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#5 W・B・イェイツ(訳・佐取優太)「窓のそばにあるムクドリのねぐら」

ゆるんだ石壁の割れ目に
みつばちたちが巣をつくる 母鳥が
地虫、飛ぶ虫を持ってくる。
わたしの壁はくずれそうだ。
みつばちよ、来て巣をつくれ
空っぽになったムクドリの家に

おしこめられた私たちは不安で、
そこへ鍵をかけられてしまった。
どこかで人が死んだ 家が燃された
けれども確かなところはわからない。
みつばちよ、来て巣をつくれ
空っぽになったムクドリの家に

石やら木やらで道をふさいで
十四昼夜の市民のいくさ
若い兵士の血まみれの亡骸が、
夕べ おもてを運ばれて行った
来て 巣をつくれ
空っぽになったムクドリの家に

まぼろしを食べてきた私たちは
心がすさんでしまったようだ。
愛のなかよりも憎しみのなかに
よりいっそうの、手応えがある どうか
みつばちよ、来て巣をつくれ
空っぽになったムクドリの家に

(1923年)

——

[訳者より]
○詩人について
 1865-1939、アイルランド出身。アングロ・アイリッシュ(アイルランドにとっては植民者である英国側の子孫)として、世紀末からモダニズムの時代の演劇・詩に活躍した。上に訳したThe Stare’s Nest by My Windowは、1922‐23年のアイルランド内戦をうけて書かれた「内戦時代の瞑想Meditations in Time of Civil War」の一部。

○訳者について
 Iutus Satorという名前で「ゆめみるけんり vol.4」に参加(ラテン語の創作を寄稿)。英文学はしろうとです。ジェイムズ・ジョイスが好きで、今年はダブリン旅行を計画していましたが、しばらく旅行もできそうにないので、その代わりに訳してみました。

○テキスト
C. Watts ed., The Collected Poems of W.B. Yeats, Hertfordshire, Wordsworth Editions Ltd., 1994.

[*Photo: “Chantry House, 2017,” by Elisa.rolle (Wikimedia Commons) is licenced under CC BY-SA 4.0