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2020年 広島野手陣を占う

前回、前々回と2020年の広島の投手陣について考察を加えてきましたが、最終編となる本稿では、野手陣について考察を加えていきます。

1.2019年の野手陣を振り返る

まず最初に、これまでと同様にして2019年の野手陣は相対的にどのような立ち位置にあったのかについて、確認していきます。

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DELTA社によるポジション別得失点を見ると、捕手と右翼はリーグトップとなる非常に高い得点を記録しています。一方、三塁、遊撃、左翼、中堅は大きなマイナスを計上しており、両ポジションのプラス分を相殺してしまっている形となっています。

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各ポジションを攻守別に見てみると、三塁は攻守どちらもマイナス遊撃は攻撃面で大きなマイナス左翼も攻撃面で大きなマイナス中堅は守備面で大きなマイナスとなっていることが分かります。

以上より、2019年シーズンの野手の特徴としては、
①圧倒的な傑出力を誇る捕手と右翼
②継続的な三塁の穴
③遊撃、左翼の攻撃面での大幅なマイナス
④丸佳浩の抜けた中堅で、守備面の大幅マイナス
となるでしょう。

①圧倒的な傑出力を誇る捕手と右翼

3年連続ベストナインに輝き、プレミア12では正捕手も務めた會澤翼が務める捕手と、弱冠25歳にしてMLBでのプレーも視野に入る鈴木誠也の務める右翼手はリーグNo. 1の傑出力を誇っています。この両名は引き続き広島でプレーを行うため、今後も強みとして機能しそうです。

②継続的な三塁の穴

2007年に新井貴浩がFA権を行使し一度阪神に移籍して以降、なかなか絶対的なレギュラーが生まれない三塁は、昨年も攻守ともに大きなマイナスとなりました。2017年に規定打席に到達し、打率.310/WAR2.9を記録した安部友裕の不振が大きく響いている形です。

③遊撃、左翼の攻撃面での大幅なマイナス

田中広輔がフルイニング務め上げていた遊撃は、田中が右ひざの故障による打撃不振に悩み、代替要員となった小園海斗も高卒ルーキーということもあって、2018年までと一転して大きな穴となってしまいました。

左翼も期待された松山竜平や長野久義も打撃不振が響き、打撃を求められるポジションながらリーグ平均以下の得点貢献しか出来ずじまいとなってしまい、得点力低下の一因ともなりました。

④丸佳浩の抜けた中堅で、守備面の大幅マイナス

丸佳浩が抜け、2019年広島の最大の懸念であった中堅ですが、途中から西川龍馬の定着で攻撃面の落ち込みは抑えることができました。しかし、それまで外野守備経験のない西川に守備力を期待することは難しく、かつ序盤に中堅を守った野間峻祥も守備面で貢献出来なかったことで、守備力は大幅なマイナスとなってしまいました。

以上のように、2019年広島野手陣は、複数ポジションに渡って大きな穴が空いたことで、トータルとして強みが作れなかったという状況でした。

2.2020年の陣容

2020年の陣容を展望すると、FA権を行使する選手はおらず、ドラフトや外国人の獲得によるメンバー構成の変化のみと、例年通りの動きの少なさとなっています。3連覇時に主力として活躍した選手もまだまだ多いため、その選手たちの復調に懸ける形となりそうです。

上記のような課題や昨年までの実績を踏まえると、今季の布陣は下記のようになるのではないかと予想します。

C:會澤翼
1B:松山竜平
2B:菊池涼介
3B:ピレラ
SS:田中広輔
LF:野間峻祥
CF:西川龍馬
RF:鈴木誠也

2-1.捕手

捕手は何と言っても絶対的なレギュラーとして會澤翼が君臨しています。打力は勿論のこと、フレーミングの意識も芽生え始めるなど守備面も向上の兆しがあり、他の捕手には非常に高い牙城となりそうです。チームリーダーとしての自覚も十分で、2020年もベストナイン級の活躍が期待されます。

それを追いかけるのが、球界有数のプロスペクトで捕手一本で會澤に勝負を挑む坂倉将吾と、代打で起用され複数の殊勲打を放つなど打力向上が著しい磯村嘉孝でしょう。

昨年と違い捕手一本で勝負をかける坂倉は、まず週1〜2で捕手として経験を積みながら、評価の高い打撃をいかにアピールしていけるかでしょう。打撃センスは本物だけに、一軍クラスのボールに早く適応し、打撃面を一軍クラスでの強みとして確立したいところです。

