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サイゴンの旅〜クチへ

正確には旅ではなく、お仕事です。
1区にあるホテルから、タクシーでクチへ向かいます。
というのが、簡単なことではない

サイゴンには出張で何度も来ているのですが、来るたびに、目的地にたどり着けない問題

どこの国でも、どこの街でもそうですが、タクシーの運転手さんは必ずしもその街の出身とは限りません
特に都市では地方から出てきて、タクシーの運転手をしているというケースがあります。

ベトナムはそんなに簡単に都市に引っ越せるわけではないのでないのですが、市を拡張する?というナゾの政策により、郊外の県や村が市に包括されたり、親戚のうちに身を寄せたりということで、あまり街に詳しくない運転手さんもいます。

これまでも、大きな川の手前のはずなのに、橋を渡ってしまって、道路の構造上、戻る道に出られなくて40分ほどロスしたり、開発区に行こうとして散々迷った挙句、たどり着けなかったこともありました…

ということで、なぜこんなことを書いているかというと、前の日にホテルでひと悶着あったのです。

定宿にしている1区の5つ星ホテルのコンシェルジュに目的地の住所が書かれた簡易地図を見せて、
「明日、ここに行くから、タクシー手配して」
とお願いすると、ものすごく驚いて
「それはあり得ません!そんな遠いところに何しに行くんですか?ここから2時間くらいはかかるし、観光ならツアーに乗ったほうがいいですよ」
と真剣に言います。

「そんなはずはない。ここからタクシーで1時間と聞いた。とにかく、タクシーを」
というと、
「そこはすごく田舎なんです。タクシーの運転手はそこまで行って、あなたを降ろした後、乗せるお客さんがいなければ困るでしょう?ですから、タクシーは行かないと思います」

でも、たしかに先方は普通タクシーの移動で、所要時間は1時間と言ったはず。
思い直して、もう一度、頼んでみました。
「たぶん行けると思うから、タクシーをお願いします」

気づけば周りには、他のコンシェルジュ、ベルボーイやドアマンが集まってきていました。
そして、仲間内でベトナム語で事情を聞くと、はぁ…とため息をついて、無理無理…と言わんばかりです。

「クチトンネルに行きたいなら、ツアーに乗ったほうがいいですよ」
「クチトンネルではなく、仕事に行くの。タクシー以外の方法があるの?」

すると、いかにも親切そうなコンシェルジュが
「ホテルで車をチャーターすれば行けますよ」
と言います。
「それはいくらですか?」

と、コンシェルジュは別のスタッフに値段を確認して教えてくれました。

た、高い…高すぎる…

うまい、うますぎる!の埼玉銘菓十万石饅頭並みの驚きです…。

と同時に、そんなに遠いの?という訳の分からない不安にかられました。

ハノイで何度か車をチャーターしたことがあったけど、2時間でもそんなに高くなかったし、場所がちがって、物価が上がったとしてもそんなに?と思います。

しかも、私はベトナム語もできないのに、ガイドブックもSIMカードもwifiもなく、完全丸腰で、あるのは先方が送ってくれたー今手元にある簡単な地図だけです。

そんなに遠くに、丸腰の自分一人で行けるか問題

急にこれまでに外国で嫌という程味わった圧倒的弱者の気分になりました…

そんなはずない…
一瞬、私が怯んだのを見て、すかさずコンシェルジュは畳みかけてきます。
「高速を使わなければならないし、もし、タクシーで行ったとしても、同じくらいの時間も値段もかかります。安全策で車をチャーターすべきです」

というやり取りを全て振り切っての敢えてのタクシー強攻策です。

朝ごはんをたっぷり食べ、ホテルの前でいつものタクシーを捕まえて乗り込みます。
車内で先方からもらった簡易地図を渡すと、ベトナム語でなんとか言ってきます…
通じないと分かると、ジェスチャーでアピールしてきます。
やばい…英語、カタコトもできないらしい…

どうやら、遠いということを言いたいようです。
「ソレ、シッテル。イッテ」
カタコトのベトナム語で言うと、運転手さん、諦めて出発。

出てすぐに何度も何度も簡易地図を見ています。
まずいパターンきた…
運転手さん、スマホのGoogle先生に聞いてもらおう!と、見ると、運転手さんのケータイ、ガラケー…

おわった…

しかし、お仕事です!
何とかたどり着いてもらわなきゃ困ります!

