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チャイナタウンとカナダ移民

カナダに限らず良く言われることなのですが、中国人の人ってどこに行ってもいますよね?自分はアルバータ州にしか住んだことはないのですが、とても小さな街にでも中華料理店があったり、レスブリッジという決して大きくはない街にもチャイナタウンがあるんです。(えっ?ここチャイナタウン?っていうくらい小さいけど。。。)そして、自分が今住んでいるカルガリーにもあって、カナダの主要都市には大体あるイメージ。

RETROaactive - Historic Lethbridge Chinatown now Provincial Historic Resourceより。本当に小さいLethbridgeのチャイナタウン。懐かしいなー。

でも、このチャイナタウンなんであるかご存知ですか?他の都市のことはあまり知らないので確信が持てるわけではないですが、カナダの中国人に対する人種差別的な移民政策がとても大きく関係しています。(少なくともカルガリーでは)

本文とは全く関係ないジャック・ニコルソン主演のチャイナタウン。IMDb - Chinatownより

中国人に対する人種差別の始まり

自分が知る限り、中国人に対しての人種差別がカナダで行われたのは1872年。BC州で中国人に対する選挙権を剥奪する法改正が行われました。(日本人に対しては同様の措置が1895年に行われいます)1885年に州の選挙の投票権がないカナダ市民でも、国政選挙の投票権は認めるという法律ができたものの、1920年には州の選挙権がない人は国政選挙の参加もできなくなります。これが変わるのが第二次世界大戦後の1948年。日系カナダ人の国政選挙ができるようになったのは1949年です。実に20年以上もの間国政に参加できませんでした。(BC州で言えばもっと長い。。。)もしかしたら、選挙に行かない人は選挙権を奪うこと=人種差別になるという考えに繋がらないかもしれないですが、選挙権が奪われた人たちはあくまで、中国系(もしくは、日系)カナダ人。ただ、中国や日本にルーツを持っていると言う理由だけで国政に参加できなくなっていました。国政に参加できないと言うことは政府が何を行っても、”声”を持たないので従うしかない。。。その結果、中国人人種差別は加速していくことになります。

チャイナタウンの形成

時同じくして、Chinese Immigration Actという、中国人を対象とした差別的な法律が1855年に施行されます。当時からBC州への中国人の移住が多く、Chinese Immigration Actというのはカナダに入国する中国人の数を制限することを目的として、カナダへ入国する人は1人につき$50という税金が課せられます。今の価値観で言うと$50は大したことはないかもしれませんが、当時にしてみれば大金で、この法律により家族移住が困難になり、家族が離散するというケースがとても多かったようです。(隣の国でも似たようなことをして話題になっていましたね。。。)しかし、それでも思ったように中国人の移民が減らなかったことにより、このHead Taxの額は最終的には$500という額になります。当時、鉄道での肉体労働をしていた中国人移民が多かったようですが、日給は約$1程度。(この給与も他の労働者よりも低かったとか)その中から食費などの生活費や自分の使う工具などを支払うと、ほとんどお金は残らなかったそうです。$500という額は約2年分の給料にあたるくらいの高額だったので、家族を呼ぶための節約する手段として、同じ家や近所に住んで中国人同士協力しあってできたのがチャイナタウンだそうです。カナダがHead Taxの導入より得た税収は$20M以上と言われ、現在の価値に直すと$300M以上と言われています。余談ですが、カナダの移民の歴史でHead Taxを払わなければいけなかったのは中国人だけです。しかも、過酷な労働環境で怪我や病気も絶えなかったにもかかわらず、医療を受けることすらできなかったので、当時同じく差別されていた先住民の人たちと協力しあっていたとのこと。これはカルガリーでの話で他都市では違う場合がありますが、チャイナタウンの存在は、差別に耐え忍んで異国の苦境の証でもあるのです。実際、カルガリーのSien Lok Park内には中国人労働者の功績を称えるモニュメントがあります。

Avenue Magazin - Work of Art: In Search of Gold Mountain by Chu Honsunより。ちょっと目立たないけどカルガリーのチャイナタウンの端にあるSien Lok Parkにあるから、カルガリーに来たら見てみてね。ちなみに、もう一つWall of Namesっていうモニュメントもある。

中国人の排他の歴史

Head Taxの導入でも力を合わせてなんとか家族を呼ぼうと必死にで働いてお金を払って移住する人がいたため、カナダはより厳しい移民政策を中国人に対して行います。それが100年前の1923年7月1日。俗にChinese Exclusion Actの施行です。この法律によって中国人はカナダへ移住することができなくなりました。学生や外交官などの例外はあったものの、当時出稼ぎで来ていた男性が家族を中国に残していることが多く、この法律のせいでカナダに移住できる中国人は激減し、家族を中国から呼ぶことは不可能になりました。実際、この当時の男女比は女性1人につき男性28人とかなり偏りがあったらしく、中国人は今まで以上に協力して生活することを余儀なくされます。この政策は選挙権の剥奪と同様、第二次世界大戦後の1947年まで行われました。Chinese Exclusion Actは施行されていた24年間にカナダへ移住してきた中国人の数は12人から50人といわれています。正確な人数はわかっていないものの、極端にカナダに来る中国人が減ってしまったことには変わりません。こういった時代背景から、中国人コミュニティーの結束の強さは生まれてきたのかもしれません。この差別的な移民政策についてカナダの政府が正式に謝罪したのはなんと2008年。

