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「仮放免」という立場のRさんが脊柱管狭窄症で苦しんでいる件

ゆっきー舎小柳です。

この記事は、日本に住んでおり脊柱管狭窄症で苦しんでいる外国人Rさんへの治療費の募金活動を始めたことで書きましたが、2021 年9月末日に166万円の目標額に到達しました!

募金や記事拡散に協力いただいた皆様に心からのお礼を申し上げます。


募金は終わりましたが、Rさんの立場について、伝え続けるために募金の部分だけ消して、記事はそのまま残します。入管問題の一端をマンガを交えて出来るだけわかりやすく伝えているので、最後まで読んでもらえると嬉しいです。


この記事では「入管」という言葉が何度も出てきます。

入管については、2021年3月に名古屋入管でスリランカ人女性の死亡事故があって、遺族が納得いく説明がないと怒っているニュースを見た人も多いかと思います。

この記事を読むと、入管仮放免などのことがある程度わかるようになると思うので、入管のことを知りたいと思う人も是非読んでください。


そもそも入管って、何?

入管とは出入国在留管理庁という役所の略語です。外国人が日本に出入りする管理をしている役所で、私はそこに収容されている人や、以前収容されていた人仮放免者)の支援をしています。

支援」って何してるの?と思う人が多いでしょう。やり方は、人やグループで違うので一概には言えませんが、私は面会した相手が希望している手続きを補助したり、収容場内で困っていることを聞いて入管に申し入れ(または抗議)をしたりしています。また、仮放免で外にいる人にも面会や電話で話を聞いて、医療を受けるサポートをしたりします。

支援自体の話はまた別の機会にしましょう。

下記の募金は終了していますが、記事の一部として残します。

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ここからはRさんが日本に来た経緯を説明します。

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彼が生まれた国は日本のように言葉が統一されておらず、Rさんが生まれた地域の言葉はその国の公用語ではありません。それもあって、会話はできても読み書きはほとんどできないのだそうです。

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戦争の話はRさんからたくさん聞きましたが、ここでは詳しく書きません。あえて給料の話をしたのは、「戦争に行ったのなら軍人恩給とかあるのでは?」と私が思ったからです。しかし、彼は「民兵」という立場で、正規の軍人ではなかったので、恩給がないばかりか、給料も非常にわずかなものでした。

長く続いた戦争で物価が急激に高騰したこともあって、一度の食事で月の給料のほとんどが消えることもあったそうです。(日常は軍隊内で食事は出ていたようですが、戦争末期には補給も途絶えがちで、1日1食のみの日も珍しくなかったと聞きました)

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結局戦争は8年も続き、Rさんは青春時代の多くを戦地で過ごしました…

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戦後もインフレが続き、一日働いてその日の食事を得るのが精一杯ということも多かったそうです。そんな中で日本に行けば仕事がある、という話が舞い込みます。生活基盤が薄い彼にとって、日本の話は希望になったのだと思います。

当時、日本はバブルは終わっていたものの、まだ全ての産業が冷え込むほどではなく、安い労働力を求めて外国人が入国しやすい環境を作っていました。つまり、労働力が欲しい日本と仕事が欲しいRさんの需要と供給が一致したわけです。

そして彼は日本に来て非正規滞在の状態で仕事を始めました。

非正規滞在と書くととても悪いことに見えるでしょう。しかし、当時の日本は非正規滞在を承知した上で多くの外国人を受け入れていました。

彼は日本に入国した際に、彼の国の言葉で「旅行と言いなさい。働きに来たと言わないように」と指導されたそうです。この点を見ても、計画的に彼の国の人々を迎え入れていたことは明確です。

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日本は労働力を確保するために、景気が良い時は非正規滞在者を容認し、不況が来ると追い返すということを繰り返してきました。1990年代初頭には非正規滞在者が国内に30万人もいたそうです。Rさんもその時期に日本に来た1人です。

