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今だからわかることがある

いま話題の映画というと、まずは宮崎駿監督の新作アニメで、それから「インディー・ジョーンズと運命のダイヤル」あたりだろうか。

どちらもネット上で意見が飛び交っている。みな旬の話題については語らずにいられないのだろう。

「井上尚弥 v.s.フルトン」も同じ扱いだったし、今ならビッグモーターもそうなのだろう・・などと知った風に書いているけどじつはビッグモーターがなんなのやらわからず、なんとなく書いている(汗)。

時間がたつと見えてくるものもある

旬なネタについて考えるのも大事なことだけど、時間をおいてみて初めて分かることもあるわけで、映画もそうだ。

しばらく前に『パルプ・フィクション』(1994)を見直してみたけど、公開当時は何とも思わなかったが、いまになればアメリカの「終わりの始まり」を告げる作品のように思えてならない。

そんなこんなで2週間ほど前に『ブレードランナー2049』(2017)を見た。6年前の映画なので、古いとも新しいとも言えないはずだが、その後世界には大きな断層が生じた。

コロナがあり、ウクライナ戦争があり、2017年は近いようで遠い。

多くの感想

(この先ネタバレがあるので、直前になったら警告します)

さて、この作品は、多くのブロガーが

凡作とは言えないが、名作とも言えない

という評価をしているようだ。欠点は主に、

・要素を盛り込みすぎ
・ラストで回収できていない

といったところで、見た直後はぼくも似たような感じを抱いた。

膨大なスタッフの労力と巨大な製作費が投じられ、細部まで作りこまれていて感心するんだけど、物語があいまいに終わっている感は否めない。

ただし、ブロガーのほとんどは2017年公開当時に感想を語っているわけで、2023年に見ると感じ方はやや異なる。

大きな物語ばかりの今

現在、世界では、「大きな物語」が幅を利かせている。

これから世界は多極化していくのか?
気候変動はどうなるのか?
世界政府の樹立を目指す勢力は存在するのか?
UFO情報は開示されるのか?
社会はAIに管理されてしまうのか?

などなど。

この作品の大きな物語

『ブレードランナー2049』にも大きな物語は存在する。

この作品の世界では、人間とレプリカントと呼ばれるアンドロイドが共存しており、両者は区別をつけるのが不可能なほど酷似している。ちがいは、人の胎内から生まれるか、工場で作られるかだけだ。

工場で作られたレプリカントも生い立ちの模造記憶を植え付けられているので、じぶんでも人間なのかアンドロイドなのか、ホントのところはわからない。一度出来上がってしまえば、違いを見分けることは難しい。

にもかかわらず、人間とアンドロイドには越えられない壁があり、人間が管理者で、レプリカントは奴隷なのだ。このあたりは、アメリカの奴隷制度をほうふつとさせる。

物語の発端

しかし、そんな未来世界において、どうやらアンドロイドが人間の子供を産んだらしい、ということが判明する(まだネタバレしていません)。

そういう子供がいると人間とアンドロイドの区別がつかなくなり、社会は混乱するので、政府はその子の抹殺を狙う。

しかし、抑圧されているアンドロイド勢力は、その子どもを旗印にして解放の革命を起こそうと狙っている。つまり、

人間が社会の支配者で、アンドロイドは奴隷である

という政府の大きな物語に対して、

人間とアンドロイドにちがいはない

という反政府勢力の大きな物語が対抗し、覇権を争っている状態だ。

これはかつてアメリカの白人優越思想に対してアフリカ系の公民権運動が起こったのと似ているし、現在LGBTQの運動が起こっているのとも似ているし、ウクライナ戦争をきっかけに、欧米中心の世界観とそれに対抗する結集軸が生まれているのとも似ている。

さて、ここからがネタバレ

それでこの映画が最後どうなるかというと、主人公は、どちらの側にもつかない。ラストで彼は「政府 vs 反政府勢力」みたいな図式そのものを放り出し、悪者も倒さず、正義も行わない。

命をかけて行方をくらまし「親と子を再会させる」ことだけを考える。

このあたりが尻切れトンボといわれるゆえんだが、2023年になってみれば、これはこれで味わい深くていいんじゃないかとぼくは感じる。

物語を回収できていないと言われればそうだし、2017年ならぼくも不満を覚えたかもしれないが、2023年の世の中では、世界の行く末を論じる人がやたら増えて、けっこううんざりだ。

なので、政府だの、反政府だのを放り出した主人公の、

小さな終わり方

に共感してしまう。前作『ブレードランナー』もそういう終わり方だった。欠陥と言われるそのラストを見るためだけでも、見直したいと思ってしまう。

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