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「悲劇のヒロイン」

私は一生懸命生きてきた。
いつだって全力で、
必死だった。

私はただみんなから愛されたくて
必要とされたかった。
愛されて、必要とされなければ
存在する価値も、意味もないと思っていた。

歳を重ねるうちに学んだことがあった。
人気者になるには4つ方法があること。

「運動ができる」
「勉強ができる」
「面白い」
そして、
「可愛い」

私は全くと言っていいほど
運動神経に恵まれなかった。
泳ぐことはそこそこできたものの
走るのはすごく遅くて
いつだってクラスでビリ争いをしていたし、
球技系のスポーツは本当に苦手だった。
反射神経も悪かったし
ボールはいつも私の意思と全く異なる方向に飛んでいった。

勉強も苦手だった。
わからないのではなく
努力ができなかった。
勉強することを楽しいと思えなかった。
興味の無いことを見聞きして暗記する事は
苦痛でしかなかったし、
自分のために必要だと思えなかった。
「将来役に立つから勉強しなければいけない」
という理由は私にとって不十分だった。
勉強するという行為が拷問のように感じた。

面白いというのは
関西圏において
とても重要な人気者要素だった。
東京で生まれ育った両親はとても真面目で
家で見ることが許される
テレビ番組は限られていた。
NHKのニュース以外
ほとんど見ることなく育った私は
みんなが口を揃えて好きだと言う
お笑い芸人の名前を一つも知らなかった。
私のお笑いに関するセンスは皆無だった。
「話のオチがない」と言われたり
冗談を真に受けてしまい、
場を白けさせてしまうこともよくあった。

それなのに目立ちたがりで
物事をはっきりと発言する私は
「偉そう」
「キツイ」
と煙たがられた。
それでも私は愛されたかった。

私に残された道は一つしかなかった。
可愛くなること。
中学に入ると
「可愛いこと」はより一層意味を持った
進学校ではない6年一貫の女子校で
「可愛い」は最強の武器だった。
他の何もかもが
「可愛い」には勝てなかった。

可愛いければみんなに愛される
そう思った私は
一生懸命化粧を覚え、
髪の毛を巻く練習をした。

校則を守ることより
みんなに愛される事の方が
大事だった。

親に隠れて髪の毛を脱色し、
自分を派手に飾り立てた。
先生に注意されても
地毛だと言い張った。

自分が可愛いことだけではなく
可愛い友達や先輩、後輩と繋がりを作った
私のプリクラ帳に
可愛い子達プリクラが沢山貼ってあることは
私の地位を確かなものにしてくれた。

私の地位が確立され始めても
私の不安は消えなかった。

仲良くなった子とは
メールアドレスをお揃いにしたり
お揃いの物を身につけたり
プリクラの落書きに「親友」と書いたりと
わかりやすい形を好んでこだわった。
それがないと不安だった。

みんなと話を合わせようと
流行りの番組を見られるように親に頼み込み
流行りの音楽をカラオケで歌えるよう
練習を重ねた。
みんなと好きなものが同じじゃないと
不安だった。

「友達の友達は友達」と豪語し
誰とでも仲良くなった。
友達の数が多ければ多いほど
自分の価値が上がる気がした。

友達の数は、自分がたくさんの人に
愛されて求められているという証拠だった。

でもずっと愛され続ける確証などない。
友達からメールの返事が返ってこないと
すぐ不安になった。
嫌われたのか
何かしてしまったのか
考え過ぎ、勘ぐりすぎるくせがついていた。

付加価値を求め、そして見つけた。
彼氏がいること、
そしてその彼氏が格好良くて
お金持ちであること
それは私の価値を上げるための
重要な要素だった。
「彼女」というオンリーワンな存在に
選ばれること。
それはとても特別な意味を持っていた。

そしてその彼氏から物を貰うことは
自分に価値がある事、
そして愛されている事の
物理的証拠だった。

彼氏から貰った
ブランド物のアクセサリーを
身につける友達を
心底羨ましく思った。

何とかみんなが羨む男の人に
愛されようと
私は頑張った。
おしゃれをして、ヘアメイクに時間を費やし
可愛い自撮りが撮れるよう
角度やポーズ、そして表情を研究した。

