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就任1か月半の動向から見る佐々岡新政権の「色」

5年間で3度のリーグ優勝の偉業を成し遂げ、セリーグでは巨人以外の球団で初のリーグ3連覇を果たした緒方孝市政権が、この2019年シーズンをもって幕を閉じることとなり、2020年シーズンからは新たに佐々岡真司が監督の座に就くこととなりました。加えて横山竜士や朝山東洋が一軍コーチに加わり、フロントの素早い動きでピレラやDJジョンソンといった新外国人選手を獲得するなど、前年までから首脳陣のみならず動き出しの早さの面でもチームに変化が起こっています。

そんな久々に大きな変化の続く2019年のオフシーズンですが、既に佐々岡政権となって初の秋季キャンプを終えており、色々な面で佐々岡色や新任コーチそれぞれの色が見られたり、それまでになかった取り組みが見られたりと、前政権から特色や取り組みの変化も多く見られるようになってきています。

まだ就任して1か月半と日は浅いですが、各種報道からぼんやりと見えてきた佐々岡新政権の特徴や新チームの構想について以下にてまとめていきます。

1.「強さ」の重視

まず第一に挙げられるのが、投打ともに「強さ」を重視している点でしょう。

最初の就任会見時に「カープ野球は走って、1点を取る中で、今の野球というのは長打が出て、ランナーをためて長打が出るという、そういう野球も必要なのかなと。クリーンアップの誠也だけが固定されて、他はなかなか固定されなかった、長打力が少なかったというのも得点力不足だと思うので、それプラス補強というのが、クリーンアップの長打力というのがほしいところではあります」と語っているように、機動力野球が広島の野球であるとは認めつつも、得点力の底上げのために長打力も重視する方針を打ち出しています。

長打を放つには、当然当てに行くのではなくハードコンタクトする必要がありますし、スイングの強さが必要となってきます。そういう意味では「強さ」を重視していると取れるのではないでしょうか。

その他にも、新任の横山一軍投手コーチと朝山一軍打撃コーチ、一軍打撃コーチから配置転換となった東出輝裕二軍打撃コーチにも同様の方針が見て取れます。

横山コーチは就任会見で「今季は三振が少なかった。四球を減らすため、制球を意識しすぎるのではなく、どんどん攻める気持ちを持って、三振を取れる投球をしてほしい」と語ったように、奪三振能力の向上を現投手陣に求めています

単純に球速アップに代表されるようにボールに力強さが増せば、それだけ打者から空振りを奪える確率も上がりますし、奪三振能力の向上に繋がるでしょう。加えて制球を意識しすぎるのではなく、ゾーンに力強いボールを放ることで四球減にも繋げることができます。

という点から、横山コーチの基本方針も打者を押し込むような「力強さ」を重視していると見て取れます。

今季打撃に力強さの欠けた野間峻祥でしたが、この秋は西川龍馬や秋山翔吾のような後頭部にバットを寝かせるような打撃フォームへと改造したようで、秋季キャンプの紅白戦では2本塁打を放つなど力強さが戻ってきました。

そんな野間に対して朝山コーチは「いい感じだったと思う。今は形になっている。あとは小さくまとまらないように。十分長打を狙える打撃も目指してもらいたい」とのコメントを残しています。

佐々岡監督がの就任時のコメントにあった長打力重視の方針をしっかり受け止めて、元来スタンドに放り込めるだけのパワーを持つ野間の潜在能力の開花のために「長打を狙える打撃」=「強さ」を求めていることが窺い知れるのではないでしょうか。

高卒ルーキーながら二軍で打率.300/23盗塁をマークし、フェニックスリーグでも1番打者として起用され、打率.300超と結果を残した羽月隆太郎ですが、今季は三遊間にゴロを転がして自慢の快足を生かすような打撃となっていたそうです。

それに対して、東出コーチ「今のままでは1軍で通用しない。バットで生きられる技術を、足が速いうちに身に付けよう」との一言で一念発起し、バットを振り切って力強い打球を飛ばすスタイルへの転換を図っているとのことです。

小柄な羽月とはいえ当てて転がす打撃に注力するのではなく、しっかり振り切るスタイルを推奨している点は、スイングの「強さ」を重視していると見るべきでしょう。

以上のように、3人のコーチで方針が貫徹しているということはチーム方針と捉えてよさそうですし、その方針が「強さ」という共通項で括ることができると捉えても問題はないと思います。

