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エッセイ#079 - ダサいは身を助く

自分に一番足りないものって、たぶんオシャレさだと思う。何がおしゃれなのか全くわからないし、そもそも全く興味がない。未だにイエベとブルベ(だっけ?)が何なのかもわかっていない。いつもてきとうな格好をしているので、ちゃんとした服装をしないといけない時は毎回周りに聞きまくって助けてもらう。

会社員時代には、私は作業服を着ていた。中途入社みたいなものだったので、入社してから短いOJTと自分の仕事を並行していた頃、私のOJT担当の先輩に制服を着るかどうか問われた。オフィスカジュアルでいいけど、欲しければ制服を支給できるよ?と。着ます!と私は即答した。私の担当の先輩は事務職寄りの仕事をしていて、私は技術職だったので、他の女性たちが着ているベストやスカートではなく男性たちが着ている作業服と同じようなものが制服になるけどいい?と聞かれた。そっちの方がラクでいいです!と私はまた即答した。
オフィスカジュアルって何着ていいかわからないので助かります、と私がかなり積極的に制服を求めたので、その日のうちに作業服が支給された。私が本当に何を着ればいいのかわかっていないのは、その時まで面接時に着ていたスーツを3日ぐらい着てきていたので伝わっていたのだろう。自分の持っている服の中でオフィスカジュアルがどこまで許容されるのかわからなくて、ずっと面接用スーツを着ていた。作業服はダサくて着たくないって人も多いけど……と苦笑されたけど、私はダサい服を着ることには何の抵抗もないタイプなので平気だった。

入社後わりとすぐの休日に、母が何かの用事で東京に遊びに来た事があった。当時東京に住んでいた妹も一緒にみんなで東京駅を歩いていたら、偶然ワイシャツ屋さんを見つけて、母と妹に会社に着ていっていいワイシャツを選んでもらって4枚買ったのを覚えている。そのワイシャツを作業服の中に着て、下はユニクロで買った黒や紺のスキニーで、ずっと回していた。夏は半袖の作業服だったのでワイシャツは着ていなかったけど、下はずっとスキニーのままだった。スキニーも、これって会社で着てても大丈夫だよね?と友だちに確認したほどの徹底ぶりである。よくある、仕事ができる人が決断エネルギーを消費しないためにずっと同じ服をローテーションして着るアレを、私はオシャレに無知なあまりにやっていた。

私がそうやって服装の悩みをすっぱり脱ぎ捨ててしばらくした頃、派遣社員の男性が入社してきた。社内の男性は当たり前のように全員スーツか作業服を着ていたのに、その男性は初日にネルシャツに黄土色のズボンみたいな服を着てきて驚いた。会社よりもキャンプ場が似合うような服装だった。システム系の部署で頻繁にお客さんと顔を合わせる訳ではなかったけど、そんな服装の人間は1人もいなくて、さすがの私もわかるほどの違和感だった。
その日、遠回しに全員に向けてオフィスに合った服装を心掛けるよう部長が言ったのを覚えている。ただ、そんな格好で出社してくる図太いタイプにそんな遠回しの注意が効くわけもなく、翌日も同じような格好で出社してきた。そこで彼と、もうひとりオフィスカジュアルだった事務の女性が課長に呼び出されて、明日から2人とも制服を着るようにと申し伝えられる事となった。
キャンプウェアの彼だけでなく事務の女性も制服を着るように言われたのは、部署の全員をスーツか制服で統一するという建前で、1人だけに注意するのを避けたというのが表向きの理由だった。彼女は自分まで巻き込まれたと不満そうだったけど、実は事務の彼女のオフィスカジュアルが目に余るが、注意する程には逸脱していない微妙なものだった、というのが上司たちの悩みのタネだったらしい。なので良い機会なので一緒に成敗されたという事らしかった。確かにオシャレすぎるというか、たまにビックリするような服を着ていたなと思った。

私は自分がダサくて服装に関しては常識がない自覚があったので、その時まとめて注意される側にならなくて良かったとものすごく安堵したのを覚えている。 

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