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Kings of BKK / Queens of BKK

★バンコクへの2度の旅についてのエッセイをまとめたZINE「Kings of BKK/ Queens of BKK」の冒頭部分を紹介します。

Kings of BKK/ Queens of BKK

 バンコクに来いよ、とメッセージをくれたのはJPだった。
去年、友達主催のキャビンでの集いで知り合ったデザイナーだ。 「バンコクにいるの? なんで? 何してるの?」 「詳しくは、来てから説明するから」
 そのあとの1週間に、二人の友人から「今、バンコクが熱い」という話を立て続けに耳にした。 呼ばれているのだと思った。スケジュール帳を見ると、東京にいる間にまる6日間スケジュール があいていた。バンコクに行こう、とチケットをとった。
 バンコクには朝、到着した。少しはバケーション気分を味おうと、中心地から小道を一歩入っ たところに見つけた小さなホテルを予約していた。
何度もバンコクを訪れたことのある友人たちにおすすめの宿を求めると、送られてきたホテルの ほとんどがピカピカしたモダンな大型の高級ホテルだった。大きいホテルは苦手だ。寂しくなるから。
「バンコクにはそういうホテルしかないんだよ」と、友達の一人は言った。 「ピカピカしたホテルには泊まりたくない」
 というSOSのメッセージに、友達のうえちゃんから返事がきた。 「俺は泊まったことないけれど、欧米人は好きみたい」
 そこが、トンローから裏道に入ったところにある、 部屋しかない小さなホテルだった。
 部屋の準備ができていなかったので、誰もいないプールサイドで横になった。威嚇するように ピカピカの高層ビルたちが見下ろすように立っている。
「バンコクなんて、渋谷みたいなもんだぞ、 6日間も何するんだ」
 と言った男の先輩の言葉を思い出した。
 プールサイドで、デーティング • アプリを開く。知らない土地で、リサーチするにはもってこい のツールである。タイ人の男性よりも、アメリカ人やヨーロッパ人、そして日本人が圧倒的に多い。
 スウェーデン人男性と会話をしてみる。テレコム企業の派遣で、バンコクを拠点にアジア全般 を担当している。食事をしたり、飲みに行くならエカマイかトン • ロー。レストランのクオリティ はどんどんあがっている。バンコクは楽しいけれど、バーやクラブで出会う女性のほとんどは営 業で、会話をすることに興味がないから味気がない。休暇を使って近隣の国やオーストラリアに 遊びに行くのを楽しみにしている・・・
 そんな人生を想像しているところに、友達を紹介しますよ、と言ってくれた東京のりゅうぞう くんから LINE で連絡があった。「連絡してみてください。人気者なんで、忙しいかもですけれど」
 送られてきたインスタグラムのアカウントを見みると、フォロワーが何十万人もいるヒップ ホップのアーティストである。そんな人気者にいきなり連絡するのもなあ・・・と思ったところ で、彼のフォロワーにニューヨークの友達が何人かいることに気がついた。そして、その一人に JPがいた。
 もしかして・・・・と連絡してみると、すぐに本人 DaBoyWay(ウェイ)から連絡があった。 「バンコクにようこそ。どこに泊まってるの? 今夜はどうするの?」
 挨拶もそこそこに質問を投げた。 「今、JPがホテルまで迎えにきてくれるところなんだけど。もしかして友達?」
「Yeah, he is my brother」

「驚いたな。Way から連絡があったよ」 バーで「タイのウィスキー」と呼ばれるラムのロックを注文し、JPにバンコクにいることについての説明を求める。バンコクがおもしろい、仕事があるから来るといい、という誘いに乗って、 去年の秋頃、初めてやってきた。そのまま勢いで仕事を始め、Way の下で仕事をしている。Way が妻のナナと経営するバーバーショップ <Never Say Cutz> のブランディングやデザインを担 当している。
 ジャック・ダニエルのロック啜りながら、JPは、「バンコクの基本」を教えてくれた。
 短距離だったら、一番効率のいい移動は、バイクのタクシー。最初はちょっと怖いけれど、慣れ るとどうってことはない。
「そうそう、タイの人たちは、運転手につかまらないんだ。バイクの後ろに赤ちゃんと子供を両 脇に抱えたお母さんが手放しで乗ってたりする」
夜の移動には検問がつきもの。女子だし、日本人だから、それほど心配することはないかもし れ な い け れ ど 、万 が 一 、荷 物 検 査 を さ れ る よ う な こ と が あ っ た ら 、目 を 離 さ な い こ と 。証 拠 を 植 え付けられる可能性があるから。数000バーツくらいは現金で持っていて、何かあったら警察 に賄賂として渡すこと。
 じゃあいくか、とJPは立ち上がった。
 バイクの後ろに乗って、エカマイのレストランに出かけた。きれいな英語を話す、ハーフのシェ フがいるヒップな店に。タイ料理食べたいんだけどなあなんて思いながら。

(続く)

