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881回目:【ESG】インドの綿花栽培事情

2023年11月24日の備忘録


インドのコットン産業

インドには綿花農家が約580万人存在し、さらには国内人口の約3.7%に当たる5,100万人が綿糸や綿織物の生産など、綿花に関連する産業に従事している。また、インドは綿花の栽培面積が世界最大の国でもある。綿花栽培が盛んな地域は主にインド西部にある9つの州であり、北部、中部、南部の3つに分類されている。2018-19年の統計によると、インド国内ではグジャラート州の生産量が最大で、 マハーラーシュトラ州とテランガーナ州が続いている。この3州の生産量だけでインドの綿花生産の約62%を占めている。


最強種BTコットン

インドは世界最大の綿花生産国であり、その生産量は世界の約25%を占める。近年、インドの綿花栽培において、遺伝子組み換え綿”BTコットン”が2000年代に急速に普及した。BTコットンは、綿花の害虫であるコットンバッドワームに対して、抵抗性を持つように遺伝子組み換えされた綿である。そのBTコットンを開発したのは、アメリカのモンサント社だ。(現在、モンサント(Monsanto Company)は、かつて存在した、アメリカの多国籍のバイオ化学メーカー。2018年6月にバイエルによる買収・吸収が完了し、モンサントの企業名は消滅した。

モンサントが犯した大罪

モンサント社は、BTコットンの開発と販売を主導する企業である。モンサントは、BTコットンの普及により、インドの綿花生産量の増加と農家の収入の向上をもたらすことができるとして、インド政府や農家に対してBTコットンの導入を積極的に推進してきた。しかし、BTコットンの普及に伴い、さまざまな問題が浮き彫りになった。

1. 農家の借金問題

BTコットンは、通常の綿と比べて種子や農薬などのコストが高額である。そのため、BTコットンを栽培する農家は、多額の借金をして種子や農薬を購入しなければならない。もし、収穫量が期待通りに伸びなかった場合、農家は借金を返済できずに、貧困に陥るリスクが高まる。実際、インドでは、BTコットンの普及に伴い、農家の借金問題が深刻化している。2019年には、インドの農家全体の借金は約3兆ルピー(約4兆円)に達し、そのうちBTコットンの借金が約1兆ルピー(約1兆3千億円)に上ると推定されている。

2. 農薬の使用量の増加

BTコットンは、コットンバッドワームに対して抵抗性を持つように遺伝子組み換えされているが、他の害虫や病気に対しては抵抗性を持っていない。そのため、BTコットンを栽培する農家は、コットンバッドワーム以外の害虫や病気が発生した場合、従来の綿と同じように殺虫剤や農薬を使用しなければならない。しかし、BTコットンの普及に伴い、コットンバッドワーム以外の害虫や病気が発生するリスクが高まっている。その結果、農薬の使用量が増加し、環境、及び農家の出費に更なる影響を与えるようになった。

3. 地獄のスパイラル

インドのコットン農家の平均耕地面積は約1〜2エーカー(1エーカー=サッカーコート1.25倍)であり、その多くは小規模農家である。そのため、生産量が少なく、収入も安定しない。そのため、その日暮らしの生活をしている。そのため、「収穫量」にしか着目していない。つまり、モンサント社のBTコットンを栽培すれば、収穫量が増えるため、農家は皆BTコットンの栽培に飛びついた。結果、インドの農家の90%まで普及した。

BTコットンが普及すると、BTコットンの種子や農薬の販売価格を高く設定し始めた。また、農家から殺虫剤の需要が高まり、BTコットン用の殺虫剤を販売する。暫くすると、殺虫剤に耐性を持つ害虫が生まれてくる。すると、モンサント社は、更なる新種の殺虫剤を発売し農民に販売をする。農民は収穫量が高いBTコットンからは抜け出せない為、モンサント社の殺虫剤を購入する羽目になる。これが、モンサント社のビジネスモデルだ。結果的に、農家は収穫量が高くても、BTコットンの種子や農薬を購入する為に借りたお金が返せなくなるわけだ。

今後の課題

インドの綿花栽培における遺伝子組み換え綿BTコットンに関する問題は、今後も解決が求められる課題である。解決策としては、有機栽培(オーガニック農法)に切り替えることが挙げらる。

有機農法(オーガニック農法)の良し悪し

オーガニックコットン農法では、農薬や化学肥料の使用を抑制するため、土壌や水質の汚染を防ぐことができる。また、化学物質の使用を減らすことで、農薬や肥料の製造・使用に伴う温室効果ガスの排出量を削減することも期待できる。さらに、農薬や化学肥料の使用は、生産者の健康を損なうリスクがあるかが、オーガニックコットン農法では、これらの使用を抑制することで、生産者の健康を守ることができる。

一方で、オーガニックコットン農法は、通常のコットン農法に比べて、栽培や加工に手間がかかるため、価格が高くなる。さらに、農薬や化学肥料の使用を抑制するため、収穫量が通常のコットン農法に比べて少なくなり、農家にとっての収穫量が減ってしまう。

今日は、インドを取り巻くBTコットンの問題点に着目してみた。

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