別の殿方からのお誘い

「そろそろ飲み行こう?」
「C駅?」
「F駅でどう?」
「おいしいところある?」
「あるよ!」


この2.5往復のLINEで、まりかはダンちゃんと近々、飲みにゆくことになった。
ダンちゃんは、去年の12月、デートセッティングアプリで知り合った、ひとつ上の銀行員である。

暮れに男女15人ほどの忘年会にも呼ばれたが、女性の数人はまりかと同じようにマッチングアプリで知り合った人と思われた。
とにかく、交友範囲が広そうな殿方だ。
背も高くて、そこそこカッコいい。
まりかと同窓のW大の付属上がりだし、勤務先だって世間的には申し分ないし、収入だってそれに見合ったものであろう。
モテないわけではない、なかなかな好物件なのに、本人にいまいち決断力が足りなくて、50をすぎたいまもおひとりさま、という感じである。


LINEを受け取ったのは、1月に老人ホームに入れた父を連れて行った眼科の待合室だった。
介護をきっかけに、両親との確執に気づいたまりかの中では、父も母ももう死んでいるのであるが、まだ現実には生きているのだから、福祉関係者が困らない程度には世話をしなくてはならない。


タカシとは、相変わらず何となく噛み合わずにいた。
近々、まりかの家のお風呂場のドアを直しに来てくれることになったのだけれども、具体的な日程は決めてくれない。
今回もまた、もう連絡は来るまいと思ったから、ひょいと連絡のあったダンちゃんと飲みにゆく気になったのである。


ところが、ダンちゃんも、日程調整で止まってしまった。
きっとダンちゃん、今日もどこぞのアプリで知り合った女の人と飲んでいるのだろうな。
がっつりつき合う気にはならないけれども、一緒にちょっと飲んで、手ぐらいつないで、何なら前回のようにほっぺにチュッくらいはありかなと思ったのに。


ところが、である。
ライターの仕事の打ち合わせの電話中だった20時前。


「おつかれさま! いまから帰るよ」


と、タカシからLINE通知が、iPadの画面に現れたではないか。
いまから帰るよ、は、70%の確率でこれから電話していい? のサインである。
なのに、まりかは打ち合わせ中だから当然、すぐには返信できなかった。
何ということだ。
もしかしたらタカシは、「まりかの声が聞きたいな」と言ってくれたかもしれないのに。

「おつかれさまです。
ライターのお仕事の打ち合わせ中でした」


と、ようやく返信したのは、21時近くなってからであった。
じきに既読はついたが、返信はなかった。
まりかはちょっとほっとした。
完全にタカシと切れたわけではなかったから。
でも、もう終わりにしようかなと別の殿方との約束を入れてすぐに、話をすることを回避できたから。


まりかはタカシが好きなのだろうか。嫌いなのだろうか。
連絡が来ないといってはもう終わりにすると嘆き、つれない連絡をもらっては嫌われたと嘆く。
ちょっと会話が弾めばうれしくなるし、声が聞ければ幸せだ。
つまり、まりかが思ったような反応があれば好きだと思うし、そうでなければ嫌いになる。

これって、好きなのだろうか。


きっとダンちゃんに会ってみれば、何かがわかるだろう。
タカシに固執することもないと思うのか、やっぱりタカシがよいと思えるのか。
いまは、明日の朝のタカシからの定期LINEよりも、ダンちゃんからと飲む約束の方が少し、楽しみになっている。

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