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イチローがサッカー選手になったら?という例え話に騙されてはいけない

「イチローがサッカー選手になったら、今と同じように稼げると思いますか?」
「いえ、難しいと思います。」
「そうですよね。つまり、長年積み重ねてきたことだから高収入を得られるのです。」

この会話に違和感を感じる人はいますか?

実はこのセリフは、転職エージェントのキャリアカウンセラーと友人との会話です。友人が転職活動をすることになり、転職エージェントに相談に行ったのですが、彼女が長年やってきた広報の仕事を希望するかどうか迷っていたところ、キャリアカウンセラーがこの発言をしたそうです。それも複数の会社の複数のキャリアカウンセラーが同じ例え話をしたそうで、彼女は「業界のマニュアルなの!?」と笑っていました。

イチローがプロ野球選手として莫大な収入を得ていることは間違いありません。
そのイチローが、もしサッカー選手になったら?
イチローにサッカー経験はほとんど無いでしょうから、大した戦力にならず、当然収入は得られません。つまりイチローが野球で莫大な収入が得られるのは、子供の頃からコツコツ野球を続けてきて、確かな実力があるから。これについては納得できます。

これを転職に置き換えると、高収入、少なくとも今と同等の収入を得るには、新たな仕事に挑戦するよりも、長年続けてきた仕事を続けたほうがいいということになります。私の友人に関して言えば、長年広報という仕事をやってきたので、転職後も広報をやったほうが高収入の可能性が高いですよ、ということになります。社会人になったばかりの若い頃なら新たな挑戦をしても同じように稼げるかもしれませんが、(イチローで言えば野球をはじめたばかりの子どもの頃なら、サッカーに転向してもいい選手になれたかもしれませんが、)ある程度の年齢がいってからでは難しいというのがキャリアカウンセラーの主張だったようです。

しかし、これは本当に正しいのでしょうか??

まずイチローがサッカー選手になったら?というのは、誰もが一度は考えたことのありそうな例え話ではありますが、実際のところ、これと転職の話題を結びつけるのは随分と強引にシチュエーションを限定しています。仮にイチローが野球以外に転職するとしても、スポーツにはサッカー以外にもたくさんありますし、スポーツ以外でもかまわないはずです。イチローの集中力や分析力があれば、投資の世界なんかに転向して本気で勉強したら、今以上の収入を得ることも可能かもしれません。イチローの実績が、単にボールにバットを当てる技術や、ライトからバックホームでボールを投げる技術だけでなく、野球以外のたくさんの能力に支えられていると感じているのは私だけではないはずです。日々コツコツとトレーニングを積む精神の強さや、セルフコントロール、相手選手に対する分析力、状況判断は野球以外のたくさんの世界で活かせると思いますし、さらに人脈やイチローというネームバリューまで考えたら、まだまだ野球と同等かそれ以上に収入をあげる道はありそうなのです。

友人について置き換えれば、広報として培ってきた能力が「プレスリリースを書く技術」「取材スタッフをスムーズにアテンドする技術」しかないと言われたら、たしかに広報でしか生かせないかもしれませんが、これまでのスキルを生かすという点で言えば、例えば「自社製品のいい部分を引き出して見せる」能力であれば営業でもマーケティングでも通用しそうですし、毎日多くの取材スタッフに接してきたコミュニケーション力やおもてなし力は、サービス業や秘書にも生かせるかもしれません。いっそメディア業界に転向することもできそうです。業界によっては、これまでより収入を大幅にUPさせることも十分に可能な気がしてきます。

つまり、イチローがサッカー選手になったら?という例えは、広報が宇宙飛行士になったら?とか広報が新薬の開発をやったら?とわざわざ限定して語っているようなもので、例え話としてはほとんど成立していないのです。

仕事で必要なスキルを要素分解すれば、十分に他の仕事に生かすことも可能だし、活躍できる余地があるわけで、本来はそこを一緒に考えてあげるのがキャリアカウンセラーだと思うのですけどね。

おそらくキャリアカウンセラーは、カウンセリング対象者にもっとも確実に安定収入をあげさせてなるべく早く自身の実績をつくろう、という魂胆があります。それはそれで、彼らの業績を図る仕組みがそうなっている以上仕方がないのですが、アドバイスをもらう側が振り回されてしまうのはいただけません。それっぽい例え話に翻弄されないように、自分の仕事と自分のスキルは冷静に客観的に見極める必要がありそうです。

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