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【詩】 喪失

ほんの少し指が震えたのだった
つけていたのは
モリオンの鎮座する指輪
押し間違えたボタンは
瞬時に世界をかき消してしまう

記憶の水紋が
幾度もいくども弧を描く
ほんのりとした桃色の影
余韻はソの音階
微かに頬を撫でた風
脳裏に残るのはしかし
その黒く細い曲線だけ

小さなお話の途中
口に掛かった私の髪を
あなたの指がするりとさらう
音のない水曜日
静かに笑う睫毛は長い

坪庭で水面は空を映す
小さく切り取った何かを孕んで


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