その他にも、秋季キャンプでは選手各々で課題に対してじっくり取り組める時間がありますが、球威アップや長打力アップといった「強さ」というテーマに沿った課題に取り組んでいる選手が上記記事からも多くいることが分かります。しっかり選手にも「強さ」というテーマはしっかり伝わっていることがよく分かります。

若手有望株の多い現チームにおいて、技から入るのではなく各々が持つエンジンを大きくしようとする方針は、今すぐ結果は出なくとも将来的なリターンは大きくなるでしょうから、再び3連覇に近しい黄金期を築く上ではマクロな視点に立った素晴らしい方針と言えるのではないでしょうか。

2.様々なコンバート案

次シーズンまで時間のある秋の時期や新政権となると必ず話題となるのが、投手野手両者のコンバート案ではないでしょうか。投手は先発→リリーフ、もしくはその逆の流れ。野手は新たな守備位置への挑戦といった具合です。その流れに漏れず、佐々岡新政権となった広島でも様々なコンバート案が浮上しています。

①野手コンバート案

野手については新ポジションへの挑戦について、様々な報道がされていますが、この秋に上がったものをひとしきり並べてみようと思います。

I 西川龍馬の3B再挑戦

個人的に一番大きな挑戦は、西川の3B再挑戦だと考えています。2019年はOFに専念することで、前年スローイング面の不安から17失策を記録した守備に対する不安が減り、上記記事中にもあるように打撃に集中できたとのことで、眠っていた長打力が開花し、16本塁打を放つなど一定の成果を収めました。

という経緯から、3B再挑戦は打撃にも影響を与えかねずリスキーとの見立てが多いのは事実ですが、編成的な観点から見ると長年穴であった3Bが埋まることは大きな意味を持ちますし、選手起用の幅が広がることはチームにとっては大きなプラスとなります。東出コーチは「外野をやったことで(内野守備の)送球が安定した」と自身に経験を述べており、ひとまずこの秋再挑戦してみる価値は十分あるのではないでしょうか。

西川自身の気持ちはOF一本とのことですので、それを曲げさせてまで3Bの守備につかせる必要はないとは思いますが、この秋の再挑戦でスローイングに好感触が得られたのであれば春のキャンプでも継続してみるべきでしょう。

ここから分かることとしては、OF挑戦で打撃開花した西川を3Bに回すことを検討するほど、このポジションを穴であると認識しているということではないでしょうか。

II 安部友裕のOF再挑戦

西川が3Bへ再挑戦する一方で、3Bのレギュラー格であった安部友裕はOFへの再挑戦を行なっています。2012年〜2013年、2016年に一軍でOFとしての出場を果たすなど、過去から挑戦を行なってきたポジションですが、再び本格的に挑戦するようです。

菊池涼介がMLB移籍を果たした際には、2Bへ本格挑戦することにもなるでしょうが、OFも出来れば出場機会は当然広がるでしょう。またストレートに強く試合終盤にその存在が重要となるため、代打で登場してきてそのままOFの守備につくなんてことも出来れば今以上に重宝される存在となるのではないでしょうか。

Ⅲ 磯村嘉孝のIF挑戦

2019年は出場機会を増やし、打撃でも存在感を見せた磯村嘉孝が、1B/3Bへ挑戦しています。正捕手の會澤翼がチームへの残留を発表したことで、来季も出場機会が限定されることは決定的です。ですので、その打力を生かす名目で層の薄い両コーナーのポジションへの挑戦を行なっています。

個人的には、層が薄く捕手との互換性も高い3Bをより重点的に取り組んでもらいたいと思っていますが、秋季キャンプでは1Bを重点的に取り組んだようで、そこにどのような意図が働いたのかは少々疑問ですが…

いずれにせよ、3B挑戦報道が出ているということは、やはりこのポジションの層の薄さを映し出していると言えるのではないでしょうか。

Ⅳ 坂倉将吾のIF挑戦

前述の磯村と同じく、坂倉将吾も1B/3Bへの挑戦を行なっているようです。會澤翼のチーム残留の影響も大きいのでしょうが、上には磯村がおり、下には地元出身ドラ1の中村奨成がいます。加えて、この秋のドラフトで捕手を2名指名したという点から、こちらも得意の打撃を生かすために今季挑戦したOFだけでなくIFへ挑戦する運びとなったのでしょう。