ちょっと画質が悪いけど、当時の首相であるSteven Harper氏が中国人に対して謝罪を行っている動画。Head Taxを払ったとされる人やその方達の家族に対して$20,000の支払いが行われました。(この値段が妥当かどうかは怪しいところ。。。)
ちなみに、カルガリーは1923年にこの法律ができるちょっと前に10 Ave SWから現在のチャイナタウンに移動しています。(きっとカルガリー住んでる人でも今のチャイナタウンが3番目の場所だって知らないよね?)鉄道を作るために10 Ave付近の土地の価格が高騰し、移動を余儀なくされたためです。そのチャイナタウンも1960〜70年代の都市開発計画により存続の危機が危ぶまれましたが、当時の中国人コミュニティーの精力的な活動によりチャイナタウンを維持することができました。本当かどうか知らないけれど、結果的にカルガリーのチャイナタウンはカナダで唯一条例により守られているチャイナタウンらしい。ダウンタウンから近いカルガリーのチャイナタウンは高層ビルを立てることもできないし、これからチャイナタウンが移動しないようにCalgary Chineses Cultural Centreもあります。コロナ禍で少し活気が無くなったような気がするけど、カルガリーに来た際は遊びに行ってみてね。

Chinese Exclusion Act 100周年で何が変わったのか?

差別的な移民政策を乗り越えるために、結束を強めた中国人コミュニティーは今でもその名残があるように感じます。(時に法に触れた結束力もありますが。。。笑)日系人とはとても異なる形でカナダでの定住を経験し、結果的には多岐にわたる分野で活躍している人を輩出している気がします。Chinese Exclusion Actから100年経った7月1日のカナダデーは、多くの人がカナダの建国を祝う日だと認識していると思います。以前から中国人差別の歴史を知る人はカナダデーを"Humuliation Day"と呼ぶことがありますが、コロナ禍では先住民族の寄宿学校の跡地で多くの遺骨が発見されたこともあり、先住民族の人たちの文化や和解(個人的にはまだまだ深掘りしたらもっと色々出てくると思うので、和解にはまだまだ早い段階だと思うけど。。。)に焦点を当てていて、カナダの歴史を振り返ると言う意味合いも強くなってきている気がします。都市によってはカナダデーのイベントなどを中止しているところも多く、カナダデーという日の意味を考えさせられます。
そんな中、今年のカルガリーは例年通りお祭り騒ぎで、ダウンタウン内各所では色々なイベントが行われていました。自分はFort Calgaryというところで終日ボランティアをしていて、その一部で中国人に対する差別の歴史や日本人の強制収容に関するパネルなども展示されていましたが、関心を持って見ている人はあまり多くなかったような気がします。確かに過去のことで、歴史ではあるんだけど関心を持っている人が少ないと言うことは、きっとこれから自分の身には起きないと思っている人が大半なんだと思います。実際、自分が過去に日本人収容についてのドキュメンタリーの上映会をした時は日本人はほとんどいませんでした。。。
日本人はあまり権利や差別というトピックに馴染みがない印象ですが、カナダに限らず世界中で起きていることなので、自分自身が被害に遭うということだけではなく、人権や差別について学んで知らないうちに他の人に対してしてしまわないようにするというのがとても大切だと思います。(自分の経験上、日本人が日本人に対しいて行う差別が一番ショックが大きいと思う)カナダの移民のことで言えば、日本人は優遇されている傾向にあるけど、どのタイプの申請にしろカナダ滞在のための移民申請の審査基準がバラバラで、場所によっては極端に承認率が低いという事実があります。Chinese Exclusion Actから100年経ってカナダが学んだことは”バレずにやること”なのかな?と思ってしまうくらい、驚くほど承認率が低い国もあると言う現実を知る身としては”いつどのタイミングで誰が差別されるがわからない”という認識は持っていた方がいいのかなと思います。しかも、移民は国による差別という圧倒的不利な条件。。。カナダにいるということは、良くも悪くもカナダの”選別”により選ばれた人たちだから、過ごしやすいと感じる人も多いのかもしれないです。(これは入国条件を満たしたという意味だけではなく、国籍やその国の政治的・経済的な要因での”選別”)カナダ政府が強制的に日本人(というか、日系カナダ人)収容していた事実を知らない人も多いし、あまり差別的な対応をされたことがない人(単純に差別に対する知識がなくて差別を受けても差別だと認識していない人も多いけど。。。)も多いのかもしれない。でも、これからどう変化するかはわからない。特に、最近は審査期間の短縮化と審査のプロセスの迅速化を進めるために、多くの申請でAIを利用しているけど、どういうアルゴリズムでどのような要因を重視しているかが公開されていないので、現在は優遇されている日本人でも一気に状況が変わる可能性がある。移民コンサルタントとして自分ができることは、承認率の低い国の人に対して、できる限りの書類を集め、過去の事例を引用してケースの正当性を証明していくことくらいなんだけど、出身国や居住国によって対応を変えたり、書類を変えなければいけないこと、そして、承認率の話をするのは正直心が痛む。これからそういうことを全員に話さなければいけないのは憂鬱だし、自分自身がこの差別的な過程の一部(実際は違うんだけど、代理申請をしていることでそう感じる)ということ自体に嫌悪感がある。IRCCがもっと平等かつ公平に審査してくれる日がくるといいんだけどな。。。そうするためには、現在のシステムを変えていかないといけないから、自分ができる限り声を上げていくしかないかな。

ちなみに、最後になってしまったけど、もう少し詳しく中国人に対する差別的な政策について知りたい方は下記のリンクも読んでみてください。
Chinese Immigration Act
Chinese Head Tax in Canada

Cover Photo by Ryunosuke Kikuno on Unsplash


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