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【映画感想文】ベビーブームの終わりに待つのは?

あのトミーリージョーンズがAmazon originalドラマに出演していました。

【 prime Video】眠りの地

そうそうたる出演者です。トミーリージョーンズの人徳でしょうか。或いは実話で、物語の共感性が高いため、素晴らしい役者が揃ったのかもしれません。
トミーリージョーンズ映画といえば、黒人の相棒が欠かせません。
相棒の登場が時系列的で遅ればせだったのは、実話ならではなのでしょうが、次第に明かされるそれぞれの身上話が展開に奥行きを与えていました。

法廷ドラマ。
南部の黒人がビジネスの被害者になり、巻き込まれた白人経営者が黒人の弁護士を雇う。
冒頭の人間関係でほぼ結末は見えていました。古くさい勧善懲悪。パターン化したストーリー。そんな風に見えても、それが茶番のように繰り返されるアメリカの現実に違いありません、、、。

※以下、ネタバレします。Amazon prime会員の方は読まずに、本作を鑑賞されることをおすすめします。

第二次世界大戦後のベビーブーム

「眠りの地」のあらすじを話す前に、ベビーブームについて確認をしておかなければなりません。

ベビーブーム
第二次世界大戦(太平洋戦争を含む)が終わると、戦争から兵士が帰還した際や、戦争の終結に安堵した人々が子供を作ったため、前後の世代に比べて極端に人口比が高い現象が世界的に見られた。この時期に結婚・出産した世代は概ね1910年代末期-1920年代初期に生まれた世代と見られており、おおむね1946年から1953年頃の間に、北米、欧州、オセアニア、日本など世界各国で同種の現象が起きた。ただし、国や地域によって時期については前後することがある。

ベビーブーマー
(英: baby boomers)とは、第二次世界大戦の終結直後に、復員兵の帰還に伴って出生率が上昇した時期1946年から1964年に生まれた世代を指す。この第二次大戦終結後のベビーブームは世界的現象であるが、狭義で「ベビーブーマー」という場合にはアメリカ合衆国でのベビーブーマーを指す事が多い。単に「ブーマーズ (Boomers)」とも。
これは、第二次世界大戦終結後からケネディ政権の時代に生まれた世代に当たる。
基本的にこの期間内の一年間の出生数は前年に比べて横ばいかもしくは上昇している。1957年から1958年にかけてと1961年から1964年にかけては明らかに減少しているが、1964年から1965年における減少幅の方がそれらより断然大きい。

※ジョージ・ブッシュ、ドナルド・トランプ大統領は共に1946年生まれで、ブーマーズである。
※日本では、1946年から1949年にベビーブームが起きている。この期間に生まれた世代が団塊世代と呼ばれる。

wikipediaより

ベビーブーマーはいわゆる日本の団塊世代とその後の15年の間に生まれた兄弟世代の主にアメリカでは60代70代の事です。
本作では、アメリカに「5400万人のベビーブーマーがいる」と主人公ジェリーが発言しています。また、主人公ジェリーとその相棒の弁護士ウィリーは75歳と50代と推測され、共に兄弟が11人と9人いると答えています。

私の両親は共に3人兄弟の末っ子で、兄姉が団塊世代にあたります。日本の団塊世代が今の出生率の3倍程度であることを考えると、アメリカのベビーブーマーがいかにアメリカ社会に影響を与えているかは想像に難くありません。

日本は長寿の国と言われますが、アメリカも視点によりますが、大体70代後半が平均寿命らしく、短いとは言えません。しかしながら、兵役のあるアメリカは人口が減少する機会が他国より少なからずあり、それらが移住によって補われてきた印象があります。
実際ここ数年の世界的な疫病の流行により、日本も人口減が早まりましたが、アメリカは早くも回復しており、移住がそれだけ多いことは統計より明らかです。白人種、黒人種、先住者、移住者の出生率までは分かりませんが、日本より年若いベビーブーマーは疫病から逃れ、またそれ以上の年齢の団塊世代が依然としてアメリカ社会の中心となっているのが、トランプ大統領やバイデン大統領の年齢に象徴されているように感じられます。

