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詩から「ことば」の力を考える─afterward 松浦寿輝

このところ、詩の良さに目覚めつつあります。
以前は、読んでも情報として汲み取れない所が多くて、
これって何のために読んでるんだっけ?と思ってしまう節があったのです。
けれども、この本は、エッセイと小説を行き来する超短編集的な読み味もある詩集で、詩の世界への飛び込み方を教えてくれました。

今日の感想は、松浦寿輝著「afterward」です。

ことばで幽体離脱する

この作品集を読んでいると、現実から遊離されていく感じがあります。
幽体離脱しているみたいな、ふわっとした感覚です。
それをもたらしているのは、主体と客体の自在な操作と、
精密な言葉で描かれる不安定な時空表現によるワープ感だと思います。

「きみ」と「犬」が作る不思議な世界

第一部では、しばしば「きみ」と「犬」が出てきます。
「きみ」は、内容としては、著者のことを指しているように思えます。
ところが、意味としては読んでいる側を指しているため、主観と客観が曖昧になるのです。
これによって、著者の感じている、とても繊細な言語世界を追体験することになります。
前段で、幽体離脱しているみたいな、と書きましたがまさに、読んでいる人の意識が遊離して、著者の意識と同化していくような感覚です。

「犬」は、いつも近くにいて、「きみ」を見つめて来ます。
著者と「きみ」の関係に導入された「犬」によって、
言葉の世界がより具体的になっていきます。
「きみ」を媒介して著者に飲み込まれた読者が、「犬」に見られている。
見ている存在があるのだから、それはもう在るということ。

この「きみ」と「犬」の仕掛けは、すべての作品に適用されてはいませんが、第一部の最期の詩で回収されて、やはり大きなテーマになっていることがわかるようになっています。

ワープしたいときに読む

文字を追っていくことで、これほど不思議な体験が出来ると気づくと、
詩って面白いな!とやっと追いつけたように思います。
そして、削ぎ落とされた表現になっているので、一語が持つパワーが強く、
読む時のスピード感や精神状態によって毎回違った体験になります。
この特徴のお陰で、何度も同じ作品を楽しめます。
この本は、普通に通読すると30分もかからないような分量です。
時々、仕事に疲れて、頭をリセットしたいなと思ったら、
違う世界に連れて行って貰おうと、開いて読んでいます。

そしてそのたびに、ことばの力に、驚かされます。
体はこの部屋から一歩も出ていないのに、ちゃんとワープさせてくれます。
体験したことのない空間の情報が、頭の中に構築されていきます。
自分で考えたことのない思考が、頭の中に構築されていきます。
気がつくと時間を忘れてどんどんページを進めていって、
読み終わると、見えないシャワーを浴びたような開放感が得られます。

抽象化された人生

全体として、暗い雰囲気は漂っています。
実際、表題になっているafterwardという作品は、
3.11の経験を直接的に表現し、人生の「その後」ということについて掘り下げていくものであり、その感覚は他の作品にも通底していて、
どこかに迷い、何かを探し続けているような印象を受けます。
でも、ところどころには自分を奮い立たせるような熱い詩も挟まれたりして、何だか、まさに人生だなあと思うのです。

だからこれは、幻想的でありながら、現実逃避ではないのです。
現実を幻想的に捉えて、この世界の本質を探しているのです。
これからも、この本の世界の見方にお世話になりそうです。

ここまでお読み頂きありがとうございました。


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本の基本情報

afterward
著 松浦寿輝
出版:思潮社

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