見出し画像

風俗嬢の思い出①「着衣泳のカトウさん」

私のデリヘル嬢歴も、今年ではや6年目。

日々、様々なお客様とお会いする中で
忘れられないあの人やこの人、
人にはおおっぴらに語れないけれど、大切な思い出ができる。

そんな、今でも心に残るお客様と、
愛すべきあたたかい思い出たち、シリーズ。

※実話のためオチは弱めです。悪しからず。


都内某所のデリヘルに勤めていた大学生時代。

私には、決まって出勤後一本目の枠を、
180分コースでとってくれる、30代後半の常連様がいた。

名を仮に、カトウさんとする。


彼がいつも決まって呼んでくれるホテルには
最上階に、プールのついたスイートルームがある。


部屋には大画面のテレビが鎮座し
テーブルに置かれたフードデリバリーのメニューも豊富。
ベッドはもちろん、ゴージャスなキングサイズだ。


私は、その無駄に大きなベッドに、一度も横たわったことはない。

そして彼も、私の身体には、ほとんど触れない。



初めて彼が私を呼んだ時、
入室した先のベッドの上には、
真新しいセーラー服が一式、ちょこんと置いてあった。

私は当時、コスプレには既に慣れていたので
「ああ、そういうことね」と、内心察するやいなや、

彼は少し恥ずかしそうに

「これを着て、シャワーを浴びてほしい。

「そして、もし君が嫌じゃなければ、
 そこのプールで、制服のまま泳いでほしい。」

と私に言った。

予想の斜め上を行くリクエストに、こちらが「?」の表情でいると
すぐに、彼は慌てて

「僕は、ただの裸の女の子じゃ興奮しないんだ。

 濡れた服を着ている女の子じゃないと、ダメなんだ。」

と付け加えた。


白い半袖のセーラー服は、
水を纏うと、思っていた以上に重たい。

そんな風に思いながら、
小学校のころまで、
自分がスイミングスクールに通っていたことを思い出す。

15メートルほどのプールを、
あまり必死な顔にならぬよう、
平泳ぎで、なるべく静かに泳いでいると

彼の表情が変わり、息遣いが荒くなる。

たまにこちらが彼に近づくと、
彼は自分の手で、自身の処理をしているようであった。

そのくせ私には、時折りキスをするのみで、
決定的な部分には、ちっとも触れてこない。

しばらく泳いで、
たまにキスして、
また潜って、浮かんで。

2時間弱、制服でひたすら泳ぎ続けて、
最後の60分で、髪を乾かし、メイクをし直すまでが、私のお仕事。

ぼやけた薄化粧で、地味な黒髪の垢抜けない私。

そんな自分に、こうも胸を高鳴らせて、喜んでくれる人がいると思うと、
濡れて太腿にまとわりつくプリーツスカートも気にならないくらい
毎度毎度、気持ちがよかった。


2度目に呼ばれたときだろうか。
私は彼に、「なぜ濡れていないとダメなのか」と
無邪気に聞いたことがある。


彼は

「自分でもよくわからないんだ。

 高校生だったある日、片思いをしていた女の子が
 急な夕立ちに降られて濡れている姿を見かけた。

 その日から、理由もなく、
 濡れている女の子に興奮を覚えるようになったんだ。」


「普通じゃ興奮しないから、恋人もできない。困ったもんだよ。」

と苦笑いを浮かべて答えた。


私は、
「男の人ってなんだかよく分からないな」
と他人事に思いながらも

「泳ぐだけでこんなに喜んでくれるなら、まあいいか。」

と深く考えず、
泳いだ後に彼が注文してくれた
アイスクリームが乗ったメロンソーダを楽しんでいたことを覚えている。

彼はそんな私に、いつも笑顔で

「今まで呼んだ女の子たちは、
 メイクやヘアセットが落ちるのを嫌がって、シャワー止まりだった。

 ユリちゃんはいつも楽しそうに泳いでくれるから、助かるよ。」

と褒めてくれるのだった。


なんだか、至って普通の大学生の自分が
誰かの、誰にも言えない秘密の
ほんのちょっとの捌け口になれたようで。

どこかむず痒く、嬉しかった。



結局彼は、私が大学を卒業するまで
源氏名の私をそのホテルに呼び続けてくれ、

その度に、ワイシャツ、ブレザー、体操服など
色んなバリエーションの着衣泳と、その後のメロンソーダを楽しんだ。


大学卒業とともに、
勤務する土地もお店も替わり、
必然的に会えなくなったカトウさん。


いまも、どこかで元気にしているだろうか。
急な土砂降りの日は、きっと道行く女性にハラハラとしているのかなぁ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?