見出し画像

【ゆっきー舎・考える部 書籍紹介2】 入管問題の「歴史」と「今」がわかる! 平野雄吾著『ルポ入管』

ゆっきー舎的に紹介したい日本の入管問題を勉強するのにおすすめの本の2冊目は、平野雄吾『ルポ入管』
前回紹介した『となりの難民』に比べると読みやすい本とは言えないが、文章自体は決して難しくはない。
入管行政の成り立ちや思想、そして今何をしているのか何が問題なのかを知りたい人におすすめの書籍として紹介したい。

良い意味での冷静な報道目線で書かれた本作だからこそ持つ説得力がある。
私は正直なところ、報道と自称するものの中に過剰な「切り取り」や「演出」がしばしばあると考えていて、そのような記事はニガテとしている。そんな観点から見ても、本書はタイトルに恥じない「ルポ」に徹している。

1・前半は入管の政策に泣く人の実例

本書は5章で構成されているが、1~3章は日本の入管行政の「被害」に合っている人たちの実情が書かれている。
私は面会活動をしている中で、本書に似た状態の人に会ったり、先輩支援者から話を聞いたりしているので、ある程度の免疫はある。
しかし、入管問題になじみがない人にとっては、ショッキング過ぎて読むのが辛いと感じるのではないかと思う。
いや、私だって知っているつもりでも活字や写真で改めてみると、起こっている事実に涙が出る
初めて入管問題に触れる人は、「これは本当に日本の省庁がやっていることなのか?」と衝撃を受けるだろう
でもこのあたりを読んでもらわないと始まらない。本書の前半に書かれた内容は悲劇のごく一部であって、紹介された内容と似たことが、日々、日本のどこかで起こっているのだから。

また、本書は入管の理不尽さを主眼に置いて書かれているが、被収容者にも一定の距離を置いて、彼らの問題点にも触れている。
良いか悪いかは別として、私たち支援者には、おそらくこういう書き方はできない。

人権を扱う問題について、虐げられている人の目線で訴えることは非常に重要で、特に言語の壁がある外国人の立場を知らせることには大きな意味がある。だから、私自身は今後も支援者としての発信を続けたい。
一方、本書は冷静さに徹して事実を並べているので、結果として被収容者にルール違反や問題があることも浮き彫りにする。しかし、「どちらも悪い」という安易な論理に着地せず入管が構造的、歴史的に組織で人権侵害を行っていることを明確に記述して、個人が起こす問題とは比較にならない被害を生んでいることを伝えている。
先に紹介した『となりの難民』とは明らかに異なる、冷静なジャーナリストだからこそ書ける内容と感じるからこそ、本書を二つ目のおすすめ書籍にあげた。

2・後半に記載されている海外との比較が興味深い!

支援者はいろいろな考えを持って行動しているので、目指すところもそれぞれ違う。とは言え、入管が行っている「全件収容主義」「無期限長期収容」は許せない、というのは共通の認識だろう。
ではどうすればいいのかと考える時、参考になるのは諸外国の難民申請者や非正規滞在者への対応で、本書はそこにもしっかり答えてくれている。

特に児玉晃一弁護士がイギリスの入管で見てきた内容を記載している部分は興味深い。本書自体を読んでいただきたいので引用は控えるが、イギリスの収容施設には日本の入管とは比較にならない自由があり、入管職員が被収容者の尊厳を尊重していることが簡潔に書かれている。

そして、それでもなお、改善すべき点があるとしているところでさらに驚く。

イギリスの入管には、被収容者が自殺やハンガーストライキを繰り返し、適切な医療を提供しないことで死者が続出する日本の入管とは全く違う景色がある。

単純に海外のマネをすれば良いとは言えないが、この部分を読めば、日本が人権後進国であることはだれの目にも明らかになるだろう。

3・入管の歴史を読めば、やはり根本的な変革が必要と感じる

本書は入管の成り立ちや歴史についても多く言及しており、日本が外国人を管理の対象としてきた歴史がわかる。そして入管の管理主義の根源には、日本が戦争中に植民地支配をしていた時の思想が残っていることも浮き彫りにしている。

入管行政の骨子が作られたのは1950年代前半で、戦後間もない時期だ。当時は昨今のようにインバウンドなどという言葉は無く、観光やビジネスで日本を訪れる人は少ない。
結局、管理対象は日本が軍国主義を突き進んでいた時期に無理やり連れてきた朝鮮半島出身者であり、敗戦もあって日本政府から見れば利用価値がなくなった彼らの処遇を持て余し、今度は無理やり退去させ、収容する役割を担ったのが入管と考えて良いだろう。
入管のシステムが構築される際は、軍事主義の象徴的存在だった当時の内務省が大きく関与しており、戦時の他民族は支配の対象とする思想が持ち込まれた。

2021年現在、入管も表向きはマイルドな言葉を使うようになっているが、70年がたった今でも排他的管理主義が根底にある点はあまり変わっていない。
私は一概に古いことが悪いとは思わないが、人権に関する認識が戦時の危険な思想を引き継いでいることに危惧し、根本的な改善が必要だと強く考えている。
本書を読んでいただければ、管理主義を中心とする入管そのもののあり方を正すべきと多くの人が共感してくれるのではないかと信じる。

昨今取り上げられることも増えているので、入管の何が問題なのか?と疑問に思っている人はぜひ本書を手に取ってほしい。


サポートありがとうございます。サポートにて得たお金はより良い記事を書くための取材費に当てさせていただきます。 また、「入管・難民関連の記事に関してのサポート」明言していただいた分は、半分は支援のための費用とさせていただきます。