辻村深月著 『ツナグ』の読後感想♫
久しぶりにゆっきー舎図書部の記事更新です♫
辻村深月の『ツナグ』が「本と、おしゃべりと、」のお題になったので、この本を読んで私なりに思うことを書きます。
ゆっきー舎は足立区立舎人図書館さんと共同で「本と、おしゃべりと、」という読書会を開催しています。
「本と、おしゃべりと、」は、比較的リアル開催にこだわる読書会です。基本的に物語(小説、絵本、児童書など)を扱っていて、物語や登場人物から受けた感動を緩く語り合う場所です。(啓蒙書やビジネス本は基本的に扱いません)
昨年度は毎月開催だったのですが、今年度は隔月開催になりました。
さらに、緊急事態宣言の影響で、5月と7月の開催予定が中止、順延となっておりましたので、8月はオンライン開催としました。いつもは「〇〇な小説」など幅を持ったテーマで開催して、お気に入りの本を持参してもらって参加者さんや主催側が作品紹介する流れですが、今回はお題本を一冊に決めて紹介する形式です。
前置きが長くなりましたが、ここから『ツナグ』や辻村深月ついて書きます。
私は小説の感想では、ネタバレの有無を明記していますが、今回は読んだ人と感想を語る会に向けた記事なので、ネタバレは含みますが、あらすじ紹介はしません。その点はご了承ください。
1・辻村深月作品の出会いと、他作品にも見られる魅力
多くの賞を取っている作家として名前は知ってましたが、手に取ったのは知人が熱烈に進めてくれたからです。その知人は、現在はプロの小説家として活動している黒田小暑さん!
勧めてもらったときは黒田さんはデビュー前でした。小説について話している中で、私がミステリー分野はニガテ💦といったことに対して、黒田さんが「面白いミステリーありますよ」と『スロウハイツの神様』を勧めてくれました。読んでみて「確かに面白い!」と思ったことが辻村深月との出会いです。
その後、別の知人の紹介で『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』や『鍵のない夢を見る』を読みました。
4作品しか読んでないので全体像を語ることはできませんが、現時点では「種明かし」の面白さと登場人物の気まずい体験や人間としての醜さを語るのが上手い作家さんだなぁという印象を受けています。
今回の『ツナグ』も渋谷歩美が「使者」になる過程そのものが物語の種明かしでありつつ、個々のエピソードでも死者に会うことでその人の迷いや苦しみへの種明かしがあるというマトリョーシカ種明かしが面白いですね。
ちょっと強引な「種」もこの作家さんの味なのかな? という気もしています。
例えば、『親友の心得』で「わたし」と「嵐」を聞き違える、という種明かしは若干ハテナ(・・? と感じます。
また、『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』の赤ちゃんポストへの固執については、ほかの方法もあったのでは?と思わせますし、『スロウハイツの神様』では赤羽環を探す千代田公輝の推理が強引じゃね? と思いました。
しかし作りこんだ感が強くて作者のドヤ顔を想像させる作品よりは、微笑ましさも感じる程度で、それも含めてこの作家さんの味なのかな? とも思っています。
2・「気まずさ」を全力で語る「親友の心得」と「待ち人の心得」
個別のストーリーで気に入ったのは、「親友の心得」と「待ち人の心得」です。
「親友の心得」では、嵐美砂が友人御園奈津を殺してしまった、と思わせる導入部から、死は偶然であって殺人ではなかったと判明する中盤、そして殺意は相手に知られていたという後半の気まずさが印象的です。
さらに、エピソードとしては突き放して終わるのかと思わせておいて、後日譚で嵐美砂が気持ちの入った演技を見せる場面を入れて、読み手の気まずさをしっかり回収してくれる展開は、伏線回収が上手い辻村深月ならではだなぁと感心しました。
「待ち人の心得」では日向キラリが素性を隠したまま死んでしまっていることのツライ気まずさと、土谷功一が騙されていたのではないかと思わせる展開から、キラリの愛情を確認して気まずさが一気に溶けるシーンが泣けます。
また、渋谷歩美が土谷功一に怒りをぶつけるシーンは、クールなキャラと思えた歩美の意外な面が見えて、後のストーリーに興味を引く展開が上手いですね。
3・人間の醜い部分を配分して物語にする巧みさ
いくつか読んだ辻村深月作品から深く感じているのは、主人公に躊躇なく人間としての醜さを与える点と、醜さのバリエーションを豊富にすることで物語を形作っていく点です。
怒りや後悔などの負の感情だけでなく、人間が嫉妬心や虚栄心、妬みや劣等感などを持っていることを当たり前として書いて、その組み合わせで物語を作るので、展開が多様で飽きません。
例えば「親友の心得」では、虚栄心や自己顕示欲が強い嵐美砂と、やや劣等感を持ちつつも向上心を持とうと頑張る御園奈津という構造は一見加害者と被害者の関係に見えますが、最後になって御園に復讐心のようなものを与えるのは自分だったらできないな、と感心するところです。
また、フツーの高校生渋谷歩美を祖母アイ子が使者の仕事に導いていく展開はかなりありがちですが、悟った人物に見えるアイ子にも気まずさや後悔があります。歩美もおおむね優等生キャラですが畠田靖彦に両親がいないことを意図して告白する巧緻さで人間性を増しています。
エンタメ小説はキャラの役割分担で面白さを出すことが多いですが、辻村深月作品では人間性のブレや醜さにグラデーションがあって、その見せ方の上手さこそが作家としての個性なのだろうと思うようになりました。
と、いろいろ書いてきましたが、この記事は「本と、おしゃべりと、」開催時間に公開するので、他の方の感想はまだ聞いていません。皆さんがどんなお話をされるか、とても楽しみです♫
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