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ロマンチックが届かない


やった。
同じクラスだ。

中学三年生のクラス替え。
俺は谷口涼子と同じクラスになった。

ずっと好きだった涼子。
一年の時も同じクラスだったが、なんだか近寄れなかった。
高嶺の花とまではいかないが、なんとなく、フワッと明るい、柔らかなオーラが涼子にはあった。

勉強もスポーツもそこそこにできた、ちょっと優等生な涼子。

憧れのまま二年が過ぎ、いよいよ三年生。

やったぜ。
最後のチャンスは逃せない。

修学旅行。
帰りの新幹線は前後ろの席になった。
俺が後ろ。窓側。
後ろからそっと飴を差し出してみる。

「ん?」

涼子が気づき、窓側の隙間からこちらを振り返る。目が合う。

げっ。かわいい。

涼子は差し出した飴を受け取って前を向き、すぐに振り返って自分のチョコを俺に差し返した。

微笑み合う俺たち。

ナイス!修学旅行!
旅行中はなんの接点も持てなかったけど。グッジョブ神様!

そんな淡い春を終え、夏が近づいた。
部活はこの大会で終わりだ。
部活が終わると、俺たちはいよいよ受験モードに突入する。

部活の遠征の度に涼子にお土産を買って帰った。
最初はハート型のキーホルダー。
「好きです」と、どストレートに印字されてある。ベタ過ぎるだろうか。

その後も、俺は遠征の度にお土産を買って涼子に渡した。


田中と同じクラスになった。
確か一年の時も一緒だったな。

修学旅行。
帰りの新幹線。
後ろから飴が届いた。

「ん?」

振り向くと、あ、田中!
飴、私に?
じゃ、チョコでもお返しするか。

スッとチョコを差し出すと、なんだか田中、とても嬉しそうだった。
思わずこっちも笑ってしまう。

田中はバンドボール部だった。
小柄で、よく陽に焼けていた。
うちのバンドボール部は強かったから、よく遠征試合に行っていて、ある日なぜかお土産を買って来てくれた。

小さなお土産袋から中身を取り出す。
ハートのキーホルダー?

「好きです」の文字。

ドキっとした。

え、そうなの?
わかんないけど。

その後も、遠征に行く度にお土産を買って来てくれた。
この狸の置き物はどうすればいいんだ?

お土産3回目くらいから、ちょっと重荷になってきた。
最初のキーホルダーにはドキっとしたけど、いいよ、そんな毎回買って来なくて……。
ちょっと困惑。


総体が終わり、俺の部活人生も終わった。いいところまで行ったが惜しかった。
いよいよ受験かぁ。

お土産を通して、なんだか涼子と近くなれた気がする。
俺は勇気を出して提案した。

「た、谷口。よかったら手紙交換しない?」

涼子は「うん」と言ってくれた。

くー!やったぜ!
受験もこれで乗り切れる気がする。

俺は好きだったオフコースの歌詞を便箋に丁寧に書いた。
俺の想いも歌詞に乗せて。

今なんていったの?
他のこと考えて
君のことぼんやり見てた
好きな人はいるの?
こたえたくないなら
きこえない ふりをすればいい
君を抱いていいの
好きになってもいいの

Yes-No

夏が過ぎ、教室もいよいよ受験に向かう空気になってきた。
そんな時、田中から「手紙交換」の提案をされた。
別に構わない。
ちょっと楽しそうだし。
思わず「いいよ」と答えた。

数日後、手紙を受けとった。
オフコースの歌詞が書かれてあった。
田中、オフコース好きなのか。

歌詞は少し大人びていて、ちょっと恥ずかしいような気持ちになった。
これ、なんて返せば正解なの?

手紙を書くこと自体は嫌いじゃないけど。
矢吹丈の最後のシーン、泣けたよね!ってことを書けばいいのかな?

いや、それは唐突か。

とりあえず、何とはない最近の出来事なんかを書いて、田中に渡した。


涼子から返事が来た。
ああ、涼子も部活が終わって、ちょっと寂しいのか。頑張ってたもんな、卓球。
オフコースはどうだったかな。
とくに触れてないけど。
そういえば涼子はどんな曲を聴くんだろう。

俺は結局またオフコースの歌詞を書いた。

愛を止めないで
そこから逃げないで
素直に涙も流せばいいから
ここへおいで
くじけた夢を
すべてその手に抱えたままで

愛を止めないで

田中からの手紙は、またオフコースだった。
田中ってこういう路線なんだ。
意外。

んー。でもやっぱりなんか恥ずかしい。くすぐったい。
これってやっぱりあれなの?
告白的な?

田中いいやつだけど……。
そんな風には思えない。

ていうか、同じクラスなんだから、直接話したらいいんじゃない?
なんでこんな秘め事みたいに手紙をやり取りしなきゃいけないの?
「うん。いいよ」って言ったものの、なんか女々しい。


涼子から返事が来た!

え。
直接話した方が早いんじゃないかって?

あ、やはり迷惑だったんだ。
そうだよな、受験なんだもんな俺ら。
手紙なんか書いてる暇ないよな。
そうだよな……。


田中から「勉強の邪魔してごめん」って言う手紙が来た。

「迷惑だったよね」と。

いや、迷惑とか言ってないんだけどなぁ。気軽に話せばいいじゃない?ってことなんだけど。

え、なんか悪いことしたかな。

そういえば表情が暗い。
私の顔も見なくなった。

あれ、なんか、なんか……。

え?

* * *

純朴男子のロマンチックは、
「あしたのジョー」好き女子には届かなかった。

青春って、ちょっとしょっぱい。
そして青春はいつもすれ違いなのだ。




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