

それをアメリカが、「ふざけるな」と鉄拳を振り上げたものだから、実は多くの諸外国企業は、影では「よくやってくれた、さすがアメリカ」という大歓声なのである。

メディアはこういう現実をほとんど解説しない。

中国の言う「自由貿易を守れ」とはどういう意味なのか。このまま伝えてしまえば、中国は善玉、アメリカは悪玉という単純な構図が、一般の市民の脳裏に「すりこまれて」しまうではないか。

中国の言う「自由貿易」とは、中国の利権を損なわない貿易が「自由貿易」なのである。中国の言う「民主主義を守れ。アメリカの覇権を許すな」とは、中国共産党政府に都合の悪いものをすべて排除した上での民主主義なのである。およそ意味がない。政権に対する批判は一切赦さないという条件つきの民主主義なのだ。

ことほと左様に、中国とはこういう体制である。アメリカはそれをガラポンしてしまえ、と思っているわけだ。トランプ大統領に言わせれば、「中国が、自由貿易の旗手だと? 笑わせるな。百年早い。」ということだ。

ドイツも同じである。

ドイツがなぜ欧州で圧倒的な強さを維持しているのか。フランスなどもはや影に隠れてしまっている。

もちろんドイツの工業立国としての技術力の高さや、民族性としての勤勉さというのもあるだろう。が、こと経済に関していえば、間違いなく労働賃金の安い、東欧などに生産拠点を設け、そこで欧州域内で圧倒的な競争力をつけたというのが大きい。

にもかかわらず、そうした労働賃金の安い国というのは、たいてい国家財政は脆弱であり、世界景気が鈍化してくると、たちまち窮してしまう。

EUとしてはそこに経済支援をしようとするが、これにドイツは大反対。「彼らは、きちんと日頃から財政規律をしてないから、こういうときに窮してしまうのだ。そんな怠惰な連中に、なぜドイツは国民の血税で尻拭いしなければならないのだ。」という言い分だ。

言っていることは一理ある。が、よく考えてみよう。もともとドイツがなぜ、そんなに設けて、貯蓄に回し圧倒的に裕福な国になったのか。なぜ、そうしたEU域内の貧困国が、ますます債務膨張して、不況になるとたちまち財政破綻のリスクに直面してしまうのか。それは、ドイツがそこで利益を収奪する構造になっているからだ。

それは、過激な表現を使えば、東欧や南欧などの労働賃金の安い国を、「食い物にして」、労働を搾取したからにほかならない。

ドイツにもしEU統合効果としての東欧や南欧が無かったら、ここまで欧州でもダントツの大国にはなっていなかったはずである。

話は簡単で、ドイツがそうやって他国を食い物にしてもうけるのはかまわないが、そのかわり還元しろ、ということになるはずだ。

つまり、財政健全主義にこりかたまり、EU加盟国の惨憺たる状況に冷淡にならず、どんどん金を使ってやれ、ということだ。

そしてドイツ国民も、貯蓄貯蓄などといっていないで、もっと消費に金をつかえ、ということだ。

簡単に言えば、ドイツが労働賃金をぐっと引き上げてしまえば、あっという間に、ドイツの貿易黒字は減少する。消費に回るからだ。

アメリカに言わせれば、EUという隠れ蓑に守られて、域内の東欧・南欧諸国の人を食い物にして経済大国になったくせに、アメリカに向かって「自由貿易を守れ」など、ほとんど冗談にしか聞こえないというものだ。

アメリカの怒りというのは、こういうところに淵源がある。中国もドイツも、「自由貿易」の大義名分のもと、実際には他国を食い物にして、自分をハリネズミのように防御しているスタンスが、赦せないと言っているのだ。

しかもこの二つの国は、長年蜜月なのだ。昔からそうなのだ。戦前も蒋介石・中華民国と、ヒトラー・ドイツは盟邦だった。日本が中国と泥沼のバカバカしい戦争を繰り広げていたときに、蒋介石に軍事顧問団を送って、徹底的な対日抵抗戦の防御ラインをせっせと構築してやったのは、なんとあろうことか日独伊三国同盟をしていたドイツなのである。

このように、ドイツという国の政治もおよそ信用できない代物だということは歴史が証明している。まだアングロサクソンのほうが、怜悧ではあるが、論理的である。

翻って今、貿易赤字に落ち込んだ日本には、昨年もトランプ大統領はほとんど貿易問題に関してはスルーといってもいい状態だったのをみればよくわかる。一番最初にアメリカが妥結したのは日本だったではないか。

標的は、中国、ドイツ、そしてロシアなのである。

この三極に対して、10年がかりの長期戦でアメリカは屈服させようとしている。

世界最大の組織暴力団・アメリカである。わたしは敵に回さないほうが得策だと申し上げたい。

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