これについて、移住連さんの記事が読みやすいので参考資料として貼らせていただきます。

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80年代や90年代には在留資格がないことを容認していたことをしめす文書は多数ありますが、外国人の体験談も多く聞きます。例えば警察の職務質問を受けても在留資格が無いことをとがめられなかった、などです。現在は在留許可がないことで拘留されますが、問題とされない時代も長く続いたのです。

ここから、入管行政の話を少しします。

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前述したように、日本は多くの安く働く外国人を求めていました。

しかし

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日本政府は「移民は受け入れない」とずっと公言しています。それでも海外の人たちを招き入れたのは、一時的に滞在してもお金を稼いだら出身国に帰るだろう、という前提があったようです。

しかし、人間は仕事をするだけでなく、恋愛をして結婚・出産もします。生まれた子供たちにとっては日本が故郷ですから、出身国に帰るのはやめようと思う家族も増えるのは自然なことです。

また、単身でも出身国での生活基盤が脆弱な人の多くは日本に残りたいと考えました。

この話をすると「勝手に他国に来てワガママ言うな」と思う人もいるでしょう。しかし、前述したように日本は入管法の運用を時期によって緩めたり厳しくしたりしながら労働力を確保しています。つまり、日本にも責任があるわけです。

日本にとって外国人は雇用の調整弁便利な安い労働力なのでしょうが、相手は人間です

数年、数十年と暮らせばそこに生活基盤ができ、逆に出身国の縁は薄れていきます

「情と決まりは別だ!」という人もいるでしょうが、これは人情の話ではなく、人権の話です。

生活を守ることは人種や国籍に寄らず誰もが持つ権利で、国際人権規約に書いてあり、日本も批准しています。

また、利益のために法の運用を歪めたのは日本側ですから、責任が生じるのは当然のことでしょう。

支援する立場の記事ばかりあげると、かたよってると思われるので、記者が書いたものもあげておきます。

すぐ帰るだろうと予想した人たちが帰らないことを知って、日本は次なる労働者使い捨て作戦を模索します。そうして日本からブラジルやペルーに移民した人たちを呼び戻す案を考えたり、外国人技能実習制度を作ったりもしました。

新しい労働力を手に入れたら、その時点で在留している人を追い出して定住を避ける、日本はそんな外国人政策を繰り返してきたのです

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絵ではみんな怒っていますが、実際には多くの人が帰りました💦…


人を招く政策をとれば、多様な人が来て、いろいろなケースが発生します。それは留学でも技能実習でも特定技能でも同じです。

日本が労働力を海外に求める以上、言葉も文化も違う人たちを迎え入れるのですから、日本人を相手にする以上の社会福祉やケアを用意するべきだと私は思います。

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政府や企業は「安い労働力」を求め続けていますが、来るのは人間です。そしてどんな人でも国際人権規約に定められた人権を持っているのですから、それを踏まえた運用をしない限り、不遇な人を生み、未来に禍根を残します。

現在の入管行政は、この点を十分に踏まえているとは思えません。

この手の話をするとき、日本人でも大変なんだから外国人のケアなんて後回しでしょ、という人がいます。しかし日本が国際人権規約を批准している以上、自国民と外国人の人権を分けて考えることはルール違反です。

また、不遇な人を生み出し続ければ、結局日本にも世界にもマイナスになります。瞬間的には日本だけ得するように見えても、世界と日本はつながっていますから、発生したマイナスは人類全体のものではないでしょうか?


ここから入管のシステムの話をします。

下の絵は犯罪の疑いがある人に対する行政システムです。法治国家、民主主義国家では人を捕らえることは相応の理由が無ければ出来ません。そのため、通常は複数の役所が介在してミスや不正を防ぐ制度があります。

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一方、入管では?

