さよならのメッセージ【前編】

「初めて会ったとき、自分の世界を瞳をきらきらさせながら無邪気に話すタカシを、好きになりました。
この人の隣にいたら幸せだろうな、って。
またあんなふうに話すタカシと一緒にいたいな。

病気のせいもありますが、私は気持ちをことばにしたい。してもらいたい。
ことばにならないと不安になります。
つき合おうも、好きも、会いたいも。
不安は、私の体調をいともかんたんに崩します」


限界だった。
あんなに頻繁にかかってきた電話が来なくなって、週末、連絡が来なくて、好きとも会おうとも言ってくれなくて、不安おばけがやってきて、もう終わりにしなさいと囁いた。
だから、彼からの連絡が来なかった日曜の晩、さよならのメッセージをしたためた。
でも、すべてが終わってしまうことばたちを、まりかの手で送ってしまうのは忍びない。
だって、まりかは不器用で口下手で、でも自分の世界のことは夢中になって語るタカシが好きなのだから。


月曜の朝、胃が痛くて吐き気がどうにもおさまらず、出勤してすぐに早退した。
わかりやすく、不安で体調が崩れた。
胃の痛みは、まりかの思考をかき回して、いたぶった。
うとうとすると痛みに起こされ、目を覚ましてはタカシはまりかのことなんてこれっぽちも好きではないのだという思いにとらわれた。


限界だった。
さよならメッセージの前半だけ、月曜の夜にとりあえず送った。
未練たらたらである。
これで何も反応がなければ、肝腎要の後半を、火曜の彼の仕事上がりを見計らって送るつもりだった。
何度も何度も手直しした文面を、iPhoneのメモに入れて、いつでもコピーアンドペーストで彼とのLINEに載せられるように準備した。


「終わりにしましょうか。
といっても、タカシとしては、おつき合いしているつもりすらないのかもしれないから、変なものでしょうね。
おたがいの違うところを少しずつ受け入れながら、信頼関係を築いてゆけたらいいな、と思ってた。
でも、これは私の思い。
タカシは違ったんだね。

短い間だけど、楽しい時間をありがとう。
ご家族みなさんの健康と、タカシのますますの活躍をお祈りします。
元気でね」


手直ししてはため息をつき、読み返しては涙が止まらなくなった。


折しも低気圧の襲来、まりかはどうにも自分の気持ちをコントロールできなくなった。
胃はずんずんと痛み、吐き気に襲われる。
お化粧をして、玄関に水筒まで用意したけれども、まりかは今日も休むことに決めた。
昨日、あれだけ眠ってしまったから、今日は四六時中、現実としか思えない妄想に追い立てられるのだ。



ところが、である。
職場に欠勤の連絡を入れてまどろんでいると、LINEの着信音に起こされた。
仕事で何かやらかしたかと思いながらiPhoneを見ると、はたしてタカシからだった。


「おはよう。
今日、そっちまで行ったら会える?」


いつものとおり、そっけなく短いメッセージだった。
涙が止まらなくなった。
タカシは、まだまりかに会いたいと思ってくれているのかもしれない、という確率を思うだけで、うれしくなった。
やっぱり、口惜しいけれどもまりかはタカシが好きなのだ。


もしかして、夕べのLINEを見て、彼から先にさよならを言いに来るのだろうか。
いや、3時間近くかけてさよならだけ言いに来るわけがない。
では、なぜやってくるの?
気がついたら、まりかは、今夜送るつもりのさよならメッセージの後半と、タカシのメッセージを見比べながら涙を流していた。
どうしてこの殿方は、まりかをこんなに不安にさせるのだろう。
どうしてこんなにときめかせるのだろう。

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