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ゲーム音楽を深く楽しむための豆知識・文献リスト

自分用のメモついでに、僕の長年の趣味であるゲーム音楽について、深く楽しめるようになるための文献をいくつか紹介したいと思う。なお、この記事ではあくまでゲーム音楽の文化的側面・歴史的側面に焦点を当てたいため、作曲法に関する文献などについては扱わない。


ゲーム音楽を楽しむために

文献紹介の前に、ゲーム音楽をより楽しむために知っておいた方がいいと思われる事項をまとめておく。すでにゲーム音楽ガチ勢の人や特に興味がない人は読み飛ばしてOK。


①ゲーム音楽はプログレッシブ・ロックから大きな影響を受けている。

『ファイナルファンタジー(FF)』の植松伸夫や『聖剣伝説』の菊田裕樹はプログレッシブロック(プログレ)のファンである事を公言している。『Tales of』の桜庭統はプログレバンドを経験済みのキーボーディストだ。

植松作曲の『Force Your Way』(FF8) や『妖星乱舞』(FF6) などの戦闘曲からはEmerson, Lake & Palmer (ELP) のシンセの音やプログレ特有の長大な曲構成(1曲20分とか)などの影響がみられる。菊田作曲の『危機』(聖剣伝説2) は五大プログレバンドYesの『Close to the Edge(邦題: 危機)』(1972) のパロディだろうし、『子午線の祀り』(聖剣伝説2) での変拍子の多用もプログレ由来だろう。

もしプログレを一度も聴いたことがなければ、ELPの全盛期時代の『Tarkus』(1971) や『Brain Salad Surgery』(1973) 、最近なぜかTwitterでミーム化しているYesの『Fragile』(1971) 、それからPink Floydの『Atom Heart Mother』(1970) や『The Dark Side of the Moon』(1973) あたりを履修しておくと、ゲーム音楽の源流を知る事ができ、ゲーム音楽の深みに気づけるだろう。


②ゲーム音楽はチップチューンに大きな影響を与えている。

ある事柄の歴史的意義を語るには、「それが何から影響を受けたか」という問いとともに、「それが何に影響を与えたか」という問いが不可欠だ。

チップチューンという音楽ジャンルをご存知だろうか。簡単に言うと、レトロPCやレトロゲーム特有の「ピコピコ音」を使った音楽の総称だ。古い機器や音源を使って、新たな音楽を生み出したいという奇特な人達によって生み出されたものだ。

後に紹介する『チップチューンのすべて』という本の最初の章の一部は、ゲーム音楽の歴史に当てられている。チップチューンの発展の背景にはそれまでのゲーム音楽の蓄積があったからだ。

正直な所、僕はチップチューン自体についてはよく知らないので、詳しい解説はより相応しい人に譲る。


③スマブラはゲーム音楽に親しむにはうってつけである。

大乱闘スマッシュブラザーズ(スマブラ)というゲーム自体豪華だが、スマブラの音楽面の豪華さは計り知れない。曲数の多さは勿論、なによりアレンジを担当するメンツは参戦キャラクター達と同じくらい豪華だ。名だたるゲーム音楽家(ゲーム音楽のクリエイターをこう呼んだりする)が名を連ねている。

アレンジの方向性も多様で、それぞれの個性や"クセ"が出ているのも面白い。伊藤賢治アレンジの『攻撃』(出典: ファイアーエムブレム 烈火の剣) では、ロマンシングサガなどBGMにみられる特徴的なドラムのリズムが楽しめ、なるけみちこアレンジの『時のオカリナメドレー』(出典: ゼルダの伝説 時のオカリナ) では、ワイルドアームズやノーラと刻の工房のBGMにみられる牧歌的な曲調が味わえる。

気に入った曲があったら、サウンドテストに行って編曲者の名前を調べて、実際にググってみよう。「え、この人あのゲームの音楽担当だったのか」となること請け合いだし、作品間の音楽的な繋がりが感じられて面白いだろう。

便利なサイトを見つけたので紹介しておく。



邦書

さて、ここからはゲーム音楽に関する文献をサラッと紹介する。雑誌など細かなものを除けば、ゲーム音楽関連の邦書は恐らくこれで全部だと思う。なお順番は適当なのであまり意味はない。


