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【傑作インディーゲーム感想】「プレイヤーのまばたき」で物語が進む「Before your eyes」に、究極の没入感の一端を見た


プレイヤーと主人公が同期するという究極の没入感
今年のベストインディーゲーム候補


ゲームはコントローラーを使うもの。
ゲームはキーボードとマウスを使うもの。
ゲームはスマホ画面をタッチするもの。
ゲームはVRヘッドセットをかぶり、専用機器を動かすもの...。

今やゲームをプレイするには、多種多様な操作方法が存在します。
そして、どの方法も、プレイヤーが画面に映ったキャラクターを動かしたり、セリフを送るという作用を生み出し、ゲームが進行します。
ゲームの中のアイテムを掴むのであれば、「アイテムを掴む」というボタンを押したり、マウスをクリックしたり。もちろん、プレイヤーが自分の手で画面の中のアイテムを掴むことは出来ません。現実とゲームの世界は別ですから、現実の人間の行動を、コントローラーやキーボード、マウスなどを用いてゲームの中の行動に「変換」しているのです。
これはVRでも変わりません。視覚的にゲームの中にいるように感じられても、手元で操作するというのは変わりません。

一方、プレイヤーがWiiリモコンを振ることが、剣を振るという行動に同期される「ドラゴンクエストソード」など、ゲームの中の行動を疑似体験するようなゲームも時折存在します。それはただのシステムではなく、プレイヤーの感情移入や体験の感動を増長させる効果に繋がっていると考えます。



今回紹介する「Before Your Eyes」というインディーゲームは、ゲームの操作方法に「まばたき」を組み込んでいます。
操作方法は、マウスにて視点の移動、プレイヤーのまばたきのみ。まばたきが、クリックや決定ボタンの代わりとなっています。

ゲームは最初から最後まで一人称視点で進みます。物語は自動で進み、ときおり画面内にメトロノームが表示される場面が出現。その場面に差し掛かった時点で一時的にゲームの進行が止まり、プレイヤーが「まばたき」をした時点でゲームの進行が再開します。

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「まばたき」の認識には、WEBカメラを使います。WEBカメラがプレイヤーの、顔を認証し、目とまばたきを把握しているのです。



物語

物語については、Steamのストアページから引用します。

『Before Your Eyes』は魂が死後の世界へと旅するストーリーが語られるファーストパーソンのナラティブアドベンチャーゲーム。まばたきを使った、新たな革新的なインタラクション形式です。
ストーリーは、主人公の死後、さまよう魂を死後の世界へといざなう謎めいたフェリーマンの船に乗ったところから始まります。無事に死後の世界に行くためには、フェリーマンに人生のストーリーを伝えなければなりません。そしてそのためにフェリーマンは、あなたを人生の大事な瞬間へ送り、記憶を取り戻させます。

つまり、主人公は死んでしまったのです。フェリーマンとのやり取りを聞くと、どうやら主人公は魂だからか口も無いようで、コミュニケーションの手段がまばたきだけなようです。
だからこそ、まばたきがゲームの操作方法になる。ゲームの体験を高める理屈はあっています。

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過去を思い出す物語
そしてもうひとつ。フェリーマンは主人公:ベンジャミン・ブリンの人生を「門番」に伝えるため、ブリンに対し「過去を思い出して自分に話してくれ」と言います。門番の心を動かす話が出来れば、フェリーマンは大金を得ることができ、ブリンは...おそらく死後の世界で平穏に暮らせる、というようなメリットがあるようです。

そのため、フェリーマンは「門番の心を動かすような人生の話が出来るよう、ブリンに過去を追体験させる」のです。
そしてそのような説明をフェリーマンから受ける中で、ひとつの注意事項があります。

「どれだけ思い出した過去の記憶が気に入ったとしても、そこに留まることは出来ない。まばたきをする度に時間は先に進む。1秒後か、5年先かもしれない...」

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まばたきは止められない=ゲームの進行を止められない

このゲームの最も重要な点のひとつが、そこにありました。
「まばたきは、抗えない」というところです。
例えば、コントローラーのボタンを押すとか、マウスをクリックすることで先に進むようなシステムであれば、上記のフェリーマンの説明が少し弱くなります。「留まることは出来ない」と言いつつ、ボタンを押さなければずっと過去の記憶に留まれてしまうような体験が成立してしまうのです。

一方でまばたきは、我慢できません。我慢しても限界があります。それは、自分の意志に反するものです。つまり、「もっとこの記憶に留まりたい。幼少時に愛情を受けて育っている記憶や初恋の思い出、そんな思い出に留まっていたい」と思っても、まばたきをしてしまえば次のシーンに移ってしまいます。まばたきという抗えない生理的な行動だからこそ、半強制的にゲームが進行してしまうのです。

