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カメとクロジャガー ペルーのアマゾンの昔ばなし

ペルーのアマゾンの昔ばなし『カメとクロジャガー』と、アンデスの昔ばなし『キツネとコンドル』が、福音館書店さんの月刊誌2月号に掲載となりました。

ペルーというと、アンデスのイメージが強いのですが、実はペルーは、世界の100種類の気候が存在するという自然豊かな国で、全国土の60パーセントを熱帯雨林地帯(アマゾン)が占めています。

カメとクロジャガー

「カメとクロジャガー」は、ペルーのアマゾンの町プカルパにくらすシピボ=コニボ族に伝わるお話です。作者のウルテアガさんは、10年にわたる彼らとの共同生活で、アマゾンの魅力的な寓話をたくさん収集されました。特に、この物語はジャガーが登場するところがアマゾンならではです。アマゾンの人々にとって、ジャガーは自然界の秩序を保ち、人間を守ってくれると信じられている特別な存在で、権力や高貴の象徴なのです。

シピボ=コニボ族の世界観

ペルー文化省の先住民調査によると、シピポ=コニボ族の世界観には4つの世界があるそうです。1つめは水の世界、2つめは人類や動植物の世界、3つめは悪魔や悪霊の世界、4つめは父なる太陽と精霊の世界です。この4つの世界を行き来できるのがチャマン(シャーマン)です。チャマンは儀式の中でアヤワスカという植物を摂取して、様々な生き物と交信したり、動物の霊を憑依させ、人間を超越した力を身につけます。憑依するのはジャガー、ヘビ、ピューマ等の限られた動物だけで、中でもジャガーは別格の存在とされ、最高の位に達したチャマンにだけ乗りうつると言われています。

そんなアマゾンの王者ジャガーにも泳げないという弱点があり、しかも小さなカメに負けてしまう。力はなくても知恵によって生き残る術が、お話を通じて楽しく伝えらえているのですね。(以上、こどものとも2月号 作者のことば より)

さて、このお話しの絵は、アマゾンの上流を旅した経験をお持ちの、あべ弘士先生が描いてくださっています。クロジャガーのほれぼれする”どや顔”がたまりません。そして動物を描くフォルムや角度がとてもユニークです。動物の魅力を知り尽くしているからこそだなぁと、感心してしまいます。迫力ある色鮮やかなアマゾンの世界を楽しんでもらえるのではと思っています。

また、原書で読むウルテアガさんのお話しは、テキストの分量がとても多かったので、今回、再話というカタチをとり、翻訳から少し飛び越えて、耳で聞く楽しさを優先したテキストにさせていただきました。ラフや初校で出てきた、あべ先生の絵の魅力や配置によって、文章を入れ替えたり、リズムをつけたり、短くしたり、補足したりという過程は、翻訳というパートだけをきっちりこなす仕事とはまた違って、編集者と一緒に本をつくっているなぁという実感がありました。

この場をかりまして、素敵な作品に仕上げてくださったあべ先生、きめ細かく、丁寧に、深く、何度も読んでくださった編集の方、訳文に自由を与えてくださった採話と原文をご担当されたウルテアガさん、絵本づくりを”化学反応”だとおしゃった魔術師のようなお仕事をされるデザイン担当の谷越さん、本当にありがとうございました。

福音館書店(内容紹介より)

湖のほとりで、カメとクロジャガーが出会いました。なりゆきでクロジャガーと力比べをすることになってしまったカメ。木のつるでお互いを引っ張り合う綱引きです。勝ち目のない勝負に思えましたが、カメは湖を見て、ある策を思いつきます。弱い者が知恵を使って強い者を打ち負かす、痛快な昔話。アマゾンならではの生き物たちの姿も見応えたっぷりです。

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キツネとコンドル

「キツネとコンドル」は、アンデスの栽培植物の起源のお話です。「カメとクロジャガー」と同月号発売の母の友で、ご紹介させていただく機会に恵まれました。

このお話しは、ペルー、チリ、ボリビア、アルゼンチンなど、国によってさまざまなバージョンのお話があります。地域によって登場人物が微妙に変わっていきます。チャランゴを弾くキツネという設定もあったり、コンドルがハゲタカであったり、オウムがインコだったり、星の女が登場したりなどなど。

本来、キツネは臆病で利口もの、勘のよい夜行性のすばしこい動物ですが、寓話の世界では善と悪を象徴するキャラクターとして登場します。おおよその物語の中でキツネは悪の象徴、相手となる動物が善となることが多いようです。

今回は、「天の神」とも言われるコンドルと、大食いで食い意地のはったキツネのお話です。絵は、早川純子さん。味わいのあるキツネとコンドル、素晴らしいです。

キツネがコンドルの背中に乗って、アンデスの山々を見渡すシーンは、ペルーのフォルクローレ『コンドルは飛んでいく』へオマージュをささげた場面です。文献をあたりながらの長い時間がかかる作業でしたが、アマゾンとアンデスのお話を楽しんでいただけたらうれしいです。





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