ちょっとだけ変わった学校
朝、おひさまが昇ってきてからいくらか時間が経ったころ。
「先生、おはようございます!」
と、学校の正門から大きな声を出しながら登校してくる子がやってきた。
その一方で、
「おはようございます、先生」
と、学校内にある寄宿舎から顔を出してくる子が現れた。
この学校は、近くに家がある子は自宅から、遠くの地方出身の子は寮に住みこみで通っている。
それだけなら、なんら普通の学校にもある。
おや、そろそろ最初の授業がはじまる時間が近づいてきた。
「いっけない! 遅刻しちゃう!!」
そんなことを叫んだある女の子が、光の速さのような、いや実際に光の速さで、正門を駆け抜けていった。
実際に光の速さと表現したわけには二つある。
一つは、本当に普通の人なら目にもつかない速さで移動していたからだ。
そしてもう一つ、彼女の足がまばゆい光を放っていたことであったからだ。
そんな風に解説しているうちに、この学校の生徒たちが、といっても二十人いるかどうかの少なさであるが、みんな無事に登校できたようだ。
すっかり余裕を持って席についている子もいれば、あわただしく机の上に筆記用具や本を出している子もいるが、みんな誰一人欠けることなく席にいる。
その中で、この学校にたった一つしかない教室に、これまたたった一人しかいない先生がやってきた。
「みなさん、おはようございます」
おはようございます!
各々が、自分が出せる精いっぱいの大声であいさつに返事をする。
「今日は、最初の授業の前に、一つ、お知らせがあります」
なになに?
なんだろう!?
クラスのみんながそれぞれに声をあげて、不思議がっている。
それもそのはず。
この学校では、大きなお知らせがなければ、すぐに授業をはじめてしまうから、このように朝の会みたいな時間はなかなかないのだ。
「この学校に、新しい仲間が増えます」
やったー!
クラス中の生徒が、まずは共通の声をあげて感激した。
そしてある子は、よし、と腕を思いっきり下げて。ある子は、となりの子とハイタッチをして、生徒の皆がそれぞれに喜びを表した。
では、君。
こちらに来てね。
先生は、転入生を優しく案内した。
転入生の女の子は、そわそわしながら、先生の後ろに隠れるようにして、みんなの前に立った。
その様子を見た先生は「大丈夫だよ。君のペースで自己紹介をしようね」と、そっと励ました。
その言葉に、転入生の子は少し微笑んだ。
彼女が先生から、クラスのみんなへと視線を変える。
その表情は、不安、緊張が入り混じった、ちょっと固い笑みになっていた。
はじめまして。
私の名前は、はる、です。
訳あって、この学校にやってきました。
……よろしくお願いします。
しゃべればしゃべるほど、ガチガチに固まっていく体をなんとか動かしながら、彼女は無事に自己紹介を終えた。
自己紹介の間、あれだけ転入生にワクワクしていた生徒のみんなは、うってかわって誰一人として彼女の様子を茶化さずに、真剣にきいていた。
「緊張しながら、よくあいさつできたね」
先生がこう転校生の女の子をほめると「皆、はるちゃんと仲良くしてほしい」と、クラスの皆にお願いをした。
それに対してクラス中から、
「もちろん!」
「わたしも緊張したー」
「はるちゃん、どんな力があるのかな? 僕もちょっと変わっているから、平気だよ」
と各々が、はるに対して、ねぎらいや励ましなどの優しい言葉をかけていった。
みんなの言葉を聞いて、はるは不思議に思ったことがあるらしい。
「ちょっと変わっているって? どんな力って? 先生、どういうこと?」
はるは、頭の中から緊張が吹き飛んで、疑問でいっぱいになったから、つい先生にこう尋ねた。
先生は、ようこそきいてくれました、と言わんばっかしの、大きな、ちょっと企みも含まった笑みをした。そして、はるの疑問に答えていった。
「この学校はね、『ちょっと変わった力』を持った子が通っているんだよ」
えっ。
はるは、その言葉に思わず驚きを隠せなかった。
先生はその様子を見て、また笑った。
その後、『種明かし』をした。
「朝の登校の様子を、はるちゃんは窓から見ていたかい? その中で、遅刻しかけたから、光の速さで走った子がいるのに気がついた? そんな感じで、ちょっとだけ、個性の強い力を持った子が、この学校に集まっているんだよ」
読者のみなさんも驚かれただろうか。それとも、なんだその通りかと、思われただろうか。
冒頭で出てきた、遅刻しかけた子は、単に異常に足が速かったわけではない。ちょっと変わった力、超能力と表現してもいいのだろうか、で足を速くしていたのだ。
この例のように、この学校には、ちょっと変わった力を持った子が学びを共にしている。
変わった力を持っているということは、少しでも、わくわくするものだ。
だが、皆がみんな、そういう思いで人生を送れたわけではない。
その力のせいでいじめられたり、悪いことに力を利用されたりした子もいるのだ。
はるもその例外ではない。
だからはるは、普通の自己紹介をする以上に、みんなと打ち解けられるかが心配でたまらなかった。
はるも、自分の持っているちょっと変わった力のせいで、苦労をしたことがあったからだ。
でも、先生の言葉をきいて、そしてクラスのみんなの様子をみて、はるは安心しはじめた。
ここなら、私の居場所がある。
それをはじめて実感したことが、はるにとって、人生でなによりの喜びだった。
はるがほっとした様子を見た先生は、これは大丈夫だな、と確信した。
そしてクラスに声掛けをした。
「はるちゃんの席を決めたいのだけれど、どこがいいかなぁ?」
その言葉に対して、私のところ、僕の隣、と次からつぎへとアイディアが出てきた。
はるの目には、その様子を見て、あたたかいしずくが流れていた。
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