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反省からの再出発

今までいろいろと隠し事ばかりだったけど
打ち明けてくれてありがとう
未来のことを一緒に考えてくれるならいいわ
どうせお互いこれから先も離れられないんだから
#ジブリで学ぶ自治体財政

京都市の行財政改革計画(案)がパブリックコメントに供されています。

昨日まで岡目八目を気取って偉そうなことを書いていましたが,計画案を実際に読むと京都市の本気度が伝わってきます。
計画案の前半では、京都市の財政の現状と今後の財政収支の試算を細かく、わかりやすく記述しています。
京都市の財政状況が待ったなしの危機的な状況にあること、このまま放置すればどうなるのか、そのような状況に至った要因について記述されていて、この分析の視点や手法については全国の自治体財政にかかわる職員や議員、首長に読んでいただき、それぞれの自治体の現状に照らして自らの財政運営リスクについて再認識していただきたいと思います。

なかでも特筆すべきは、これまでの財政運営における課題として「状況の変化に応じたさらなる改革の徹底やわかりやすい情報発信による財政状況の共有が不足」していたことを項目として掲げ、これまでの財政運営の姿勢に問題があったことを真摯に打ち明けていることです。

<以下、抜粋>
これまでから「公債償還基金を取崩して、財源不足を補てんする厳しい財政状況」という情報は発信してきましたが、「将来世代への負担の先送り(特別の財源対策)によって現行のサービス水準を維持することが、本来あるべき財政運営の姿でないこと」、「将来世代へ負担を先送りして現状のサービス水準を維持していること」、「本来の収支は実質的に赤字であること」など、市民目線に立ったわかりやすい情報発信が十分ではありませんでした。

加えて、本市独自の施策は、昭和の時代から長年にわたり継続され、市民生活の一部となっていますが、「これらの施策は決して無償で提供されるものではなく、現在及び将来の市民がその分の税負担を行うことで成り立っていること」、「他都市よりも施策水準が高く、より多くの税負担が必要であること」について十分に市民の皆様に伝えきれていませんでした。

こうした一つひとつの行政サービスの根底にある市民の皆様の高い税負担に関する共有が不十分であったことが、制度の維持や見直しに関する市民的な議論につながらなかった要因と考えられます。
今後は、行政サービスに要する市民1人あたりの税負担、公の施設における施設の維持管理コストなど、行政コスト(税負担)の見える化を更に進め、市民の皆様の理解の下、施策の要否、見直しの議論を、進めていく必要があります。<抜粋終わり>

収入や支出構造の問題に加え、市民との情報共有に課題があったことをここまで赤裸々に述べている行財政改革計画を私は見たことがありません。
このような姿勢を市民に示すことは行政としては稀で、この真摯な反省にこれだけの記述量を割いていることは京都市の相当な覚悟の表れと私は理解します。
これまで報道等で京都市の財政健全化の取り組みに関する議論を傍目で見ながら昨日まで思っていたのは、厳しい改革案をぶち上げるのはいいが、職員や市民の共感が得られず「総論賛成、各論反対」の大合唱で改革がとん挫してしまうのではないか、という危惧でした。
しかし、京都市はそれを乗り越えようとしている。その気概を感じ、その腹の座った覚悟に私はエールを送りたいと思います。

しかし、この反省はこれから始まる職員、市民との議論の始まりにすぎません。
60頁にわたるこの計画案を読んだからと言って「はいそうですか。わかりました」と両手を挙げて厳しい改革案に賛同してくれるわけはなく、むしろ「反省しているなら責任をとれ」「俺のシマには手を出すな」と抵抗するであろう方々との間でいかに合意を形成し、多くの人の納得感をもって改革を実行していくか,その方法論こそが重要だろうと思います。

そのためには、財政課と財政課以外の職場との「対話」が必要でしょうし、市当局と議会、市民との「対話」も必要になります。
「対話」の重要な構成要素は「開く」と「許す」。
「開く」は自分の持っている情報や内心を開示すること。
「許す」は相手の立場、見解をありのまま受け入れること。
今回の計画案で京都市が示した真摯な反省は、市民との対話の入り口に立ってまずありのままの自分を「開く」という重要な意味がありました。
互いに胸襟を開き、相手の立場を尊重し理解しようと努め、お互いの見えているもの、知っている情報を共有することで、それぞれの立場を超え、互いの立場を共有した俯瞰の視点を持つことができる。
共有できた情報と俯瞰の視点をもって全体最適のための取捨選択を議論できるようになるための「対話」がこれから始まる議論の前に置かれ、対話と議論を行きつ戻りつしながら結論に至る時間とプロセスを持つことが、厳しい結論が出たとしてもそれを納得して皆が受け入れ、従い、感情的なしこりを残さずに前向きにまちの未来を語り、力を合わせて創っていくために必要で、そのための具体的な取り組みを実施し、積み上げていくことが重要だと私は思います。

さらに言えば、改革は目的ではなく手段。
今厳しい選択を迫られているのは、持続可能なまちとすることで将来こうありたいというまちのビジョンを実現するための手段でしかありません。
その目的、目指す将来像をきちんと共有し、その実現のためには苦渋の選択をせざるを得ないという前提条件を共有しておくことこそが改革の議論の出発点であり、その将来像を共有するためにも、職員同士、そして自治体と議会、市民、さらには市民同士での「対話」が必要不可欠で、そのための取り組みも具体化していってほしいとと思います。

外野から偉そうに意見を述べるだけになってしまい関係者の皆さんには申し訳ありませんが、140万人の人口を擁する巨大都市ですでに始まっている前人未到の挑戦を、私は心から応援しています。

過去記事もご参照ください。

★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/

★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
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