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三十首連作「いつか明るい」

たくさんの「いいね」がついた投稿にゆびさきあててわたしも媚びる

さくらもちさくらもちつて買ひにゆく食べるためよりアップするため

白鳥が北へ帰つてゆくを撮るスマホかざして首をそらして

ほんたうの気持ちはどこにあるだらう仰いだ空を雲が流れる

感情もきれいになるといいのにと手を洗ふたび思ふこのごろ

雪の下よりあらはれて春あさき散歩の道にあまたのマスク

桃始めて笑ふの候にかくてがみインクのにじみ知らんふりして

この部屋で甘い紅茶を飲みながら知らない人と会議をします

はぶびーん 京都や那覇や函館はなつかしくないただ、はぶびーん

虹立てばタイムラインに虹あふれそれを祭りと呼ぶ人もゐて

流れゆく流されてゆくつぶやきら (みつけて)(わたし)(ここだよ)(ここよ)

君の青い車で港まで行つた二次創作のやうないちにち

傷つけたことがすなはち傷になる海から吹いてくる風痛し

持続可能な想ひを愛と呼ぶのなら愛したことはないかもしれず

軽やかにブロックさるるひとときの深い交はり不快でしたか

炎上にちさき薪を投げ入れるひとりひとりの頬に火の影

知恵の実をたべてしまつたイブよりも引き返せない感じがするね

ハッシュタグさみしい人と繋がりたい 船がもやひをもとめるやうに

送受信エラー あなたのたましひのかけらが宙を浮遊してゐる

つぎつぎにサジェストされる動画たち聖歌を聴けば聖歌聖歌と

パリからの配信にちやんと時差があり午後に観てゐる午前のひかり

ご近所の大工仕事の音聞こえ暮らしだなあと思つたりする

歴戦の勇士は窓辺に座らないわたしはぽんやり空を眺めて

珈琲と本が写真にうつるときスマートフォンを手に持つてゐる

ひさかたの青空文庫に青空を愛した賢治やサン・テグジュペリ

よく晴れて空気は澄んでつめたくてここがおそらくこれの世のきは

葉桜の並木のしたをちかづいてくるひとひとり目のいろ暗し

たぶんもうあけない夜のなかにゐてそれぞれ点す言の葉は星

ログアウトしますかします春の果いいえしません夏の入口

でもいつか明るいはうを目指さうかあらゆるアカウントを削除して


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