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「窓辺の猫」第21回 眠れぬ猫と飼い主

猫は朝焼けを見る。
我が家の三毛猫は窓辺が好きだ。
破れた障子紙の隙間から空けていく景色をじっと眺める。
しかし、後輩猫と私はそれが許せない。
三毛猫の後ろ姿が憎々しい。

三毛猫は日が昇りきる頃に眠りにつく。
深夜に起き出して、走り回ったり、虫を捕まえたり、人間にちょっかいをかけたり、さんざん遊び回ったあげくに、朝の6時頃に再び眠る。

先輩猫が起きると当然後輩猫も起きる。
どんな楽しいことがあるのかと思えば、虫を見つけてはしゃいでいる先輩に呆れる。
爪とぎの上に再び丸まって寝ようとするが、寝ている人間の頭の下に虫を詰め込もうとする先輩が気になる。
蜘蛛は珍しくないが、ゲジゲジはちょっと珍しかったので、一緒追いかけ回して潰した。
先輩猫が器用に人間の頭の下にゲジゲジを詰める様子は勉強になった。
一緒に枕の下や布団の下にバラバラになった足を詰め込もうとしたら、先輩に怒られて面白くなかった。腹いせにゲジゲジの胴体は食べてやった。
頭の下に虫を入れたら人間は目を覚ましたけど、頑なに身体を横たえたままだった。
先輩は成果を見て欲しかったらしく、布団の上から人間の足をツンツンやった。

しかし、人間はスマホで時間を確認して、「まだ早いよう」とうめいていた。枕に顔を埋めたのは虫に気づいていないからだろう。

うげっ!

三毛猫に強く足を引っ掻かれた人間はようやく布団から上体を起こした。
ガシガシ頭をかいたら、パラパラと髪からゲジゲジの足が落ちた。

早朝3時半。秋は深夜も早朝も過ごしやすい。ひんやりする空気が気持ちいい。目覚めがよく冷静な頭は、すぐに髪から落ちたものが虫の長い足であることを理解した。

飼い主は悲鳴を上げた。三毛猫は驚いて、縦置きのダンボールの爪とぎに避難した。

スコップにうんちを丁寧に入れたり、虫を布団に詰めたり。そんな事をするのが好きなのは、三毛猫先輩だと飼い主はわかっている。

後輩の麦わら猫も先輩から学んでいるが、爪とぎの破壊や扉を開けて破壊したり、おもちゃで遊ぶ方が楽しくて好きだ。

先輩の仕業だから、関係ないもん。
でも、人間の反応が面白いから私も虫を布団に詰めてみようかしら?

三毛猫は褒められると思っていた。
ゴキブリやムカデを仕留めた時は「良い子だねー」って感激して、頭を撫でてくれたじゃないの。
ゲジゲジや蜘蛛はダメなの?

布団に詰めるのがダメなんだという事を猫たちが分かってない事も飼い主はわかっている。

人間に睨まれて爪とぎの上でしょんぼりする三毛猫様。

雲行きが怪しくなって、知らんぷりしてちゃっかり人間の布団に横になる麦わら猫様。

しばらく睨まれて、痺れを切らして三毛猫が台所に逃げ出した後を慌てて人間も追いかけた。

猫様に少しカリカリごはんを用意して、人間のごはんを作って、猫様にごはんをおかわりさせて、猫様と一緒にごはん。

早朝5時に猫様とごはん。
人間より先に食べ終わった猫様たちは水を飲み、トイレに行き、再びごはんがもらえないかとじっとおすわりして見つめてみるが、もらえない。

先輩猫がうろちょろする。人間の足元に甘える。
自分ばっかりスリスリして。
夜中から寝てない後輩猫はいらいらして、先輩猫が人間の枕にどっかり座ったのを見計らって先輩猫の首元に噛み付く。
自分ばっかり甘えて!
あたしとは遊んでくれないくせに!

ちょっと牙に力を籠めると先輩猫は再び人間の足元に逃げ込む。先輩猫は卑怯者。

まだごはんを食べている人間の足元から机の下を抜けて、三毛猫はそっと破れた障子戸の前に座る。
夜が空けて、空が白み始めたのだ。

三毛猫はそれをじっと眺めて、空がすっかり明るくなる前にケージの中に入る。
ごはんの催促じゃない。ようやく寝るのだ。

午前6時。すっかり目が覚めた人間はごはんを食べ終えて、食器を洗う。そのままお菓子作りに突入したりする。

あるいは部屋に戻ってマクラメ編みや動画見たり。
気づいた時には、猫はすっかり夢の中。
いや後輩猫は爪とぎベッドの中で目は覚めていて、時折頭を上げてはケージの中の先輩を恨めしそうに見ている。
人間も三毛猫が恨めしい。

せっかく起きたならもうちょっと遊んでよ。こっちがすることなくなったら、寝るってなんなの。猫と人間の眠りを邪魔するために起きたのか?

人間が深夜に目が覚めて猫の眠りを妨げることもある。あまり丈夫でない三毛猫が早朝に起き出す時は調子が良い証拠。
でも、あまりにも勝手気ままじゃないかい。
少しは人間や後輩猫の生活ペースに合わせようとしてください。

することがなくなった人間はnoteを開く。
恐る恐る。
スマホやパソコンをいじっていると猫たちが机に飛び乗って、スマホやパソコンを隠そうとすることがあるのだ。猫たちにとっては、それが楽しい遊びだろうが、人間は大迷惑だ。

猫たちがすっかり寝入っている事を確認すると人間はやっと安心して、文章を打ち込み始める。それが、今回猫の愚痴になったのは仕方ないことだろう。猫は名前の割に寝ない。
少しの物音で目を覚ます。
まるで不眠症の人間みたいに。

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