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「無痛分娩で失うもの」産科麻酔科医の視点から

先日、X(旧Twitter)で
「無痛分娩で失うもの(を問う)」という題のシンポジウムが
助産学会の学術集会でおこなわれることがポストされ、
バズっていました。

「そんなもの痛みだけだろ!」「あとお金」という
キツめの突っ込みが踊っていたわけですが、
産科麻酔科医としてマジメに
「無痛分娩で失うもの」を考えてみたいと思いました。

ちなみに、Xにポストされたシンポジウムのポスターには
「赤ちゃんの長期的影響」「痛みの効果と文化」など
赤ちゃんを産もうという人が見たら
ドキッとするような文字が並んでいます。
私の知る限り、その二点については
現在証明されているものは何もありません。


無痛分娩で失うもの①痛み、ストレス

無痛分娩では医学的介入により痛みを緩和します。
痛みが少なくなることは最大のメリットです。
単に痛くなくて最高!というだけではなく、
母体にかかるストレスを最小限にする効果があります。

  • 心臓に負担がかかりにくい

  • ストレスの上昇による血糖値の変化が起こりにくい

  • 血圧の変化が起こりにくい

  • 過呼吸が起こりにくく、胎盤の血流が保たれる

といったメリットがあります。
合併症のある妊婦さんにとっては特にメリットが大きいでしょう。

無痛分娩で失うもの②パニック

妊娠、出産は女性にとって大きな変化があり、
ただでさえ不安や恐怖からパニックに陥りやすいものです。
無痛分娩では、「冷静でいられてよかった」という
感想もよく聞かれます。

立会いのある場合には
ご主人と誕生の瞬間を落ち着いて喜べる状態でいられるのが
メリットかもしれません。
無痛なしの分娩に立ち会ったご主人が
痛みに苦しむ奥さんのあまりの姿にショックを受けたという
エピソードもよく聞きます。

考え方によっては、立会いがなくても
十分落ち着いて出産と向き合えるという見方もできるでしょう。

無痛分娩で失うもの③場合により娩出力(べんしゅつりょく)

娩出力、とは聞き慣れない方も多いでしょう。
娩出力は分娩の三要素の一つで、
お産が進んでいくのに重要な要素です。

分娩の三要素とは

  1. 娩出力

  2. 産道

  3. 娩出物(胎児)

です。

無痛分娩を受けると、
「痛くて勝手にいきみたくなる感覚」は
失われてしまうことが多いです。
いきみはコントロールされ、
自分で力を入れていく必要があります。
赤ちゃんの様子によっては器械分娩が必要になる事もあります。

いきむ以前の子宮の収縮力も、
残念ながら弱まってしまうことも多いのです。

そこで、陣痛促進薬が多くの場合必要になりますし、
産科麻酔科医の立場からは、
助産師さんのお産を進める技術に日々助けられています。

無痛分娩という医療介入をおこなうので、
分娩に対する介入もまた必要になります。

※無痛分娩のメリットはほかにもありますが、
今回は「失うもの」にフォーカスします

分娩をつらい思い出にしないために

全ての方に無痛分娩を受けてほしいわけではありません。
もちろん、出産は医療でもあるために、
全てが思い通りにはなりません。

しかし訳も分からず、
根拠のない「赤ちゃんのため」を押し付けられる
選択肢がない
こういった「産みの苦しみ」を引き受けざるを得なかった時代とは
もう変わっています。

お母さんが納得して分娩に臨むため、
無痛分娩も一つの選択肢に過ぎないのです。

「痛くはなかったけどつらい思い出になった」
というお産がもしあったら、
これは無痛分娩としては失敗だと思っています。
お母さんが振り返った時に
「間違いなく幸せな瞬間だった」と思えるお産にすることが
お産にかかわるものの使命です。

無痛分娩や帝王切開などにまつわる質問がありましたら、
直接のメールも受け付けております。
ぜひ、気軽にご相談くださいね。


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