死の商売

「眠りの地」あらすじ
葬儀会社を経営するジェリー(白人、トミーリージョーンズ)は、苦労もありながら子どもと孫の大家族に恵まれて幸せな人生を送ってきました。しかし、ローエンという巨大グループ会社に騙されて、会社が存続の危機に瀕します。長年連れ添った糟糠の妻は、「75歳にもなって、訴訟するなんてみっともない」と諭しますが、家族に借金を残したくないジェリーは息子の友人の弁護士(黒人)に相談します。顧問弁護士はいましたが、問題が黒人の多い南部にあり、裁判をするなら陪審員が黒人と考えられ、南部の事情に詳しい人間に任せたいと考えたからです。しかし、乗り掛かった若い弁護士は、和解金をもらって弁済を受けるだけではすまない背後の巨悪を感じ取ります。
自分の手にあまると感じたその弁護士は、やり手と噂の弁護士ウィリーに協力をお願いしますが、賠償金の低さに乗り気になってもらえません。しかし、
「ことは報酬の額ではなく、背後にいる多くの被害者を救える可能性があるのに見捨てられるのかという人道的な問題がある。ヒーローとなる道を捨てるのか」と熱弁し、何とか説得に成功します。
狡猾なローエングループは、ブーマーズがやがて寿命を迎えるものの南部に葬儀会社が少ないことに目をつけ、ライバル会社を潰して、牧師や神父を通して病に苦しむ家族のいる人たちにまだ死ぬ前から相場を遥かに超える金額で棺(ひつぎ)を売り捌いていました。
さらにローエンは、訴訟になるとハーバード大学主席卒業の黒人系女性弁護士を雇い、ジェリーやウィリーの弱味を握って裁判で揺さぶりをかけます。
裁判で過去の苦い失敗を根掘り葉掘り追及されたジェリーはプライドを傷つけられ、対策もなく法廷に立たせたウィリーを詰り仲違いします。しかし、自らの言葉に後悔してウィリーのもとを訪ねると夫から電話でジェリーの事をよく聞いていた夫人から温かく迎えられます。ウィリーも夫人のアドバイスを受け、ジェリーに人生初の謝罪をします。
「裁判には勝てなかったが、歳をとってまた新たな友情が得られた」と入り混じる諦念と幸福に複雑な心境を滲ませるジェリー。
しかし、ウィリーは諦めず、逆転の一手に出ます。
ローエングループが南部で得た葬儀事業の収益を調べ、相場より高い葬儀費用をふっかけられていたことを住民に説明し、複数の住民に証言台に立ってもらい、証拠を積み上げて、見事5億ドルの賠償金を勝ち取るのです。

移住者によってなんとか人口減少を免れても、葬儀所や保育所などインフラの不足は日本の都市部を映す鏡のようです。
実際、疫病の流行最盛期には日本でも火葬待ちの話が取り沙汰されました。
日本では地方で葬儀会社の選択肢がないというほど葬儀場不足の話は聞かれません。しかし、従業員は不足しており、本作で「悩みの相談に行ったら、牧師から葬儀場の従業員になるよう強いすすめにあった」という登場人物の言葉は決して他所ごとではありません。

安息の得られないブーマーズ、団塊世代

ベビーブームについて調べるうち、つい前述で「アメリカではブーマーズが強い影響力を持っている」と一方的に断じてしまいましたが、日本の団塊世代を見てもそれだけ社会貢献度が高いからとも言えます。

ブーマーズより上の世代にはなりますが、つい最近タレントの黒柳徹子さんの発言が話題になりました。
「私の収入の9割は税金として納めています。(政府には)もう少し認めていただいても」と発言したら、当時国会ですぐ取り上げられ、所得税が60%に減じられたそうです。

