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909回目:【心理】行動経済学〜プロスペクト理論〜

2024年03月08日の備忘録

今回勉強するのは、「意志決定の心理学」で、行動経済学者で認知心理学者ダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」という本を題材に勉強していく。行動経済学とは、著者ダニエル・カーネマンが、心理学者でありながら、本書のメインテーマの一つである「プロスペクト理論」という理論で、ノーベル経済学賞を受賞したここ最近の新しい分野の学問である。言うまでもなく、本書は多くの意志決定の心理学の参考文献としてもあげられており、いかに、「合理的な判断をしていると自分で思っていても、実際は、全く合理的な判断なんてしていないものである」がわかる本。

【1】「システム1」と「システム2」

質問①:バットとボールは合わせて1ドル10セントです。バットはボールより1ドル高いです。ではボールはいくらでしょう?

きっとのあなたの脳裏には「10」と言う文字が走ったことだろう。人間の認知の仕組みには2つのシステムが存在する。

  • システム1(早い思考=ファスト)

  • システム2(遅い思考=スロー)

システム1は「直感的」「早い」「簡単な」思考をつかさどる。この高速の思考はとても優秀で、「1+1」の答えを一瞬にして導く。更に、ドアを開けた瞬間静まり返る部屋、そして直感で気がつく。「俺の話してたな」と。また、電話で上司の声を聞いてこう思う。「お!今日は機嫌良さそうだな!」と。このような、高速で直感的に、そして簡単な判断をするのが「システム1」。もはや、「無意識」「反射」の域に達する。

一方で、「熟考的」「遅く」「複雑な」思考をつかさどるのがシステム2。「17✖️24」の答えが一瞬で出せず熟考したり、複雑な論理をじっくり考えたり、慎重に申請書に書いたりする時に発動される思考だ。

【1-1】人間の本能的には「システム1」優勢 

この2つのシステムには、さらに大きな違いがある。それは「システム1」は常備活動態勢になっているにも関わらず、「システム2」は怠け者であること。システム2は、意識しないと発動されない。ここが、この本が言いたいことのようだ。「実際、深く考えて判断するべきところなのに、システム1で、答えを即座に導いた結果、自分は合理的に判断したと思っていても、実は間違っている」ということが、脳の構造上起きる。「よくよく考えてみたら、それ違う」というケースだ。

最初は自分は「合っている」と思って判断した。しかし、よく考えてみると違った。その現象は、脳の構造上の問題だった。

【1-2】答え合わせをしよう。

質問①:バットとボールは合わせて1ドル10セントです。バットはボールより1ドル高いです。ではボールはいくらでしょう?

この答えは「0.05ドル」つまり、5セントだ。
X +Y=1.1ドル/X-Y=1ドル 
2Y=0.1ドル 
Y=0.05ドル

この問いを聞くと一瞬10セントと頭をよぎる。それは「直感」つまり「システム1」が優勢に動いたためだ。でも、よくよく考えてみると答えは違う。そこで使われた思考が「システム2」。一瞬で判断する「システム1」と、意図的に発動される「システム2」。そして、結果的に「システム1」で出した答えは間違ってて、熟考した結果があっていた。この問題に「5セント」と答えた人は、システム2で「熟考」したと思う。

直感に従った動きにとらわれ、良く考えたら間違うことが理解できた。これが人間の認知の仕組み。「システム1」が優勢。直感で決めてしまう、まさにその瞬間、間違いが起こる。そして、タチが悪いことに、本人は合理的な判断をしたと思っている。

【2】プロスペクト理論〜損失回避性〜

【2-1】質問です。

質問②:どちらを選びますか?

A) 確実に900ドルもらえる
B) 90%の確率で1000ドルもらえる

質問③:さて、もう一問。どちらを選びますか?

