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定年後の再雇用で知っておきたい 社会保険の同日得喪のしくみ

定年後、引き続き同じ会社で再雇用される方は少なくありません。

その際、仕事内容や勤務時間の変更など様々な理由から、再雇用後の給与が大きく下がる場合があります。

このとき、社会保険料も給与の減額にともなって自動的に低くなる……と思われるかもしれません。

しかし、自動的に引き下がるわけではありません。

「ある手続き」をしないと手取り額が減ってしまうという問題があります。

それは、社会保険における「同日得喪」の手続です。

定年後の再雇用に関しては、「同日得喪」の手続きを取ることで、社会保険料を再雇用の月から引き下げることができます。

2013年3月までは、60歳から64歳までの年金を受け取る権利のある方が同日得喪の対象でした。しかし、2013年4月から年金を受け取る権利のある人に限らず、「60歳以上」に対象が拡大されています。

社会保険料が変わるタイミングは?


同日得喪の話をする前に、社会保険料が決められる基本的なしくみについて確認しておきましょう。

社会保険料は、「標準報酬月額」に各保険料率を乗じて計算されます。

この標準報酬月額は、被保険者の資格取得時に決定された後は、「定時決定」または「随時改定」のタイミングでその見直しが行われます。

「定時改定」は、毎年7月に行われます。会社は、7月1日現在で使用している全被保険者の3カ月間(4月、5月、6月)の報酬月額を算定基礎届により届出し、厚生労働大臣はこの届出内容に基づき、毎年1回(9月分から)標準報酬月額を決定し直します。

一方、「随時改定」は、昇(降)給等の固定的賃金の変動に伴って標準報酬月額が大幅に(2等級以上)変わった際、年一回の定時決定を待たずに標準報酬月額を改定する手続きです。

定時改定と随時改定は、それぞれちょっと複雑なので、ここでは詳しく触れませんが、社会保険料が変わるタイミングは、2つあることを知っておいてください。

同日得喪は、こうした原則における例外的な取り扱いと言えます。

労働条件が変わる場合


たとえば、フルタイムから短時間勤務に、4月から労働条件が変更される方がいるとしましょう。

勤務時間が少なくなったことで、月給が30万円から22万円に大幅に下がった場合、社会保険料はどうなるでしょうか。

この場合、4月に契約内容が変わったとしても、随時改定まで社会保険料は変わりません。

当月払いの場合、7月に随時改定されるまで、給与から天引きされる社会保険料は30万円を基準にした高い保険料のままとなります。

そうなると、手取りがさらに大きく減ってしまいます。

一方、定年再雇用後の「同日得喪」の手続きを行う場合は、同様の給与例において4月分の社会保険料から引き下げることができるのです。
これは大きな違いです。

60歳以後における同日得喪のポイント


60歳以上の人が退職後、1日も空くことなく継続して同じ会社に再雇用される場合、事業主との雇用関係がいったん終了したものとして被保険者資格を喪失し、同日に被保険者資格を取得することができます。

資格喪失日と資格取得日が同じ日になることから、一般的に「同日得喪」と呼ばれています。被保険者資格喪失届および被保険者資格取得届を同時に年金事務所等へ提出します。

たとえば、3月31日に定年退職し、4月1日から再雇用される場合、4月1日が喪失日であり、かつ資格取得日となります。社会保険の場合、退職日の翌日が資格喪失日となる点に留意ください。

これにより、再雇用された月から、再雇用後の給与に応じて標準報酬月額に決定することができるのです。

同日得喪の手続きをする際には、継続して再雇用されたことが客観的に判断できる書類の添付が必要になります。

具体的には、就業規則や退職辞令の写し、そして継続再雇用の雇用契約書や労働条件通知書などが必要となります。

就業規則や再雇用の契約書等が無い場合、事業主が継続再雇用を証明する書類を作成することも可能です。特に様式に指定はありませんが、退職日と再雇用された日が記載されている必要があります。

法人の役員等が対象の場合、「役員規定、取締役会の議事録などの役員を退任したことがわかる書類および退任後継続して嘱託社員として再雇用されたことがわかる雇用契約書」または「事業主の証明」が必要です。

※上記は協会けんぽ/日本年金機構の場合。厚生年金基金及び健康保険組合に加入している事業所の場合は、当該基金・健康保険組合へご確認ください。

まとめ


定年後の再雇用のタイミングで、給与が大きく変わることは珍しくありません。

60歳以降で継続して再雇用される場合は、同日得喪の手続きを行うことで、随時改定や定時改定を待つことなく、再雇用された月から社会保険料を引き下げることが可能となります。

本人はもちろん、会社の社会保険料の負担も軽減することができるので、労使双方にとって大事な手続きと言えます。ぜひ覚えておいてください。

定年前後に関する社会保険や働き方に関しては、「1日1分読むだけで身につく 定年前後の働き方大全100」(自由国民社)もぜひご参考にしていただければ幸いです。
 


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