夢をかなえるスマートフォン㉟8時限目の1〜入社試験

年が明けた。東京にも雪は降るものだ。外は寒いが、南青山に日差しが降り注ぎ、雪が融けキラキラしている。華苗は今までで一番すがすがしい気持ちで新しい年を迎えたのではないだろうか。去年末に提出した書類選考の結果が届いた、ドキドキ。
なんとか全部通ってる。もちろん、南青山出版も。
華苗は、スマートフォンを使いこなせて良かったと思って、スマートフォンをやさしく握りしめた。でも、これからが肝心と気を引き締め、スマートフォンと就職活動という戦に立ち向かっていくことを誓った。

1月になって、各出版社の説明会があったので、それぞれの出版社に足を運んで説明会に参加してみた。それでもやっぱり、南青山出版がいいなって思った。会社の雰囲気というか、勤めている方々の雰囲気にも憧れを抱いたのだ。
南青山出版はどことなく品があって、もしそこで自分が働けたらこんなにいいことはないだろうなって思っていた。ソーシャルメディアを活用して事前に会いに行った方もいらして、説明会のときも華苗のことを見つけると気さくに話しかけてくれた。
自分から行動を起こすとここまで違うものだなと感じていた。この説明会での経験も一つのビジュアライゼーションになると思って、華苗はいろいろな場面を写真に収めた。

月末になって、華苗は筆記試験を迎えた。学力的にそれほどの自信があるわけではない華苗ではあったが、大学受験のように大の苦手だった数学が出るわけでもないので、まあまあの出来栄えだと思った。
筆記試験のための準備もしっかりしてきたし、みんなができるような問題はしっかり取れたはずだ。試験が終わって帰ろうと思い身支度をしていると、隣に座っていたのぞみと名乗る女性が話しかけてきた。どうやら早苗と同じ大学で知り合いらしい。今回の試験の感想を聞いてきた。
なんだか、のぞみは自分の解答に納得がいっていないらしく、不安がっていた。早苗と夕方から約束をしていて時間がなかったので、連絡先を交換して、お互い上手くいっているといいねと声を交わしてその場は別れた。

さてようやく就活の筆記試験が終わったので、華苗は大学のテストに集中した。
大学のテストを乗り越える分にはまったく問題ないのだが、華苗はアルバイト先での人間関係に頭を抱えていた。他のアルバイトの人は就活が忙しいやら試験が忙しいやらで愚痴を言いながら仕事していた。
それなのにボケ~っとしているのにチーフを任されている華苗を妬ましく思っているらしい。彼らからすれば、なぜ華苗がチーフを任されているのかが分からなかったのである。
華苗がアルバイト先でしっかりとした信頼関係を築けているのは店長と一人仲の良いアルバイト友達だけだったのだ。その関係を少しでも改善できればと考えていた。

ある朝、早苗から筆記試験合格を告げられた。その言葉で目が覚めた華苗は、目覚ましの音を聞く前に起きた。そして、面接に向けてしなければならないことをスマートフォンに書き込み始めた。スマートフォンに書き込むのが終わった頃、スマートフォンの目覚ましが鳴り始めた。
(スマートフォンの目覚まし)
「おはよう、起きなさ~い。私は南青山出版の新入社員。そのために、朝からしっかり行動しましょう。まずは~」
「残念でした~。私、起きてるもん。私の勝ち。」
華苗はスマートフォンとのやり取りを楽しんでいた。早苗はその様子を見てあきれていたが、少しうらやましそうだった。
それにしても、華苗にとってスマートフォンは一生の友達になっていたかのような感覚だった。このスマートフォンの存在にどれだけ助かったか。あっ与志宮さんに連絡取らなきゃ、人間関係のことでも相談したいし、これから面接始まるもん。目標を次々と達成していった華苗は、今後自分がどういう方向に進んでいくべきはいくばくかの悩みを抱えていたのである。
 与志宮との約束の日の朝。その日の南青山骨董通りは、真っ白であった。前日の夜に軽く雪が降ったせいか、路面はわだちの部分が黒くなっているだけでほとんどが真っ白。
歩道も、それほど多くの人たちでにぎわっているわけではないので、足跡もほとんどなかった。かなり着込んで、いつものCafeブルーマウンテンに向かった。
「おはよう。まずは、南青山出版の筆記試験合格おめでとう。よかったね。」
「ありがとうございます。本当におかげさまです。与志宮さんにお会いしてスマートフォンに変えてから、いろいろなモノの見方が変わったと思ってます。」

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