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入管では収容や退去強制が入管の中だけで決定されます。

これは入管がホームページで名言しています。

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図中に「法務大臣の裁定」とありますが、実際には法務大臣に委任された入管局長が裁定をしています。そのため、全ての決定が入管内部で完結しており、民主主義的手続きとは言えません。


整理すると、入管が収容や退去強制を行う流れには以下の問題があります

収容や退去強制の決定に複数の機関が関与しないので、公正と言えない

収容の期間を限定しないので、結果的に無期限収容が行われており人権が守られていない

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もう一点、簡単で根本的な話です。

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私は日本国籍を持ち、日本の庇護を受けています。そしておかしいと思う点があれば、選挙で主張することができます。

しかし、海外から来た人の多くには参政権がありません

それでも日本は多くの外国人を意識的に呼び続けています。そうであれば、批准している国際人権規約難民条約を守るのが誰にとってもわかりやすくまっとうな考えではないでしょうか?


もう少し入管の話をします。

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難民」の話は聞いたことがある人も多いと思います。日本も難民条約に加盟おり条約に基づいて難民を受け入れると約束しています。しかし、諸外国が20〜30%も難民認定していることに対して、日本では1%以下というのが現実です。立地の違いはあるでしょうが、諸外国が認定するクルド人を日本が全く認定しないことをみれば、完全に独自化しているのは明らかです。

また、日本は国際人権規約も批准していますから、難民申請していない人に対しても、人権を侵害する不当な収容はしてはならないはずです。しかし、入管の収容は前述したように法治国家的な工程を踏んでいるとは言えません。

そんな状態で長期収容をするので、ストレスで心身を病む人が続出します。

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そんななかで、2021年3月に名古屋入管でスリランカから来た人が亡くなりました。

その人は明らかに体調が悪く、支援者が医療の必要性を何度も入管に訴えています。

私の知人も亡くなった方に面会しており、入管に点滴などのケアを要求しています。その支援者は医療の専門家ではないものの、介護士の資格があり、弱っている人を多数見た経験から「死んでしまう可能性がある!」と具体的に申し出ました。しかし入管側の担当者は「大丈夫」「適切にやってます」を繰り返しただけです。

そして、結果的にその方は亡くなりました。

入管職員がよく使う言葉に「詐病」というものがあります。仮放免を獲得するために病気を装っている、と決め付けるのです。

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なんでも詐病と決めつけるこの体質こそが、名古屋入管での死亡事故につながったのではないでしょうか?

そう思った私は名古屋の件の後、「入管は医療体制を改善しているのか」、と複数の入管施設に行ってそれぞれの総務に確認しました。それに対して茨城県の東日本入国管理センターでは、特に見直しはしていないという趣旨を答えましたし、東京出入国在留管理局では、その件によらず日々適切に運用している、との答えでした。つまり、どこも特別に見直しをしていないということがわかります。

どんな理由があれ、自分たちの管理下で死亡事故があれば、管理体制を見直すのが当たり前の組織です。

しかし、入管は死亡事故があっても従来通りの運用をしているとのことですから、反省や改善の意識は無く人の命を軽視しているとしか思えません

そんな状態なので、収容場の中は非常に劣悪です。

入管の人権無視に対してハンガーストライキで抗議する人もいれば、自殺してしまう人もいます。

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入管には、収容を解く「仮放免」という制度もあるのですが、申請しても許可が出るかどうかの基準が不明瞭です。

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多くの人が収容で体調を崩し、医療が必要な状態になります。しかし、経済的に厳しく、病院に行けない人が多数です。

Rさんもその一人で、今回の手術費用166万円はとても用意できません。

入管収容中のケガであれば裁判を起こすなどして治療費を入管に請求することもできるでしょう。しかし、Rさんが腰を痛めたのは仮放免後なので、入管の責任を問うことはしていません。


そうして、彼は今日も痛みで苦しんでいます。

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痛みに苦しんでいる彼の境遇を理解していただけると嬉しいです。




この募金活動は2021年9月末日に目標額に達したので終了しました。

募金や記事拡散に協力いただいた皆様に、心からお礼を申し上げます。







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