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51.まず、声をあげることが大切

映画を観てきました

先日、「メイド・イン・バングラデシュ」という映画を観てきました。

この映画を知ったきっかけは何だったか?たしかSNSの広告だったか?ちょっともう記憶が定かではないのですが、普段ほとんど映画に興味持たない私ですが、これは気になって観に行ってきたのです。

上記サイトの「あらすじ」からの引用ですが

縫製工場で働くひとりの女性労働者が、劣悪な労働環境を改善すべく、仲間の抵抗や夫の反対などにあいながらも、彼らを説得し、一方で労働法を学習。遂に仲間と共に立ち上がる実話に基づいたヒューマンストーリー

という内容です。

ここから先は、ネタバレになる可能性があるので、少しでも内容を知りたくない方はここでこの記事を閉じてくださいね。
(なるべくネタバレ要素は少なく書くつもりですけど・・・)

***

「アパレルは低賃金」だけじゃない

さて。
私はバングラデシュという国について全然知らなかったのですが、この映画を観ると、縫製工場の労働環境の劣悪さだけでなく、社会のなかでの女性の地位というか、扱われ方というか、そういうものも、なかなかにひどいと思います。
(ただそこの話をすると長くなりそうなので、ここは労働環境に限った話にとどめておきます)

そもそもアパレル産業というのは全体的に「賃金が安い」で有名なのですが(私は20代のころ服の販売をしておりました、非正規だったし確かに賃金は安かったと思います)、「品質をなるべく犠牲にせずに、安く売る」には、やはり人件費を削っていくことになってしまうのだと思います。
販売員の人件費もですけど、生産にかかわる人々の人件費ですね。

私は服飾の大学に通っていたのですけど(20年以上前ですが・・・)、
そこでも言われたのが
「服の縫製の仕事はいまみんな海外でやっている」
(日本にはそういう縫製工場みたいなのはない)
ということでした。

そういったこともあって、アパレル生産現場に対する私のイメージとしては
「低賃金」
というくらいのものでしたが、この映画を観るとそれだけじゃないことがわかります。
工場内で寝泊まりさせられることもあるほどの超長時間労働、それでいて残業代も払われない、工場内で火災(ボヤ?)が発生するなどの安全の問題もある、そして男性の経営幹部からのパワハラ、不当解雇・・・
このような劣悪な環境の中で多くの若い女性たちが働いていると思うと、心が痛みます。

この映画の主人公の女性は非常に強くたくましく、ある女性との出会いをきっかけにして、法律を学び、自分たちの権利を守ろうと、労働組合を立ち上げるためにガンガン行動していきます。

この主人公の姿を見て、やはり現状を変えるには、労働者が声を上げて、どんどん行動していくことが必要だと私はあらためて感じたのです。

いくら法律があっても、それが守られていなくては意味がない

こういった海外のアパレル生産現場に限らず、今の日本の多くの職場でも、それは同じことです。

さすがに、日本では、残業代が払われないとか超長時間労働とか、そのあたりは、証拠さえ揃えて訴えれば労働者が勝てるようになってきていますけど、パワハラ・セクハラ・マタハラ等のハラスメントや、障害者の合理的配慮のような「数字で表せないもの」に対しての環境改善というのは、なかなか難しい部分もあります。

「労使が話し合って改善していく」といったところで、労働者と使用者の間には、明らかに力の差があります。こちらが何を言ったところで、まったく話し合いに応じない会社もあります。

私は過去、10回以上転職をしてきましたが、そのうちの何社かについて、労働基準法違反があることを労働基準監督署に申告したことがあります。
(この先書く事例については、全部まだ一般雇用の時の話です)

とある1社については、退職を決意したうえで、会社に対し「申告者の実名を明かし」て、労基署に調査に入ってもらいました。

またほかの数社については、在職中でまだ退職の意思を固めていなかったので、会社に対し「申告者の実名を明かさない(匿名)」で、労基署に調査に入ってもらいました。

結果としては、証拠があり、ごまかしや言い訳が聞かない内容については、改善されました。
例えば「年1回の健康診断未実施」とかですね。
これは実施したかどうかについて、「実施してないのに『実施した』という風に証拠捏造するのが困難」だったからだと思います。

しかし、労基署はあくまで「中立」なので、「労働者の味方」ではないわけです。そして中立とは言いながらも、証拠を出すのが難しい場合については、調査に入ってもらっても、会社のごまかしや言い訳を鵜呑みにして信じてしまう傾向があると感じました(あくまで自分の実体験に基づいた感じ方です。ご了承ください)

例えば、「早出した分の賃金が支給されない」ということについては、会社は労基署の職員に対し「朝早くタイムカードを押してから朝食をとっている社員もいるので、タイムカードを早く押しているというだけでは、払えない」と言ったようです。

また、「タイムカードのない会社」の場合、「勤怠はタイムカードではなく出勤簿で管理している」と労基署に説明し、実際会社が出勤簿を捏造していました。労基署から「出勤簿にはあなたの名前もあり印鑑が押されていた」と言われたのですが、私は印鑑を押した覚えもなければそれを見たこともありませんでした。