自分のケータイにSIMがないことを伝え、運転手さんにケータイを借りて、先方に電話しました。
運転手さんに代わると二言三言で、電話を切りました。

えぇっ!わかったの?????

絶対、わかってない、それ、わかってないパターン…

もう、しかたないので、サングラスをかけて、重い気分で窓の外の道路脇の建物の住所を眺めていました。

おぉ!なんとなく、あってる感!
もしや、行けるのかも!

太陽が真上に上ったサイゴンの日差しは、エアコンのきいた車内にも容赦なく照りつけ、やや汗ばんできました。

すでに1時間以上、街の中を走っています。
橋を渡ると、急に道が細くなって、建物が低くなって、埃っぽさが増しました。
見ると住所も「区」ではなくなっています。

車は急にスピードを落とし、道の右側に寄って止まりました。
運転手さんがいる窓を開けて、商店の店主に声をかけています。
何やら言葉を交わした後、ケータイを取り出して、電話をかけました。

おそらく先方に電話で確認をしたと思われましたが、電話を切るか切らないかのうちに車はすぐに発進して、また小さな商店の前で止まると、車の中から店主に声をかけました。
店主が店の中から水を2本持ってくると運転手さんは道を尋ねました。

運転手さんはお金を払うと私に水を1本くれて、来た道を引き返しました。

あぁ…お水、ありがとう…道、間違えたんだね…

さすがに心配になって、私も信号のないケータイで、簡易地図を見ながら、道を探します。

砂埃の中に立つ小さな標識に、地図と同じ文字を見つけ、運転手さんに「ココ!マガッテ!」
と言うと、運転手さんも「わかっていた」という様子で、頷きながら交差点を差して、何か言っていました。

ベトナム人はメンツがあるので、ここは運転手さんがわかっていたことにしよう。

また交差点を見つけて「ココ、ミギ!」と私がいうと、運転手さんはやっぱり頷きながら交差点を差して、何か言います。

そんなことが何度か繰り返されて、目的地の地名の道にたどり着きました。

周りにはすっかり建物は無くなって、緑の畑?水田?が広がっていました。
時計を見ると、すでに2時間弱、走っていました。

本当に遠くまで来ちゃったな…

運転手さんが番地を尋ねるので、目的地の番地を伝え、一緒に数少ない建物の番号を数え始めました。

16…18…20…22…

なんだかドラクエで一緒に旅してきた仲間のような不思議な気分です。

そして、急に目の前に緑の茂みが見えると、仕事先の看板が見えました。

とうとうたどり着きました。
もうすっかり勇者の気分でした。

ホテルのコンシェルジュの言った通り、こんなところで、帰りのタクシーなんてつかまえられそうにないので、運転手さんと交渉して、仕事が終わるまで待っててもらいました。

無事に仕事を終え、帰り道を急ぎます。
運転手さんはあんなに迷った道をちゃんと覚えていて、すいすい帰ります。

運転手さんは途中で車を止めると、写真を撮れと言います。

急いで撮ったのでひどい写真になってしまいました…
運転手さんは「すばらしいね!」という感じで、何やら説明してくれましたが、どうやらこの教会は日本が関係しているらしいです。

途中で渋滞はありましたが、来た時間と同じくらいの時間でホテルにたどり着き、運転手さんにお礼を言って車を降りました。

仕事にかかった時間、1時間と少し、タクシーに乗っていた時間4時間弱の長い旅でした。

かかった料金は、ホテルで聞いた値段の半分以下…

闇は深いです…

ま、そこがおもしろいんだけど。

空港には初めてシャトルバスで行きました。
ホテルのすぐ裏から出ていて、だいたい時間通りに来ていました。

お客さんは、私と空港で働いている雰囲気のベトナム人の2人だけ。

途中で、ガソリンスタンドで給油して、のんびり到着。

タンソンニャットはいつもこんな感じ。
checkinに1時間はかかります。

さて、これからフライトです。



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