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『中国が世界を攪乱する』はじめに(その2)

中国が世界を攪乱する』が東洋経済新報社から刊行されます。

4/29~5/6の期間、Kindleで全文無料公開中です!

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・5月22日(金)に全国の書店で発売します。

これは、はじめに全文公開(その2)です。

はじめに(その2)

本書の構成

 本書は大きく3部に分かれている。

 第Ⅰ部の第1章では、コロナウイルスの経済的影響に関して、国際機関などによる予測と研究を紹介した

 第2章以降では、貿易戦争の推移を振り返る。2018年に始まった米中間の高率関税の掛け合いが、どのように進展したかを見る。そして、それが米中をはじめとする各国の経済にどのような影響を与えたかを見る。影響は中国で深刻だが、日本をはじめとする世界各国にも及んでいる。現代の世界では、どの国も国際経済と密接につながっているので、貿易、資本取引、為替レートなどを通じて、国内経済が大きな影響を受ける。
 アメリカの高関税発動は、当初、ドナルド・トランプ米大統領の時代遅れの保護主義的な考えに基づく、愚かな政策であると評価されていた。同大統領の票田と言われるラストベルト(「錆びた地帯」:古い工業地帯のこと)に鉄鋼業や自動車産業などの伝統的な製造業を復活させ、失業者に職を与えることが目的であると考えられていた。それは、分業化が進んだ現在の世界経済構造を無視するものであり、アメリカ自身のためにもならないと批判された。

 しかし事態が進展するにつれて、そのような見方では捉えられない大きな広がりを持つ問題ではないか、との受け止め方が増えてきた。実際、関税だけでなく、ハイテク企業に対する規制策などが、重要な問題として浮上してきた。
 マイク・ペンス米副大統領は、「中国に対する鉄のカーテン演説」とも言われる演説を行い、アメリカ国民の考え方に大きな影響を与えた。米中経済戦争は、中国という異質な国家による世界制覇を防ごうとするアメリカの強い意志の表れであるとの見方が強まっている。
 米中経済戦争は、トランプ大統領の個人的判断によるのではなく、アメリカの支配層や政府全体の広範な合意を背景としている。米中経済戦争の根底には、中国が未来世界のヘゲモニーを握ることに対するアメリカの焦燥がある。
 実際、米中経済摩擦は、関税以外でも生じている。それは、ファーウェイ叩きに代表されるアメリカの一連の攻撃に見ることができる。これは、ハイテク産業における覇権をめぐる戦いなのだ。リブラやデジタル人民元も、米中間での重要な問題だ。米中貿易交渉での第一段階合意はなされたが、経済戦争が簡単に収束するとは思えない。

 第Ⅱ部では、中国の成長を、歴史の過程の中で位置付ける。
 まず、人類の長い歴史で世界の最先端国であった中国が、なぜ停滞し凋落したのかを考える。それは、明の時代に始まった中国の排他政策による面が大きい。

 この後、中国の没落が数百年間続いた。それを変えたのが、1970年代末に導入された鄧小平の改革開放経済政策だ。
 これによって中国が工業化し、世界の工場となった。ただし、政策を変更したから直ちに成長が可能になったわけではない。重要なのは、国営企業の改革を行ったことだ。社会主義計画経済時代の名残である非効率な国営企業が残存していれば、その後の発展は望めなかっただろう。これは、歴史上最も大きな創造的破壊の一つだった。
 1980年代の末に、東欧で共産主義国家が崩壊した。しかし、中国共産党は生き残った。中国が経済的に発展しつつあったことの影響があるのはもちろんだが、それだけではなく、天安門事件で強硬政策をとったことが本質的だ。このときに確立された中国の基本体制は、現在に至るまで残っている。

 IT企業アリババが成長した経緯は、注目に値する。アリババは、アメリカのeコマースサイトのものまねとは言えない。中国の事情に合ったビジネスモデルを作ったために成長したのだ。それまでの中国では、取引の信頼が確立されていなかったために、全国規模での取引は不可能だった。アリババのビジネスモデルは、それを克服した。

 第Ⅲ部では、中国に勃興しつつある新しいハイテク産業の動向と、それが意味することについて見る。ここでは、とくに、AIによるプロファイリングがもたらす光と陰を分析する。
 中国では電子マネーが普及し、ここから得られるビッグデータを用いて個人の信用を測定するサービスが始まっている。従来借り入れができなかった人々ができるようになったので、これは経済発展に大きく寄与する。しかし、半面において、こうした技術が国民管理の道具として用いられ、管理社会化を招く危険もはらんでいる。

 では、中国は究極の監視国家になるのか? こうした動きは阻止すべきものなのだろうか?そして、日本は、以上のような事態にどう対処すべきなのか?
 中国は「軍民融合体制」で軍事革命を進めている。極超音速滑空ミサイルなどいくつかの分野で、世界最先端の兵器システムを保有しており、これに対するアメリカの危機感が強まっている。
 中国が覇権国家になりうるか否かを判断するキーワードは、「寛容」(他民族を受け入れること)だ。古代ローマは、それによって強くなった国家の典型例だ。現代世界では、アメリカがローマの考えを引き継いだ。アメリカは世界中の能力のある人々に成功のチャンスを与え、それによって発展してきた。中国はその対極にある。中国は、「寛容」の条件を満たしていないので、覇権国家になりえない。しかし、アメリカも中国も、これらの点に関して変質しつつあるのかもしれない。


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