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新しい友だち

本を持って日本各地をまわるようになって、いろいろな場所に縁ができるようになったものの、イベントで行けていない場所のひとつに北海道があった。

いつだったかな、去年の冬くらいに、うちでアーティストの下條ユリちゃんとのんでたときに、ユリちゃんが「ゆみっこ(と、ユリちゃんは私のことを呼ぶ)、伊藤菜衣子知ってる?」と言った。暮らしかた冒険家を名乗るさいこちゃんのことは、札幌芸術祭での活動から知り、インスタなどでフォローしあってはいたのだが、実際に会ったことはなかった。

ユリちゃんが「今電話しよー!」といきなりフェイスタイムをしたら、さいこちゃんは子連れ出張のさなかで飛行機に乗り込んだところだったのに、ニューヨークからのハイテンションな酔っ払っい電話を軽やかに受け止め、「イベントで札幌に行きたいの!」と言ったら「相談して〜!」と言った。

だから、早速甘えることにして、春先くらいに相談した。さいこちゃんは早速、会場とコンセプトを決めてくれ、ガシガシと告知をしてくれた。ブルドーザーのような勢いで。

当日、札幌駅の改札で待ち合わせをした。長い間知っているような気持ちになっていても、会うのは初めてなわけで、やっぱりちょっとドキドキする。そこにさいこちゃんが満面の笑みで現れた。初めてなのに懐かしい感じ。

私は普段、ニューヨークにいるときに、初対面の人に会うとき、よっぽど壁を感じない限り、ハグの挨拶をするようにしている。ハグで初対面のちょっぴりおどおどした感じを解消できるし、距離も縮まるから。それは、もうずいぶん前に、大好きな女友達がそうしているのを見て、見習うことにしてから習慣になった。

これが日本だとなかなか難しい。いきなりハグをしたら、変なやつだと思われかねない。だから最初は握手、仲良くなったら別れ際はハグ、というパターンが多い。が、自然にハグをしてしまうタイプの人がいる。受け止めてくれると確信をもって。伊藤菜衣子ちゃんは、そういう人だった。

そこからコーヒーを一緒に買って、会場に向かった。

さいこちゃんが考えてくれたイベントの会場はUntapped Hostelだった。そこに日本家屋のような別館と<ガーデン・バー>というバーがある。そこの畳の間に本を広げて、ゆるゆると本屋を始め、夕方からトークショーをやることになっていた。Untapped Hostelのスタッフたちも、壁のない人たちばかりである。雑談をしながら、本屋の準備をした。<たべるとくらしの研究所>の安西伸也さんが、窯を積んだ消防車に乗ってやってきた。野菜とピザを焼いてくれるという。夢のような展開である。

旧知の仲のような気分でも、彼女について知ることは、ネットやSNSのポストを通じて知っていることだけ。この人の人生を早送りで見たい!という気持ちまるだしで、札幌に住むことになった経緯とか、キャリアのこととか、猛スピードのおしゃべりをした。しゃべっていたら、あっという間に、トークの時間になって、あまり打ち合わせをしないままトークに突入した。女性であること、シングルマザーであること、キャリアのこと、日本のこと、選挙のこと・・・2時間、あっという間に過ぎてしまった。

そして、さいこちゃんは、ポップアップ本屋で、ユリちゃんの作品を売るという粋なはからいを思いついた。そしてやっぱりブルドーザーのような営業力で、ユリちゃんの版画を何枚か売ることに成功した。愛のパワーすごすぎる。

そして夜は、さいこちゃんが札幌芸術祭の会期中にリノベをした家に泊まった。「何泊でもいいよ!」というさいこちゃんの言葉に甘えて、2泊して、札幌を案内してもらった。さいこちゃんの友達、谷口めぐみさんが運営する農場に行き、農場が併設されているヤギヤで舌鼓を打ち、マンションが商業施設に転用されている115という場所に行き、クラフトビールを呑んで、チーズとワインを買いに行って、そばを食べ、木工作家の辻有希さんのアトリエを訪ね、夜はさいちゃんの家で選挙速報を見て、政治議論をした。

こんな贅沢で濃密な時間を過ごすことができたのは、さいこちゃんが愛と時間をケチらない人だからである。
そして、私は、こういう愛をケチらない人に恵まれている。

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