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エッセイ#063 - クモ

トイレに行ったらクモがいた。白い壁にへばりついてて驚いた。驚いたけど、クモはこわくない。たぶん子どもの頃からクモは殺しちゃダメと言われて育ったからだろう。悪い虫を食べてくれる益虫なので、殺さない方がいいらしい。毒を持ってる悪いクモもいるけど、家の中で見かけるようなクモは安全なのだろう。
トイレにいたクモは、近くの壁をコツコツ叩いてみたけど逃げないので、動かないならまぁいいかと思ってそのまま用を足した。家の2階のトイレは座って右側の壁にトイレットペーパーのホルダーがあって、クモはそのすぐ近くにへばりついていた。だから横目で見ながら用を足した。トイレットペーパーをカラカラ巻き取っているとクモが動き出して、ちょっと、動かないで!と言いながら慌てて流して出てきた。トイレは狭くてお互い気を遣うので、できればもう少し広い場所で共存したいと思って扉を半開きにしておいた。しかしどこから入ってきたのだろう?窓も開けてないのに。

去年くらいから、家の中であの種のクモをよく見かけるようになった。手のひらの半分から3分の2くらいの大きさの、華奢な足の、木の枝みたいな色のやつだ。アシダカグモというらしい。ハエみたいに小さいクモは居ても全く気にならないのだけど、大きいとさすがに気になる。鉢合わせると一瞬ぎょっとして、なんだクモか……と安心するのだけど、近寄ってきたら踏んづけてしまわないように追い払ったり、やっぱりちょっと気を遣う。
このクモは巣を作らないそうだ。クモにも巣を作らないやつがいるなんて驚きだ。でも確かに、去年の夏に家の中にやたら巣を作っていたやつは、もう少し小さくて色も黒かった。巣を作る場所が、雨が降って家の中に洗濯を干すために渡していた物干し竿だったり、テレビの前のよく人が通る場所だったり、ジャマな場所ばかりだったので申し訳ないけど3回ほど壊させてもらった。でもクモの巣というのは実物を見るとなかなか美しいものだ。捕食のための機能美なのだろうけど、芸術品のような繊細で神秘的な美しさがある。たった一晩で直径1メートル以上の大きな巣を張っている事もあって感心した。

頻繁に見かけるようになると、愛着も湧いてくる。リビングでごはんを食べている時には壁に張り付いていたのが、夜中に見かけた時には天井に移動していたりする。3日ぐらいリビングをうろうろしていたのに最近見かけないなと思ったら、自分の部屋の壁に張り付いているのを見つけたりする。同じような大きさだけど、同じ個体なのかどうかわからない。でもたぶん同じ奴だと思うし、なんか好かれているみたいで嬉しい。

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