磯村と同様に、捕手の充実度とコーナーポジションの薄さを見ての挑戦かと思われます。坂倉にとっては、自身のポジションが落ち着かず、打撃にも集中しづらい環境下にあるという厳しい状況ですが、真のレギュラーを掴むにはこのくらいの壁は超えてほしいですし、モノが違うことを自身の実力で示してほしいものです。秋季キャンプの紅白戦では打率.571を記録し、佐々岡監督から野手MVPに指名されるなどその素地は既に出来上がっています。

Ⅴ 小園海斗の2B/3B挑戦

高卒ルーキーながら、後半戦は一軍のSSに定着した小園海斗ですが、来季は田中広輔とSSのポジション争いとなる、かつ菊池が抜ける公算が高く、2Bのレギュラーが不在となることから、2Bもしくは3Bへの挑戦も行なっています。

菊池の後釜となる存在を育成できていなかったために、ここに来て小園が2Bへ挑戦することとなっていますが、個人的には田中広輔を2Bとして起用し、小園をSSとして英才教育してほしいと思っています。ただ、日本代表選出経験やタイトル獲得経験のある田中の選手としての格もありますから、そこは実力で勝ち取るしかないでしょう。

2Bや3Bへ挑戦させていることは、首脳陣の一軍戦力としての期待を窺わせますし、将来のコア野手としてどこかしらでレギュラーポジションを掴み取ってほしいところです。

Ⅵ 堂林翔太2B挑戦

将来を期待されて起用された野村謙二郎政権とは打って変わって、緒方政権では中々出番に恵まれなかった堂林翔太ですが、このオフはOFや1Bのみならず2Bにも挑戦することとなりました。

元々3Bではスローイングが課題で、動き自体はそこまで悪くなかったため、2Bでもそれなりの守備力は示せる可能性はありますし、一塁への距離が近付くことでスローイングの改善にも期待がかかります。加えて、菊池が抜けると2Bではそれに次ぐ選手がいないのが現状ですから、堂林にとっては現状を打破するチャンスと言えるでしょう。

ただ、堂林は兎にも角にも打てないと起用の選択肢には入れないでしょうから、三振を恐れて当てにいくのではなく、「強く」振ることを意識してほしいものです。そうすれば長打の期待できるUTとして、一軍登録枠へと入っていけるのではないでしょうか。

以上のコンバート案を見ると、絶対的な存在であった菊池が抜ける可能性の高い2Bとレギュラー不在の3Bの穴を危惧している点が窺えるのと、UT野手を増やすことで選択肢を増やし、今季低迷した野手力の復活を試みていることが何となく窺えます。

②投手コンバート案

投手についても、野手と同様にコンバート案が上がっている選手について、ひとしきり以下に並べていきます。

Ⅰ遠藤淳志先発挑戦

高卒2年目ながら一軍で34試合の登板を果たした遠藤淳志ですが、来季は先発へ挑戦することが決定的です。フェニックスリーグでも4試合先発し、秋季キャンプ中の紅白戦でも先発のマウンドを任されるなど首脳陣からの期待も非常に高いものとなっています。

この秋季キャンプでは、佐々岡監督から投手MVPに指名されるなど、評価も上々で首脳陣の期待に応える投球を披露しているようです。あとはノビのあるストレートと高速チェンジアップが武器の投手なだけに、スライダー系統の出来が先発としての成否を左右するでしょうから、そこのブラッシュアップがカギとなるでしょう。

遠藤のような若手投手は、どんどん先発に挑戦すべきですし、アドゥワ誠のようにリリーフとして一軍経験を積ませた後、すぐ先発転向させたのは将来を考えても非常に良かったのではないでしょうか。

Ⅱ岡田明丈リリーフ挑戦

2017年には12勝を挙げた経験も持つ岡田明丈ですが、制球難に苦しみことが多く、2019年途中からはリリーフ登板することが増えていました。そのような流れと、「全部が全部ではないけど、他のチームのリリーフを見ても150キロの直球を投げるのが当たり前の中で、やっぱりボールの強い投手を後ろに置きたい」との佐々岡監督の方針から、150kmを超えるストレートを平均的に放ることのできる岡田がセットアッパー候補として名前が挙がることとなったわけです。