上の例は、いずれも会社に対し匿名で調査をしていただいた時の話です。

実名を明かしたうえで調査をしてもらっていたら、「私はタイムカードを押した後ご飯を食べていたわけではなくすぐ仕事をしていた」と主張できますし、出勤簿の件についても「私は見たこともなければ印鑑をした覚えもない」と言って、さらに追及してもらうこともできたかもしれません。

だけど会社に対して実名を出さない以上、上のような会社の言い分を覆すだけのことは、もう何もできませんでした。

個人的には、タイムカード等の出退社記録をもとに賃金を計算して、時間外労働の分もきちんと支払ったうえで、「朝早くタイムカードを押してから朝食をとっている」ような社員については「仕事をする準備ができてからタイムカードを押して、仕事をするように」と個別に指導するのが筋ではないかと思います。

なのにそういった社員教育の部分を会社が怠り、「朝早くタイムカードを押している人の時間外手当を一律に払わない」という風にするのはおかしなことだと思います。まじめに仕事をしている人が馬鹿を見るようなのはやめてほしいのです。(ちなみに私が当時なぜ早出して仕事をしていたかというと、上司が社内ミーティングで「深夜の残業をしてはいけない、終わらないなら早出してやってください」というような話をしたからでした・・・)

口約束は絶対にダメ

あと労働条件に関しては口約束は絶対にダメですね。
特に賃金にかかわる部分はきちんと書面にしてもらわないとだめです。
過去の会社の事例で言うと、私は会社から「毎月のインセンティブの意味」を口頭で説明を受けていたのですが、いざ、問題が起きて労基署に対して申告したら、会社は労基署の調査の際に、「私に事前に言っていたことと全然違うこと」を説明したんですね。。。
ただこちらは口約束で証拠がなかったのでそれを覆せない。
結果、労基署はその会社の説明を鵜吞みにしてしまったのです。

その後、私は労働者側の社労士に相談を持ち掛けて最終的に解決しましたが、なぜ不利な扱いを受けている側が自腹を切って社労士に頼まなければいけないのか本当にわからないと思いました。

結局どうすればいいのか

上記の私の経験から言えば
会社はいざとなれば「保身」のために証拠の捏造や、うその説明を、労基署に対して平気で行う
のです。

それに対して、いち労働者がひとりで戦うのは難しいです。
結果として、外部の労働組合や、労働者側の社労士・弁護士などの専門家の力を借りるよりほかにない状況になります。

「ヤバいところからは逃げる」というのも一つの方法ですが、私のように、「ヤバいところを見抜けずにうっかり入ってしまう率の高い人間」もいます(苦笑)
私自身もこれまでの職業生活の中で、労働基準法をある程度知識として身に着けてきましたが、それで防げるところと、そうでないところがあります。
特に、上にも書きました、ハラスメントや配慮のあるなしといった「数字で表せないもの」に関しては、本当に入ってみないとわからないのです。

それで結局どうすればいいかというと、個人レベルでできることは、やはり「おかしいことはおかしいという」しかないのかなと思います。

映画の話に戻れば、この主人公も、職場の「おかしいこと」に対してどんどん声をあげて、労働組合を作るために行動していて、最終的には、労働組合の申請がなかなか通らないことに業を煮やして役所に乗り込んで上の人(もちろんこれも男性ね)ともたたかう。

もう、ほんと、これくらいしないと「何も変わらない」んですよね。
この主人公も、何度も妨害されながら、それでも行動をやめない。

この素晴らしい行動力、私も見習いたいものです。

最後に一言

このような映画を観ると、「バングラデシュ製の服を買わない」という行動に出る人もいそうな気がしますが、私はそれで解決するとは思わないのです。

少し前に、ウイグルの問題がありましたね、あの時も世界で「ウイグルの強制労働にかかわっている企業の製品の不買運動」が起きました。
また逆に中国では、新疆綿の使用を中止した企業に対する不買運動がおこったとニュースで見ました。

私はそのニュースを見たとき「それで解決するような問題ではないだろう」と思ったのです、でも「じゃぁどうしたらいいのか」の代替案は自分の頭からは出てきませんでした。

この「メイド・イン・バングラデシュ」の映画を観終わった後、パンフレットを購入したのですが、実はそこにも私の考えと同じようなことが書いてありました。以下引用。

しかしもしあなたが、労働者にきちんと対価を支払っていないからといってそのブランドの服はもう買わない、というのなら、それこそ労働者が絶対に望まないことです。それは解決策ではありません。

書いてあったのは監督インタビューの最後のところです。
ここにも、じゃぁどうしたらいいのかという答えは書いていないのですが、

不買運動をしたからと言って、彼らの労働環境が改善されるわけではない

ということなんだと私は思います。

まずは、当事者が声をあげ、こういう現実があるよというのを世間の人に知ってもらう。そこから世の中が変わっていくんだと私は思いました。

・・・そして、なんだかこの話、労働問題だけじゃなくて、ほかの色々な問題にも通ずるなとちょっと思ってみたことも、最後に付け加えておきます。


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