Queens of BKK

 あまりにバンコクの体験が強烈だったので、文章に残したいと思った。旅の熱が冷めないうち に、とざっと書いた文章を、読み直してみると、女性の声がひとつも登場しないではないか。セッ クスと欲望の街について書いた文章に、女性が登場しないとは問題だ。
 女性と出会わなかったわけではない。ただつかみどころのない壁があった。言語の壁ももちろ ん の こ と 、エ ン ゲ ー ジ さ せ な い 何 か を 感 じ た の だ 。出 会 う 女 性 は 、み な 礼 儀 正 し く 、歓 迎 し て い る 、と い う 態 度 を す る 。け れ ど 、何 を 聞 い て も 、一 辺 倒 な「 正 し い 」答 え し か 返 っ て こ な い 。通 り すがりの、アメリカ人のような英語を話す日本人に、本音で話をしてくれる人を見つけるのは簡 単ではない。それでもあれだけの欲望が渦巻く街で、女性たちが何を考えて生きているのか、知 ろうとせずにはおられなくなった。もう一度行かなければ。何かに突き動かされるように、再び、 バンコク行きのチケットを予約した。
 バンコクをよく知る人たちからは「タイ人のカルチャーを理解するのは難しいよ」と警告され た。女性に会いたいのだというと、タイ人の女性でアクティブなのは、アイドル系か、「良家の子 女でジュエリーを作ってます、というタイプ」と言った人もいた。確かに思い出して見ると、タイ で 会 っ た り 、見 た り し た 女 性 に は 、特 定 の タ イ プ と い う も の が あ っ た 。美 容 や フ ァ ッ シ ョ ン の 広 告に登場するタイプ、つまり「美」を代表する女性は、バリエーションはあれど、目がぱっちりし ていて、色が白いいわゆる美人というタイプ。夜遊びに行った先で見かけるのも、こういうステ レオタイプの「美」をベースにしたタイプ。必ずボディにフィットしたドレスを着ていて、ばっち り と 完 璧 な メ イ ク を し て い る 。ヒ ッ プ な カ フ ェ や ギ ャ ラ リ ー に 出 か け れ ば 、ト ム ボ ー イ 風 だ っ た り、ちょっとアーティだったり、個性派と呼べるようなタイプの女子に出会うこともあったけれ ど、やっぱり圧倒的に「アジアン • ビューティ」を目指す人口に比べれば圧倒的に少なかった。実際、こういう街にいる自分を客観視しようと試みると、浮いているだろうなと思った。はたまた 単なる流れ者の外国人に見えるのか。
 一度の旅の紀行文をまとめるだけ、という手もある。実際もう一度行って、何が理解できると いう保証もない。が、自分の旅にはB面が必要だと思ったのだ。前の旅で体感したエネルギーは、 知らない土地を初体験したことに生まれるハイで、時間が経つと、あれは幻想だったのかもしれ ないな、などと思えてくる。あの恋の始まりのような強烈なバンコクとの出会いを、もう一度繰 り返せるかを確認したかっただけなのかもしれない。すべて、もう一度バンコクに行くための言 い訳だったかもしれない。
 2度目のバンコクに到着したのは夜だった。ホテルに着く頃には、 時をまわっていた。Way は プ ー ケ ッ ト に い て 、J P は ニ ュ ー ヨ ー ク に い る 。ベ ッ ド に 潜 り 込 み そ う に な っ た け れ ど 、タ ク シーでホテルに向かう車窓から、パーティで盛り上がる夜の街を見たら、遊びに行かないのが損 なような気持ちになってきた。Radio に連絡すると、2時までジャズ • バーにいて、そのあとア フター • アワーズ(営業後)のクラブに行くと言う。
 指定された場所に到着すると、高級風のラウンジらしき建物の入り口の周辺が暗くなってい て、外からは閉まっているように見える。が、近寄って見ると、扉が開いている。2時半のラウン ジ。ダイニング • ホールは、いかにも財力のありそうなアジア人の若者たちでいっぱいで、その7 割が男性だった。バーに行ってウィスキー • ソーダを注文する。オクスフォードシャツに、サスペ ンダーとネクタイ姿のバーテンが手を動かす間、バーを観察する。棚にモンキーと山崎が置かれ ている。ウィスキー • ソーダは260バーツ。ここまで 分ほどのタクシー代が100バーツもいかなかった。 ヒップホップのヒット曲に立ち上がって体を揺らす人たちが出てきたのを横目に、人間
ウォッチングに精を出す。隣の席に、人待ち顔のおそらく 代の女性がいた。あどけない顔にが んばってしてきました、という感じのバッチリメイク。話しかけるとポツポツと返事をくれるけ れど、当たり前ながら言語の壁が立ちはだかる。反対側の隣には、ベンチャー • キャピタリスト 風のダークスキンの男がいて、話しかけてきた。エチオピア人のアミア。マレーシアに暮らしてい るけれど、ときどきバンコクに遊びに来る。「バンコクのほうが格段自由だろ。だから時々遊びに くるんだ」とビールをごちそうしてくれた。「アフリカに輸入できるアプリを探してるんだ。何か アイディアないかな?」
 空いているなと思った土曜のアフター • アワーズのクラブは、 時になる頃にはどんどん混み 始 め て 、メ イ ン フ ロ ア か ら ダ イ ニ ン グ テ ー ブ ル が 除 去 さ れ た 。バ ー は 大 混 雑 で 、高 級 な カ ク テ ル が飛ぶように売れている。
女性トイレを訪問した。完璧なメイクに体にピッタリくっつくドレス。こういう場所に来ると、 トイレの様子はほぼ同じだった。夜遊びに出かける女性のスタイルは驚くほど似通っていた。鏡 に映る自分の姿は完全に浮いていた。「アウト • オブ • プレイス」(場違い)とはこのことだ。
戻ったバーで、引き続き人ウォッチングをしていると、Radio がアメリカから来たラッパー Grafh とやってきて、手招きした。夜のフィールド • リサーチはそうやって終わりになった。

(続き)

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