會澤の高い壁と坂倉や中村奨成の突き上げの板挟み状態にある磯村は、キャンプも二軍スタートと苦しい立場です。オフに一塁や三塁に挑戦したようにサブポジを増やし、出場機会を確保する必要がありそうです。

更に中村奨成石原貴規といった若手も、虎視眈々と第三捕手枠を狙います。中村奨は、ひとまず二軍で捕手としての引き出しを増やしつつ一軍初出場を。石原貴は、打撃型の捕手が多い中、得意の守備面で自身の色を確立させたいところです。

ジョンソン専属捕手の石原慶幸は、野村祐輔の投球術を引き出すようなリード論を若手に伝えいくことに期待しています。正直成績面はほぼ期待していません。

2-2.一塁手

昨年はバティスタが多く務めた一塁ですが、ドーピング違反によっていまだ契約は不透明な状況にあります。秋季キャンプから松山竜平が一塁に入っていることから、しばらくは松山が一塁を守ることになりそうです。

その松山ですが、昨年は二度の頭部死球の影響があってか7月まで調子が上がって来ず、苦しいシーズンとなりました。元来はファストボールに強く、鈴木誠也の後ろを打てるだけの力量はあるだけに、その打棒が2020年のチームの命運を握るかもしれません。加えて、一塁守備も現時点では怪しいと言わざるを得ないため、何とかレベルアップしてもらいたいところです…

昨年一塁を多く守ったバティスタも、本来なら貴重な戦力の一人です。ファストボールヒッターで長距離打者という、チームの得点力向上に大きく寄与出来る選手なだけに、ドーピングなしでどれだけの成績を残せるのかという懸念こそありますが、もし契約するのであればシーズン途中から戦力として機能してほしいところです。

それ以外で候補となるのはメヒアでしょうか。二軍では無双しているものの、一軍ではストレートに差し込まれるシーンが目立ち、成績は伸び悩んでいます。トップ形成は早くなっているため、一軍レベルのストレートに慣れ対応出来るようになれば、面白い存在となりそうです。

2-3.二塁手

ポスティングシステムを利用したMLB移籍を目指した菊池涼介が4年契約で残留したことで、二塁手の来季以降の見通しは非常に明るくなりました。

その菊池は、近年コンディション不良に苦しめられながらも攻守に最低限の成績は残しています。2020年も勝負強い打撃と、自慢の好守でチームを支える働きを期待しましょう。もう少し休ませながら起用すれば、成績の向上も期待できそうなため、そのような起用を検討したもらいたいところです。

その菊池の後ろを追いかけるのは、若手の曽根海成や本格的に二塁に挑戦をする堂林翔太でしょうか。曽根の走力とユーティリティー性の高い守備力は本物だけに、いかに少ない打席数で打力をアピール出来るかが大きなポイントになりそうです。堂林も各ポジションを平均以上に守れる守備力はあるため、左肩が入りすぎるフォームを改善出来れば、二塁に限らず出場機会は増えるでしょう。

2-4.三塁手

チームの中で大きな穴となっている三塁は、新外国人選手のピレラがそのポジションを掴む可能性が最も高い状況です。

元々菊池の穴埋め的に獲得された選手ですが、ユーティリティープレーヤーで基本的にはどのポジションも守ることが出来ます。キャンプでの様子を見るとどうも元中日・広島のルナのようなタイプで、日本では広角に打球を打ち返していく中距離打者としての活躍が期待されます。MLBでは弱点であった外のボールへの対応が、適応のカギとなりそうです。

もう一点不安な点を挙げると、しばらく三塁を守っていない守備面となるでしょうが、平均レベルで守れれば足も使える選手のため、広島のチームカラーに合った存在としてチームにフィットするのではないでしょうか。

その他に候補となってくるのが安部友裕でしょう。ここ2年の不振で、三塁のレギュラーの座は確実なものではなくなってきました。そのため、再び外野挑戦も始めたようで、安部が内外野守れるユーティリティープレーヤーとしてベンチに控えていると、ファストボールに強く試合終盤向きなため、重宝される存在になりそうです。ですので、安部をベンチに置けるかが、ある意味チームの浮沈を表すことになるかもしれません。

2-5.遊撃手

遊撃手争いは、田中広輔小園海斗の一騎討ちの様相を呈しています。

昨年は右膝の負傷により、大きく成績を落とした田中ですが、春季キャンプでは回復ぶりを見せつけ、簡単にポジションは譲らない覚悟を感じさせます。実績も十分で健康なら、田中が遊撃のポジションにつくことになるでしょう。