A) 確実に900ドル失う
B) 90%の確率で1000ドル失う

【2-2】プロスペクト理論

プロスペクトとは、英語のProspectのことであり、期待や予想、見込みなどのニュアンスを持つ。「プロスペクト理論」とはリスクを伴う状況下での判断分析として、本書の著者ダニエルカーネマン氏らが1979年に公表した論文のタイトル名。

論文発表後、プロスペクト理論は行動ファイナンスや行動経済学と呼ばれる心理学の要素を応用した新たな経済学の分野を切り開き、カーネマン氏は2002年心理学者にも関わらず、ノーベル経済学賞を受賞した。プロスペクト理論により、従来の投資効用理論では説明のつかない投資家の判断行動が現実に即した形で解明された。

結論から言えば、投資家は収益よりも損失の方に敏感に反応する。つまり、収益が出ている場合は損失回避的な利益確定に走りやすい。一方、損失が出ている場合は、それを取り戻そうとしてより大きなリスクを取るような投資判断を行いやすいとされる。 これをプロスペクト理論の「損失回避性」といわれる。

【2-3】質問を分析する

質問②の答えは、多くの人は、「確実な利益」を求め900ドルをゲットする選択肢を取ったことだろう。その一方で、多くの人は「確実に900ドル失う」よりも、「90%の確率で1000ドルを失う」方を選ぶ傾向が強いとされている。

この「ねじれ現象」がプロスペクト理論の真髄だ。本来「論理的な人」であれば、「確実に利益」もしくは、「確実に損」を選ぶはず。一方で、「ギャンブラー」は、「90%の確率で1000ドルの利益」もしくは、「90%の確率で1000ドルの損」を選ぶはず。

だか、これが捻れる。ここがプロスペクト理論。「利益」は「確実性」を求め、「損失」は「ギャンブル」を選ぶ。損失を絶対したくないという心理は、「儲けたい」という気持ちよりも衝撃が大きい。つまり、

「儲かった」<衝撃度<「損した」

ってことだ。その感情の振れ幅を表したのが下のグラフ。

これは、金融、商売、投資、ギャンブルなど、至る所に応用できる人間の真理をついた理論。

【2-4】プロスペクト理論から言えること

ここから何が言えるかっていうと、「人間は損を確定させることが本能的に大嫌い」ってことだ。「損確定」の判断が出来ない。

ビジネスの上では、「損切り」ができない。利益に対しては、ギャンブルしないで確実を狙いに行くのに、損に関しては確実を狙わずにギャンブルを狙う。「損」を確定させようもんなら、より良くなる可能性を信じ、「損」が最小化するように粘る。投資の上では、株価が下がって含み損が出ている時、「損切り」出来ない。もっと上がることに期待して「ステイ」を選択。結果的にもっと損する。FXやギャンブルで負債が大きくなるのは、この人間の心理「プロスペクト理論」で説明できる。

【2-5】プロスペクト理論を用いたマーケティング

プロスペクト理論を用いたマーケティングとして考えられる商売は、例えば「制限付きポイント付与」だ。

サイト会員に対して、誕生月のみ使える1000ポイントを付与する場面を想定してほしい。サイト会員にとって、1ヶ月以内に使用しなければ1000ポイントを失うことになる。ただし、サイトの商品平均単価は3000円前後だとする。もらった1000ポイントを使って買い物をすると結果的に2000円失うことになる。合理的に考えれば買い物をする方が失うものは大きいのは誰だって分かるのだが、

「1000円安く買える権利を失うリスク」
「3000円の損失を2000円で済ませられる価値」

を強く訴えることで、会員は自然と購買行動を起こしてしまう。プロスペクト理論では、1000円の利得を失うデメリットよりも、損失を1000円抑えられるメリットの方が大きいと考えられる。したがって「制限付きポイント」をサイト会員に配布する際は、この権利を失うことのデメリットと、この権利で損失額を減らせることのメリットを強く訴えると良い。人間にはプロスペクト理論が備わってるからだ。この他にも「期間限定セール」や「閉店間際の半額シール」も、プロスペクト理論を活用したマーケティングだ。

【3】まとめ

行動経済学者で認知心理学者ダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」


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