見出し画像

荒れたコウロギ

台風が日本を目指して、あと少しってところで横に大きく流された。
「あとちょっとだったのに…!」
そんな悔しさを滲ませて、横から押してくる風に負けじと力を振り絞り抗って見せた。
最後は負けてしまったのだけど、その結果千葉県が大変な事になってる。

故郷では停電が続いているが、今日の風が少し涼しかった事が不幸中の幸い。
エアコンが使えない中、田舎のご老人たちは大丈夫だろうか。
小学校の窓が割れて、パソコンも使えなくて、野菜も枯れて、携帯も充電出来ない生活は、心の中の生命力をどんどん食べていくしか無いのだろう。

電力会社の人はきっとフル稼働で、早く何とかして!っていう視線を背中に浴びながら原因を突き止めてる筈だ。


東京には、埼玉には、蓄電は無いのだろうか?
ちょっとばかし貸してはもらえないか?
……出来たらきっとこんな事にはなっていないんだろうな。
根本的に大切な何かが、風と台風のバトルに巻き込まれたんだ。

地元の友達が、閉め忘れた窓から吹き込む雨の量が尋常じゃないというつぶやきを投稿したのとほぼ同時に、私は開けた窓から流れ込むコウロギの鳴き声に秋の訪れを感じた事をつぶやいた。

それに気が付いた瞬間、言葉には言い表せないくらいの距離の遠さを思い知って、凄い音を立てて内側の扉が閉まったのを感じた。

窓の外で悠々と羽を鳴らして遊んでいるコウロギの声が、途端にヒステリックに変わる。

荒れたコウロギはどこにいるのか。
今すぐ新幹線に飛び乗って確認しに行きたくなった。