昨年高卒ルーキーながら高いポテンシャルを見せつけた小園は、体重増量を図り、打席での立ち位置や足の上げ方を変えるなど、このオフの間に様々な工夫を凝らしました。長打力は既に田中を上回るものを見せているため、あとは高速のボールに対応して率を上げていけるかが大きな課題となるでしょう。真のスタープレイヤーとなるべく、田中を別ポジションに追いやるレベルの活躍を見せれば、自然と優勝が近付くはずです。

2-6.左翼手

これといったレギュラー候補のいないポジションですが、最右翼は期待も込めて野間峻祥の名前を挙げたいと思います。

兎にも角にも課題は打撃ですが、秋山翔吾や西川龍馬のようなバットを寝かせるフォームに変更し、昨年は当てに行きがちだったスイングも、力強いスイングを意識することで秋季キャンプでは好結果を残しました。しかし、その他にも走塁能力こそ高いものの、昨年全ポジション合計UZRで-9.0を記録する守備面にも課題はあり、壁は盛り沢山ですが、それを乗り越えてレギュラーの座を掴み取ることが出来るでしょうか?

その他には、実績十分の長野久義、昨年飛躍の兆しを見せた高橋大樹、フェニックスリーグから好調を維持する正随優弥が候補に上がってきます。

広島の水にも慣れた長野が左翼でレギュラー奪取なるか、走攻守に一定水準以上のプレーを見せる高橋大が西川龍馬鈴木誠也の同級生とトリオを形成出来るか、中田翔の教えを請い長距離打者として正随が飛躍を遂げるか、といった点が見どころとなるでしょうか。

状況によっては松山が入る可能性もありますし、今季も非常に流動的なポジションとなりそうです。

2-7.中堅手

中堅は昨年結果を残した西川龍馬が、2020年もレギュラーとして定着することとなりそうです。

昨年は大きく長打力を伸ばし、勢いそのままに今季は3番への定着も期待されます。オフには肉体改造にも取り組み、そこで付けたパワーをバットに乗せ打率.300/20本塁打はノルマです。課題の守備も、慣れてきた昨年後半からは向上を見せており、昨年以上に守備でも貢献してくれそうです。

その他には、野間や育成から支配下に昇格してきた守備能力に秀でる大盛穂らがいますが、故障がない限りは西川のレギュラーは揺るがないでしょう。

2-8.右翼手

右翼には押しも押されもせぬ日本の4番、鈴木誠也が絶対的な存在として君臨します。

昨年は後ろを打つ打者が弱く、勝負してもらえないケースも多くありながら、12球団トップのOPS1.018を記録するなど流石の成績を収めました。前後の打者が良ければ圧倒的な破壊力を発揮するのは、昨年のプレミア12でも証明済みですので、鈴木の前後を打つ3番と5番がしっかり機能するようなら、三冠王を獲得しても全く驚きはありません。圧倒的な打撃成績を収めて、その手でMLB挑戦への道を切り開いてもらいましょう。

その他の選手としては、元々本職の長野や堂林も候補となってきますが、そこに加わったニューフェイスが宇草孔基です。

六大学リーグで1シーズン4本塁打記録したこともある長打力と、高校時代には1試合5盗塁を記録したこともある俊足が武器の5ツールプレイヤー候補の選手です。

課題としては、既にキャンプでも話題になっていますが踵重心となって、外のボールへの踏み込みが甘くなることや、イップス気味のスローイングが挙げられます。キャンプでは上記課題を解消させるなど、そのポテンシャルの一端を示していますが、一軍で出場機会を獲得するなら左翼となりそうです。ただ一年目は、まず二軍でこれらの課題の完全な解決を先決するのもありかもしれません。

3.まとめ

昨年大きく強みとなった捕手右翼の2ポジションは、メンバーに変化なく、今年も大きな強みとなりそうです。

一方、昨年大きなマイナスとなった4ポジションについて、三塁はピレラというニューフェイスを加える補強を行い遊撃は田中の復活と小園の成長に懸け左翼は相変わらず決め手を欠き中堅は西川の更なる成長に期待するという形になっています。現有戦力に期待する形となりそうですが、その現有戦力に上がり目があるため、余程のことがない限り昨年ほどの弱みとなることはないでしょう。

3連覇の主要因は圧倒的な野手の力でしたが、選手構成も変わりつつあり、3連覇時の野球の再現は非常に難しいでしょう。そうは言ってもまだまだ力のある野手は多く、有望株も多くいるため、3連覇の主要メンバーと若手の力が上手く噛み合えば、昨年以上の野手力の発揮し、自然と優勝も見えてくるのではないでしょうか。

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