突如調子を崩すような場面が見られることから、技術的な幹が自身の中でも無かったのでしょうし、セットアッパーでそれが見られると少々起用に困る投手となりそうです。ただ、自分の中でこれというものを見つけて再現性を保つことが出来れば、ポテンシャルはホンモノだけに恐ろしい投手となるでしょう。

野手に比べると、投手はコンバートについての報道は少なかったですが、2019年逆転負けを多く喫したことと強いボールを投げられるリリーフを求める方針から、リリーフ強化の名目で岡田をコンバートするとともに、逆にリリーフで結果を出した遠藤を将来も見据えて先発に転向させるという、来季と将来の二面を見据えたコンバートだということが分かります。

3.実戦的なスタイル重視

「強さ」を重視する大まかなチーム方針や、チーム編成を考えた上でのコンバート案をここまで確認してきましたが、ここからは秋季キャンプで見られた練習法を取り上げて、どのような手法で選手の実力を高めようとしているのかを確認していきます。

まず一つ目は「インターバル投球」です。中身を説明すると、単に投げ込みを行うのではなく、より実戦に即した形で、20球を目処にインターバルを置いて投球を繰り返すという練習法です。更に、インターバル中は休憩するのではなく、自身の投球映像を確認できるシステムを用いて、フォームの微修正を行いながらの練習ですので、調子が悪い日の自身の立て直し方も身に付けることが出来ます

横山コーチの提案で実現した練習とのことですが、非常に実戦的な練習で投手陣にも好評とのことです。先発リリーフに限らずどの投手にも言えますが、インターバルが空くことで崩れる投手もいるだけに、予め予行演習を行っておくのは悪いことではありません。

続いては「実戦の多さ」です。上記記事にある通り、1クール2回で計8回の紅白戦を行い、実戦を多く取り入れながら課題克服や技術向上を目指しました。

紅白戦ということで、見知った相手との対戦となりますが、いくら練習で上手くできていても実戦でそれを発揮できないのでは意味がありませんから、秋季キャンプとはいえ多く実戦を行うのは理に適っているのではないでしょうか。そこで結果を出せなければ、どのようにしたら発揮できるかを考えるきっかけになりますし、結果を出せればここまで練習でやってきた方針をそのまま続けていけば良いことも分かります。また、そこでの結果がオフでの取り組みにも影響を与えてくるものだと思います。ですので、紅白戦とはいえ実戦を増やすことは悪いことではないでしょう。

以上より、佐々岡政権の方針では実戦やそれに近しい練習法を取り入れながら、如何に実戦で力を発揮できるかという点を重視していることが分かります。「強さ」を根本的に重視しながらも、実戦でそれを如何に応用できるかという応用力を身に付けさせようとするスタイルは、選手が実力を付けるには持ってこいの素晴らしいスタイルではないでしょうか。

4.まとめ

様々な側面から佐々岡新政権での特徴を探って行きましたが、リーグ3連覇のチームから新たに作り直すことを考えると、真っ当な方針で対応しているのではないかと個人的には感じます。とは言っても未来だけを見ているのではなく、来季へ向けての対策もしっかり行なっているため、マクロにもミクロにも対応した方針となっており、まだ就任して1ヶ月半ですが、そこは評価すべき点だと思います。

また、厳しさを前面に押し出した印象のある緒方監督に対し、佐々岡監督は柔和な印象で選手との対話もしっかり行なっているようです。前政権時代の厳しさが失われることで、チームに緩みが出るのではないかとの心配もあるのでしょうが、私はそこまで心配していません。なぜかと言うと、日本を代表する選手へ成長した鈴木誠也を始めとして主力選手にはストイックな選手が多く、その背中を見る若手選手たちに、自身を追い込むことに対する緩みは出ないのではないかと思うためです。

最後になりましたが、佐々岡新政権のここまでの特徴をまとめると「強さ」と「実戦力」がキーワードとなるでしょうか。春季キャンプとなるとまた違った色が出てくるでしょうから、そこにも着目して、佐々岡新政権がどのような方向に進んでいくのか注視していきたいと思います。

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