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視覚に頼らずボルダリング!つながる新しい楽しさとは?

目をつぶってボルダリングしたことありますか?「えー、ボルダリングはしたことあるけど、ホールド(石)は見ないと登れないでしょ」と思いますよね。いえいえ、それが、見なくてもちゃんとゴールまで登れるんです。

先日、目に少し障害がある方たちと一緒にボルダリングをするイベントに参加してきました。ボルダリングは1回しか体験したことがなかったですし、そもそも視覚障害者の方とお話したり、何かを一緒にするのは初めて。参加する前はドキドキでしたが、終わったあとは、自分の中で新しい世界が開け非常に楽しかったです!

今回は、なぜ目が見えない人と一緒にボルダリングすると楽しいのか、そして自分が感じた視覚障害者の方とのつきあい方についてお話します。

なぜイベントに参加したのか

あるpodcastのコミュニティで知り合った方から、視覚障害者の方と一緒にボルダリングするイベントを開催しているということを聞いたとき、すぐに参加したいと思いました。自分とは別の環境や境遇を知り、多様性への理解につなげたいと思ったからです。

「多様性を受け入れよう」という言葉を最近よく聞くようになりました。しかし、その多様性って、いったいどこで感じるのでしょう。日本にいると、受け入れる以前に多様性を感じる場面は少ないような気がします。

学校や会社で使われている多様性という言葉は、いつも性別のことばかりです。女性が多く働いていれば「多様性がある」と表現されますが、なんでそれだけのことで多様性と呼ぶのか、聞くたびにモヤモヤしてました。

いつも同じ場所にいたら、いつも同じような人としか触れ合うことができません。全く違う環境に身をおいているひと、今まで全く出会ったことがないひと、そういう方と自分から会いに行く、まずはそこから多様性という言葉を理解したいと思いました。

ホールドを見ずにどうやってボルダリングするのか

イベントでは見える人とそうでない人とグループになってボルダリングします。視覚障害者の方が登るときには、同じグループにいる、見える人が言葉でホールドの場所を説明していきます。どのようにホールドの情報を説明すればよいのでしょうか。イベント主催者のNPO法人モンキーマジック代表の小林さんから教えていただきました。

ホールドがどこにあるのか伝え方のコツは「HKK」の順序で伝えることです。Houkou(方向)・Kyori(距離)・Katachi(かたち)です。そうすると、視覚障害者の方は、状況を把握しやすいんです。

例えばこんな感じです。「今掴んでいるホールドから、1時の方向に、手を伸ばしたら掴めそうなあたりに、上からガシッと手を入れられるホールドがあります

最後に持ったホールドを起点として、方向を時計で表し、距離は感覚的に表現し、形は大きさや形状を伝えます。日本人は真面目なので、距離とか言われると、30cmとか50cmとか言いたくなりますが、それがわかりやすいとはいえません。伝える人の感覚で「めっちゃ近い・近い・普通・遠い・すごい遠い」というように言ったほうがむしろわかりやすいようです。

チームを組んでボルダリングした感想

伝え方を学んだあと、早速チームを組んでボルダリングをはじめました。チームのメンバーは4人。そのうち2人はほぼ視覚がない方でした。(驚いたことに、1人はパラクライミング世界選手権でのメダル保持者の方でした。)

最初はうまくホールドの情報を伝えられるか不安でしたが、自分が伝えない限り相手は何も動けません。なんとかHKKを意識して説明すると、見事ゴールをクリア!!(もちろん、私の説明のおかげというより、経験者であるみなさんのボルダリングが上手なんですけど…)一緒に登ったような気持ちですごく嬉しかったです。それまで、ボルダリングは個人プレーだと思っていましたが、まごうことなく、これはチームプレイだということがわかりました。

それから順番に何度もいろんなコースに挑戦し、ゴールをし、ときには失敗し、3時間のイベントが終わるまであっという間。自分が登るのも楽しいし、みんなが登るのも楽しい。それはとても新鮮な感覚でした。この楽しさって何かな?自分なりに考えると3つに整理できました。

1. チームメイトという関係から始められる

五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)のうち、情報の8割から9割が視覚に由来すると言われているようです。つまり、わたしたちにとって、何をするにも視覚が頼りです。だから、視覚がないという世界はどういうことなのか、正直まったく想像がつきません。見えない方の世界が想像がつかないので、どう接していいのかもわかりませんでした。

でも、ボルダリングという競技を通してなら、接し方はただひとつです。ホールドの情報を伝え、一緒にボルダリングを楽しむということ。視覚のあるなしは関係なく、ひとつのゴールを目指すチームメイトという関係です。それは、とても心地よく自然な関係づくりでした。