好きな人ができたら
積極的にアピールした。
彼氏ができると全力で尽くした。

でもそんな私に待っていたのは
「重い」
「うざい」
という言葉達だった。

派手な見た目と
出会ってすぐの積極的なアピールが
軽い女というイメージを与えていた。
でも実際の私は重かった。
私は寂しがりで甘えん坊だった。
常に愛を表現してもらえないと
不安だった。

何でも素直に伝えるのではなく
駆け引きをするように
友達にアドバイスされても
私にとってそれはとても難しかった。
自分の気持ちを隠して
相手に追いかけさせる事は
私を不安にさせた。
試すようなことをすれば
みんな離れていくと思った。

自分に価値がある事を
自分自身が信じられていなかった。
「好き」という言葉で
私に価値があると証明してほしかった。

私を愛し、必要としてくれる彼を
求め続けた。
私の心の中には
友達や家族の愛では埋めきれない穴があった。
「誰かのオンリーワン」になりたかった。
選ばれたかった。

長続きしない交際を繰り返すうちに
私はどんどん自信を失っていった。
私を本気で愛し、大切にしてくれる彼は
何処にいるのかと
泣いて求めることも減っていった。
そんな人はこの世の中にはいないのだと
自分に言い聞かせるようになっていった。

体の関係を求められることだけが
自分の価値を裏付けしてくれた。
たとえその時だけでも
求められることで安心できた。

体を重ねながら
虚しさに涙が止まらない時もあった。

それでもそれにすがるしかなかった。

必死に人々からの愛を求めるうちに
人をたくさん傷つけた。
裏切られたことも
裏切ったこともある

傷つけたいとまでは思わなくとも、
傷つけると分かっていながら
犯してしまった過ちもあったし
思いがけず傷つけてしまった事もある。

人を傷つけたと気づいた時には
決まって自分を呪った。
人を不幸にする自分なんて
生きている価値が無いと思った

私は今日もたくさんの悲しみと
自分に対する怒りを抱えている。
変えられない過去に囚われて
自分自身を愛し、信頼できないでいる。

私が幸せな人生を送るには
自分も人も赦すことが必要なのだと
私は知っている。

でも私には
幸せな人生を送る資格などない

自分を許してしまえば
また同じような過ちを繰り返して
大切な人を傷つけてしまう

人を傷つけることと
人に嫌われることが
怖くて仕方ない。

犯してしまった過ちを
取り消すことができないのなら
自分を過去に縛り付けて
苦しみ続けることが
私に唯一残された
償いの方法なのだ

私が幸せになってしまえば
私が傷つけた人達は
みんな怒り狂うに違いない。

私は幸せになってはいけない

幸せになりたいと願うことは
あってはいけない 

忘れてはいけない。
愛される、必要とされる私でなければ
存在する価値も、意味もないのだ。

せっかく手に入れた
私を愛してくれている人達に
愛され続けなければいけないし、
必要とされ続けなければいけない。

もう誰も不幸にしてはいけない。

そのためには
決して忘れてはいけないことがある。
自分よりも人を最優先すること
人を傷つけないよう細心の注意を払うこと
人が求めている私を演じ切ること
それができれば私は
この世に存在することを許される。

もう間違えてはいけない

可愛く、優しく、
太陽のように明るくあたたかい
そんな私でいなければ。
みんなが聞きたい言葉だけを
発する私でいなければ。

諦めることも
投げ出すことも
許されはしないのだ。

少しでも愛され、必要とされる努力を
やめてしまえば
たちまちみんな私から離れていって
私が存在する意味も、価値も
跡形もなくなくなってしまう。

いつか息を引き取るその日まで
できる限りたくさんの人達に
愛され、必要とされる存在にならなければ。
私が生まれてきたことに、
私という存在に
意味を持たせ続けるにはそれしかないのだ。

拙い文章を最後まで読んで読んでいただきありがとうございます!感想を聞かせてもらえると嬉しいです!