今は所得税率はさらに下がっています。しかし、様々な税目が増えて、かつてはなかった消費税の引き下げが待望されています。
税金の引き下げは願ってもない事です。
一方で税金が下がった後、これまでと同じような充実した福祉社会が維持されるか心配です。
わたしは独身で墓も要らず、無縁仏でも庭に散骨されても構わないと思っています。
しかし、そうした人ばかりではなく、墓じまいや分骨など丁寧な終活を行っている人たち、例えば団塊世代とその兄弟家族がアメリカのブーマーズのような葬儀ビジネスのターゲットになることは今後日本でもありうるでしょう。
しかしながら、日本は幸いな事に万人に医療を受ける道が開かれ、全ての面倒事を放棄しても穏やかな最期を望む選択肢が与えられています。
アメリカの医療費の高さは有名です。一方で国家予算を見れば5割以上が社会保障です。日本の社会保障も30兆円以上と少なくない額ですが、予算に占める割合は30%後半です。
日本では保険適用でない医療もアメリカでは保険適用の場合もあります。

どちらの国が良いとは言えません。また昔が良かったとは言えません。かつて日本は所得税率は今よりはるかに高く、児童手当もなかったのです。

作中の
「神父牧師に葬儀にはそれだけ金がかかるものと言われたら信じてしまった」など、自分の意思がはっきりしていると言われる欧米の方でも、やはり日本人に似た文化的な側面を感じました。
比較的に無神教に近いと言われる日本人、多様な宗教を受け入れてきたアメリカ社会とまるで違うように見えて似ているのは、根源に「終わりを迎える時には神か何かに縋るもの」という固定観念があるような気がしました。

"神や仏はお布施を望まない。使徒はお布施を望むだろうか。"

解けない命題を与えられた気がしました。

トミーリージョーンズ

1946年生まれ。
ハーバード大学英米文学部卒業。
幼い頃、父は油田会社で働いており、母は警察官。
1993年「逃亡者」でアカデミー助演男優賞受賞。
好物が「鮎の塩焼き」と答えるほど日本通。2012年、『メン・イン・ブラック3』のプロモーションワールドツアーで、唯一、日本だけに参加し、「私は本当に日本が大好きで、日本に来るのはいつも幸せ。本当に美しい国ですし、私にとっては第二の故郷。ファンがいるということはあまり意識していませんが、こうやってみなさんにお会いでき、本当に嬉しく思います」と、自らの日本好きを語っている。

wikiより

日本では缶コーヒーBOSSのテレビCMで馴染みの方が多いでしょう。第二の故郷と呼ぶほどですから、相当日本にお詳しいのだと思います。
CMの宇宙人役は代表作「メン・イン・ブラック」のパロディ風だからでしょうか。
ご本人が黒人主演映画に好んで出演されるのか、そういうオファーが多いのか分かりませんが、何だか人種の垣根を作らない役が多く、実際にそういう人なんだろうと勝手なイメージしています。
1946年生まれなので、トランプ大統領、ブッシュ大統領と同年のブーマーズ長子世代ですね。まさにこの作品に適役です。人間の多い世代に育って生きてきたから、それだけ多くの軋轢や苦労に慣れているのかもしれません。
コメディ映画で明るい黒人男性の隣でいつもしかめ面の堅物をコミカルに演じられています。
実は、「眠りの地」も実話に基づく社会派映画と思ったらコメディに分類されていました。
ストーリーを見るとどの辺がコメディ?なのかと疑問です。
しかし、重たい社会問題を扱った映画でもトミーリージョーンズをはじめとした出演する役者の方々が見る人にあまり重たく暗い印象を与えないように演じられる力量はまざまざと感じられました。
先に書いた通り、私は親の兄弟が団塊世代です。親はアメリカの言い方だとブーマーズ。
日本でもベビーブーム世代の終活は身近な話題ですので、作品として面白いだけでなく、人生の参考になるドラマだと思います。
年末に家で見るにはぴったりです。

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