【映画感想文】ベビーブームの終わりに待つのは?
あのトミーリージョーンズがAmazon originalドラマに出演していました。
【 prime Video】眠りの地
そうそうたる出演者です。トミーリージョーンズの人徳でしょうか。或いは実話で、物語の共感性が高いため、素晴らしい役者が揃ったのかもしれません。
トミーリージョーンズ映画といえば、黒人の相棒が欠かせません。
相棒の登場が時系列的で遅ればせだったのは、実話ならではなのでしょうが、次第に明かされるそれぞれの身上話が展開に奥行きを与えていました。
法廷ドラマ。
南部の黒人がビジネスの被害者になり、巻き込まれた白人経営者が黒人の弁護士を雇う。
冒頭の人間関係でほぼ結末は見えていました。古くさい勧善懲悪。パターン化したストーリー。そんな風に見えても、それが茶番のように繰り返されるアメリカの現実に違いありません、、、。
※以下、ネタバレします。Amazon prime会員の方は読まずに、本作を鑑賞されることをおすすめします。
第二次世界大戦後のベビーブーム
「眠りの地」のあらすじを話す前に、ベビーブームについて確認をしておかなければなりません。
ベビーブーマーはいわゆる日本の団塊世代とその後の15年の間に生まれた兄弟世代の主にアメリカでは60代70代の事です。
本作では、アメリカに「5400万人のベビーブーマーがいる」と主人公ジェリーが発言しています。また、主人公ジェリーとその相棒の弁護士ウィリーは75歳と50代と推測され、共に兄弟が11人と9人いると答えています。
私の両親は共に3人兄弟の末っ子で、兄姉が団塊世代にあたります。日本の団塊世代が今の出生率の3倍程度であることを考えると、アメリカのベビーブーマーがいかにアメリカ社会に影響を与えているかは想像に難くありません。
日本は長寿の国と言われますが、アメリカも視点によりますが、大体70代後半が平均寿命らしく、短いとは言えません。しかしながら、兵役のあるアメリカは人口が減少する機会が他国より少なからずあり、それらが移住によって補われてきた印象があります。
実際ここ数年の世界的な疫病の流行により、日本も人口減が早まりましたが、アメリカは早くも回復しており、移住がそれだけ多いことは統計より明らかです。白人種、黒人種、先住者、移住者の出生率までは分かりませんが、日本より年若いベビーブーマーは疫病から逃れ、またそれ以上の年齢の団塊世代が依然としてアメリカ社会の中心となっているのが、トランプ大統領やバイデン大統領の年齢に象徴されているように感じられます。
死の商売
移住者によってなんとか人口減少を免れても、葬儀所や保育所などインフラの不足は日本の都市部を映す鏡のようです。
実際、疫病の流行最盛期には日本でも火葬待ちの話が取り沙汰されました。
日本では地方で葬儀会社の選択肢がないというほど葬儀場不足の話は聞かれません。しかし、従業員は不足しており、本作で「悩みの相談に行ったら、牧師から葬儀場の従業員になるよう強いすすめにあった」という登場人物の言葉は決して他所ごとではありません。
安息の得られないブーマーズ、団塊世代
ベビーブームについて調べるうち、つい前述で「アメリカではブーマーズが強い影響力を持っている」と一方的に断じてしまいましたが、日本の団塊世代を見てもそれだけ社会貢献度が高いからとも言えます。
ブーマーズより上の世代にはなりますが、つい最近タレントの黒柳徹子さんの発言が話題になりました。
「私の収入の9割は税金として納めています。(政府には)もう少し認めていただいても」と発言したら、当時国会ですぐ取り上げられ、所得税が60%に減じられたそうです。
今は所得税率はさらに下がっています。しかし、様々な税目が増えて、かつてはなかった消費税の引き下げが待望されています。
税金の引き下げは願ってもない事です。
一方で税金が下がった後、これまでと同じような充実した福祉社会が維持されるか心配です。
わたしは独身で墓も要らず、無縁仏でも庭に散骨されても構わないと思っています。
しかし、そうした人ばかりではなく、墓じまいや分骨など丁寧な終活を行っている人たち、例えば団塊世代とその兄弟家族がアメリカのブーマーズのような葬儀ビジネスのターゲットになることは今後日本でもありうるでしょう。
しかしながら、日本は幸いな事に万人に医療を受ける道が開かれ、全ての面倒事を放棄しても穏やかな最期を望む選択肢が与えられています。
アメリカの医療費の高さは有名です。一方で国家予算を見れば5割以上が社会保障です。日本の社会保障も30兆円以上と少なくない額ですが、予算に占める割合は30%後半です。
日本では保険適用でない医療もアメリカでは保険適用の場合もあります。
どちらの国が良いとは言えません。また昔が良かったとは言えません。かつて日本は所得税率は今よりはるかに高く、児童手当もなかったのです。
作中の
「神父牧師に葬儀にはそれだけ金がかかるものと言われたら信じてしまった」など、自分の意思がはっきりしていると言われる欧米の方でも、やはり日本人に似た文化的な側面を感じました。
比較的に無神教に近いと言われる日本人、多様な宗教を受け入れてきたアメリカ社会とまるで違うように見えて似ているのは、根源に「終わりを迎える時には神か何かに縋るもの」という固定観念があるような気がしました。
"神や仏はお布施を望まない。使徒はお布施を望むだろうか。"
解けない命題を与えられた気がしました。
トミーリージョーンズ
日本では缶コーヒーBOSSのテレビCMで馴染みの方が多いでしょう。第二の故郷と呼ぶほどですから、相当日本にお詳しいのだと思います。
CMの宇宙人役は代表作「メン・イン・ブラック」のパロディ風だからでしょうか。
ご本人が黒人主演映画に好んで出演されるのか、そういうオファーが多いのか分かりませんが、何だか人種の垣根を作らない役が多く、実際にそういう人なんだろうと勝手なイメージしています。
1946年生まれなので、トランプ大統領、ブッシュ大統領と同年のブーマーズ長子世代ですね。まさにこの作品に適役です。人間の多い世代に育って生きてきたから、それだけ多くの軋轢や苦労に慣れているのかもしれません。
コメディ映画で明るい黒人男性の隣でいつもしかめ面の堅物をコミカルに演じられています。
実は、「眠りの地」も実話に基づく社会派映画と思ったらコメディに分類されていました。
ストーリーを見るとどの辺がコメディ?なのかと疑問です。
しかし、重たい社会問題を扱った映画でもトミーリージョーンズをはじめとした出演する役者の方々が見る人にあまり重たく暗い印象を与えないように演じられる力量はまざまざと感じられました。
先に書いた通り、私は親の兄弟が団塊世代です。親はアメリカの言い方だとブーマーズ。
日本でもベビーブーム世代の終活は身近な話題ですので、作品として面白いだけでなく、人生の参考になるドラマだと思います。
年末に家で見るにはぴったりです。
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