①ゲーム音楽史

ゲーム音楽の通史を扱ったものだが、評判が大変悪い本。歴史的事実の誤認も多いと言われている。音楽についての記述もかなり主観的で、正直あまり参考にはならない。

一方で、音源に関する説明はなかなか詳しい。そこら辺について知りたい人はこの本のその部分だけ読むといいだろう。


②チップチューンのすべて

先ほども述べた通り、最初の章に「チップチューン前史」としてゲーム音楽の歴史が述べられている。文体が大仰で多少読みづらいが、日本語で読める最も正確なゲーム音楽の通史だと思う。

音源の説明にも紙面が割かれており、ある意味『ゲーム音楽史』とは補完的な関係にあると言える(この本の著者は『ゲーム音楽史』批判者の筆頭だったので、本人は否定するかもしれないが)。


③ゲーム音楽ディスクガイド

『チップチューンのすべて』の著者監修の、最近発売されたゲーム音楽のハンドブック。ゲームのサウンドトラックのジャケットがずらりと並べられている図鑑となっている。一つ一つ簡単なコメントがついており、コンパクトで読みやすい。暇な時に眺めるのにいいだろう。


④映画音楽からゲームオーディオへ

前半は映画音楽、後半はゲームオーディオ(効果音を含む)を扱っている。いくつかのゲームを取り上げて、BGMを楽譜に書き起こしその構成やインタラクティブ性についてかなり本格的に分析している。恐らく本邦唯一のゲーム音楽の専門書だろう。


⑤ファミ通 2019年8月15日増刊号

1600号記念としてゲーム音楽を特集している。が、「あの曲いいよね」レベルの話が半分くらいで、はっきり言ってあまり中身はない。インタビューの相手は豪華なので、ゲーム音楽に関わる人々の事を知りたい場合はこちらを読もう。


以下、僕が直接中身をみていないものを並べておく。

⑥ゲーム音楽大全 / ゲーム音楽大全Revolution


⑦ゲームの新時代

『チップチューンのすべて』の著者が寄稿している。


⑧古いもの

公式サイトが見つからなかったので、Amazonのリンクを張っておく。


戸塚義一(1999)『ゲーム音楽』(EXCEED PRESS POP CULTURE SERIES - MUSIC)エクシードプレス.

そうだ、ゲームミュージックを聴こう!』(2002)G‐trance/罰帝監修, マイクロマガジン社.

ソフトコミュニケーションズ編(1993)『ゲーム・ミュージック大事典』JICC出版局.



洋書

ゲーム音楽に関する洋書は邦書よりもずっと豊富で、学問分野として確立している。あまりにも多いので極一部だけ紹介する。また、洋書では特にゲーム音楽の作曲法に関する本が多いが、今回は扱わない。なお、僕は時間的・金銭的制約からどれも読んだ事がない(言い訳)。


①Game Sound: An Introduction to the History, Theory, and Practice of Video Game Music and Sound Design

MIT Pressから出版されているゲーム音楽の教科書。Google Scholarで500件近く引用されており、ゲーム音楽を勉強する人には必読の書だと思う(読んでない)。この著者はゲーム音楽関連の著作が多く全部あげるのは面倒なので、詳しくはこちら(Google Scholar)を見てください。


②Sound Play: Video Games and the Musical Imagination

Oxford University Pressから出版されているゲーム音楽の教科書(2冊目)。Amazonの評価は高め。Google Scholarで60件ほど引用されている。


③Game Sound Technology and Player Interaction: Concepts and Developments

IGI Globalから出版されているゲーム音楽の教科書(3冊目)。Google Scholarで50件ほど引用されている。著者の業績はこちら


④The Beep Book: Documenting the History of Game Sound

総勢84名(!)のゲーム音楽家たちのインタビュー集。インタビュアーは『Game Sound』の著者。ドキュメンタリー映画でもあり、カナダで放映された。


⑤Understanding Video Game Music

Cambridege University Pressから出版されているゲーム音楽の教科書(4冊目)。レビューによると、音楽理論の枠組みからゲーム音楽をとらえなおす試みをしているらしい。

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