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この抗えなさは、もちろんプレイヤーが自分のペースでゲームを進められないという不満に繋がります。「もっとキャラクターの話を聞きたい」という気持ちがあったとしても、まばたきをしてしまい次のシーンに飛んでしまう、という事態が発生します。
私自身、メトロノームが表示された場面でのキャラクターの話を聞きたかったのに、つい無意識にまばたきをしてしまったせいで、次のシーンへと飛んでしまったことがしばしばありました。当然、バックログは存在しません。

それがつまり、先ほどフェリーマンが話していた「過去の記憶に留まれない」、言い換えれば「時間の進行を止めることは出来ない」ということに繋がるということです。このシステムでは、プレイヤーの「不満」は生まれるものの、「物語を体験」としての強度は非常に増しています。これは、コントローラーやマウスのクリックでは代替できません。まばたきであるからこそ...つまり生理的に抗えず、コントロール出来ないからこそ「あっ、もっと話を聞きたかったのに、もう過ぎ去ってしまった...」という、もどかしさと寂しさ、そしていくばくかの「まばたきをしてしまったという後悔」を生じさせるのです。

まばたきの用途としては、二つの選択肢に対し、どちらを見てまばたきをするかで返答を変えたり、また絵を描くなど行動の選択としてまばたきを用いることはありますが、そこはゲームのメイン要素とまではなりません。やはりマウスでの視点操作と、シーンを変える際のまばたきがメインです。

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ゲームを進めるにつれ、プレイヤーは主人公であるベンジャミン・ブリンがどのような人生を体験したかを知ることとなります。どのような両親で、どのような教育で、どのような友人が出来て、どのような大人になって...。そして、一通りの人生を追体験したところで、フェリーマンとの場面に戻ってくる...。という流れになっています。

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プレイヤーとキャラクターの動作が「一致」するという感動

これ以降の話はゲームの核心のネタバレになってしまうので控えますが、どうしても魅力と感じて伝えたいことがあるので、核心に触れない形で少しだけ話をさせてください。

主人公が死者(魂)なので、まばたきでコミュニケーションをとっているというのは、前述の通りフェリーマンとのやり取りで把握することが出来ます。

一方で、追体験している人生においては、別にまばたきである必要は無いのです。そこでは魂ではなく、人間としての思い出だからです。
しかし、物語の後半では「まばたきだからこそこの物語である」と感じるシーンが多くありました。「きっとこのシーンでは、まばたきでコミュニケーションを取るのが一番伝わるんだろう」という後半のシーンにハラハラしていたのですが、そこでハッと感じたのが「今、ゲームをプレイしている自分と、このゲームの主人公であるベンジャミン・ブリンの行動が、一致している」ということです。どちらもまばたきをしているし、まばたきをすることが、ゲームそのものおよび、ゲームの中の物語どちらにも作用し先に進んでいる、と感じたのです。その瞬間、私は完全にこのゲームの主人公になっていました。

プレイヤーとゲームの主人公の、「行動の一致」。まばたきをするという「行動の一致」。そこに、究極のロールプレイ・究極の没入感を感じました。役割を演じるどころか、動作・行動が一致することで、自分が役割そのものと一致しているような感覚です。

そしてそのような状態を体験しながら、(プレイした人はわかると思いますが)あのラストに向けた演出を体験することで、強く心を打たれました。
まばたきが徹底的に生きてくるクライマックスの演出、私は涙を止めることが出来ませんでした。

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終わりに

「まばたきがインタラクティブを担う」というある意味突飛なゲームですが、発売から10日時点でのsteam上の評価は「圧倒的に好評」です。
もちろん、ゲーム性という部分では他のゲームに比べて出来ることが少ないので、主に物語についての評価...システム2:物語8くらいの評価であると思います。
ただ、ただ、ひとつ言わせてもらうと、こういった物語はよくあります。よくありますが、この物語単体ではここまでの評価は無かったと思います。まばたきというシステムが、この物語の魅力を何倍にも大きくしていることは間違いありません。
ある意味でベタなゲームであるという感想もあると思いますが、そんなゲームもシステムひとつでこんなに革新的で魅力的になるんだと、驚いたとともに感心しました。

定価、たったの1,010円です。プレイ時間は短く、映画1本分以下なので、平日夜や休日にサクッと遊べるボリュームです。もちろん、短いゲームとはいえ、強く心に残るゲームであることは間違いありません。

目を閉じると、ゲームの画面を認識できません。だからこそ、一瞬も逃さないよう、しっかりと画面を見続けます。でも、それだけではありません。まばたきだけでなく、涙で画面が見えなくなってしまうこともある。このゲームから、それを実感させられました。そのくらい、胸を打ったのです。
このゲームに出会えてよかった、ゲームが趣味で良かった。クリア後、思わずそんな気持ちが浮かびました。

私の中では、今年のベストインディーゲーム候補です。
「Before Your Eyes」、本当に最高の作品でした。
ぜひ、ベンジャミン・ブリンの素敵な人生を体験してみてください。

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