2. 視覚での捉えかたが新しくなる

ホールドの形をうまく言い表そうとすると、全体的に表現しなければなりません。上は平らで逆三角形とか、真ん中に溝があるとか、下からひっかけるとうまく掴めそうとか。上下左右、色んな視点からホールドを説明することで、なんとか形状を伝えていきます。

そうやって説明を続けていると、不思議なことに、まるで目の前の色んな物体がボワンと浮かび上がり、より立体的に見えてくるような気がしてきました。これは新しい感覚です。

視覚障害者のかたは正面や後ろなど特定の視点がないため、立体的に物体をとらえていると言われていますが、一緒に登っている気持ちになることで、その感覚を少しだけ自分も体験することができたのかもしれません。

視覚がないから死角がない。(中略)俯瞰的で抽象的なとらえ方です。見えない人は、物事のあり方を、「自分にとってどう見えるか」ではなく「諸部分の関係が客観的にどうなっているか」によって把握しようとする。この客観的性こを、見えない人特有の三次元的な理解を可能にしているものでしょう。

目の見えないひとは世界をどう見ているのか」著者:伊藤亜紗

それにしても、登っている様子を見ていると、視覚障害者の方は一度触ったホールドの形を正確に覚えている様子でした。「さっき登ったときのあの形」と表現すると、すぐに「ああ、あれ」という具合に脳の中で再現できるようです。もし自分がそう言われても「どの形?」と思い出せないでしょう。見えない方にとっては、立体的な把握に加えて、それが脳のデータベースにしっかりと刻まれているんだな、という印象を持ちました。

3. 心がオープンになる

自分の声はあまり大きくないですし(スーパーで「パスモで払います」と言っても必ず聞き返される)、論理立てて話すのが不得意(自己紹介では緊張しすぎて、相手がこの人何言ってるんだろう、と困惑した表情されるときある)ので、声だけで情報をうまく伝えられるのか不安でした。

しかし、目の前に登っている方がいて、自分が声を発しないと次の一手が出せないという場面になると、そういうネガティブな気持ちはどこかに置いておくしかありません。とにかく「あー、右右!3時のほうに、めちゃ近くに、丸っこいのがある!」とか「今足で触ったの、それOK!」とか、大きな声を出してとにかく伝えようと必死になります。

声の抑揚や大きさ、伝え方に集中していくと、なんだか生き生きとして心がオープンになっていく感じがしました。まったく異なるシチュエーションですが、外国の方と英語で話しているときにも、それを感じたことがあります。コミュニケーションの仕方を変えると、それまで自分だと思っていたキャラクターから自由になるのかもしれませんね。自分の中に、別の扉を見つけたような、嬉しい発見でした。

視覚障害者の方とのつきあい方

イベント主催者のNPO法人モンキーマジック代表の小林さんからはこのようなお話もありました。

これはやってほしくないな、という声がけがあります。それは、ホールドの情報を伝えるだけでなく、具体的な登り方まで伝えてしまうことです。これをされてしまうと、見える人の操り人形になってしまうのです。私たちは、登ることはできます。しかし、掴むべきホールドが見えないだけなんです。ですから、あくまでもホールドの情報を補う、ということに徹してほしいと思っています。

この言葉に、見える人と見えない人とのつきあい方のヒントがあるような気がします。世の中は、マジョリティ(見える人)が暮らしやすいように設計されています。そう設計されているから暮らしにくいだけで、マジョリティに属さない人たちが、決して最初から出来ないというわけでもありません。

この前提のうえにたってみると、視覚障害者の方とのつきあい方がわかってくるのです。見える人はどう接すればいいいんだろう、としばられなくてもいいんですね。見えない人がやりやすいように、判断しやすいように、見える人は情報を補完していく、そうとらえればシンプルにつきあえるかと思います。

見えないという障害が、その場のコミュニケーションを変えたり、人と人の関係を深めたりする「触媒」になっているのです。触媒としての障害。見えることを基準に考えてしまうと、見えないことはネガティブな「壁」にしかなりません。でも見えないという特徴をみんなで引き受ければ、それは人びとを結びつけ、生産的な活動を促すポジティブな要素になりえます。

目の見えないひとは世界をどう見ているのか」著者:伊藤亜紗

まとめ

あえて言葉でつらつらとなぜ楽しかったのかつづってきましたが、別に頭で考えなくても、ボルダリングは楽しいし、視覚障害者の方とのボルダリングはもっと楽しいです!

ですので、ぜひこの記事を読んで、興味がでたら参加してみてくださいね。イベントはNPO法人モンキーマジックさんが主催しています。見える人も、見えない人も、一緒に楽しめるボルダリングがもっと増えてほしいと思っています!


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